俊恵云顕輔卿の哥に
あふと見てうつゝのかひはなけれども
はかなき夢ぞいのちなりける
この哥を俊頼朝臣感じていはくこれはむくの葉
みがきしてはなあぶらひきる御哥也。よの人
ならばうつゝかひはなけれどもはかなきゆめ
ぞうれしかりけるとぞよまゝし。たがかくは
よまんとぞほめられける。
俊恵云「顕輔卿の歌に
逢ふと見てうつつの甲斐はなけれども
はかなき夢ぞ命なりける
この歌を俊頼朝臣感じていはく、『これは椋の葉磨きして、鼻油ひきる
御歌也。世の人なら[現かひはなけれどもはかなき夢ぞ嬉しかりける]
とぞ詠ままし。誰がかくは詠まん』とぞ讃められける。」
※俊恵
源俊頼の子。長明の歌の師。歌林苑主催。
※顯輔
藤原顕輔(1090~1155年)正三位左京大夫。詞花和歌集の撰者。
※俊頼
源経信男。俊恵の父。金葉集撰者。
※逢ふと見て
金葉集 左京大夫顕輔
夢であの人に逢うと言うのを見て、現実では何の甲斐もないけれど、
そのはかない夢が私の今の頼みに思われる。
※椋の葉磨き
ムクの葉を乾かして裏面で物を磨く。