榮花物語 巻第四
みはてぬゆめ その一かくて圓融院の御葬送紫野にてせさせたまふ。そのほどの御有樣思ひやるべし。ひととせの御子の日に、このわたりのいみじうめでたかりしはやと、思し出づるも、あはれに悲しければ、閑院の左大將
紫の雲のかけても思ひきや春の霞になして見んとは
行成の兵衞佐いと若けれど、これを聞きて一條の攝政の御孫成房の少將の御もとに
おくれじと常のみゆきはいそぎしを煙にそはぬたびの悲しさ
などあまたあれど、いみじき御事のみおぼえしかばみな誰かはおぼゆる人のあらん。さて歸らせたまひぬ。御心のほどの事ども、いみじうあはれなりき。さべき殿ばら籠りさぶらひたまふ。
そのころ櫻のおかしき枝を人にやるとて、實方の中將
墨染のころもうき世の花盛りをり忘れても折りてけるかな
これもをかしう聞えき。世の諒闇にて、もの榮えなきことども多かり
※墨染の 巻第八 哀傷歌 760 藤原実方朝臣
正暦二年諒闇の春櫻の枝につけて道信朝臣に遣はしける