タイトルに惹かれてダイヤモンド・オンラインの記事を見てみた。
全文コピペしてみました。
しかし、猛烈に長いので、全部読まれるには及びません。
なお、当ブログの筆者が、以下の記事に全面賛成という訳ではありません。
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「お金持ちの気持ちが分かる総理大臣」
が考えた追加経済対策 【山崎元コラム】
ダイヤモンド・オンライン 2009年4月15日(水)08:40
総事業規模が56兆8000億円、国の財政支出が15兆4000億円となる過去最大の追加経済対策がまとまった。金額自体は、そもそも国際的にGDP対比で2%程度の財政出動をしようという話があったので(日本で2%といえばちょうど10兆円ぐらい)、それに更に積み増しした目標数字が初めにあって、それに向かっていろいろなものを積み上げたのだろう。現在の状況下で金融緩和と共に財政的措置を取ること自体は適切だし、経済の落ち込みの大きさを考えると規模に違和感はない。大きな金額の対策を比較的短期間でまとめたことは評価していい。しかし、一般論だが、率直に言って、これほど大きな額を有効に使うのは難しい。支出の中身を個々に検討する必要があろう。
個々の政策への評価の基準は、筆者は三つあると考えている。
第一に、公共性だ。この点については、定額給付金や減税を思い浮かべると分かりやすい。今お金が配られても、後から増税されて取り立てられれば(つまり同じ人に支出されて、同じ人から回収されれば)、国民の損得勘定は基本的にプラスマイナスはゼロだ(厳密には手間がかかっている分だけ、マイナスかもしれない)。したがって、国民の皆がメリットを得られるような公共性(公共事業として行う必然性)がなければ、財政支出を行う意味がなく、これは減税に劣る。
第二は、所得配分上のフェアネスだ。メリットを受ける人や業界に偏りはないかという点と、あまり行き過ぎてもいけないが、不況が深刻化している状況を考えると、豊かな人よりも経済的に困窮している人に対してサポートになっているかどうかを見定める必要がある。
そして、第三は、将来の経済力の発展(成長性)につながるものであるかどうかだ。
では、この三つの基準に照らして、追加経済対策の中身をざっと眺めてみたい。
まず今一番の問題である雇用対策については、2兆5000億円の事業費が用意された。急激な世の中の変化の中で、雇用に多くの支出を振り向けたという点は、ある程度の公共性と配分のフェアネスという意味では評価できよう。
たとえば、企業が従業員に支払う休業手当の一部を国が支援する雇用調整助成金の拡充が盛り込まれた。財源は6000億円で、休業手当に対する助成率を大企業で従来の3分の2から4分の3に、中小企業ならば80%から90%に引き上げるという。日本型ワークシェアリングもこの助成金で後押しする(企業が労働時間を削減しながら、派遣社員や契約社員を解雇せずに雇い続けた場合、1人あたり最大45万円を助成する)というが、これらの政策は、一種の社会的な保険に等しいので、国がこれを行う公共性が多少あると思う。また、所得の再配分と言う意味でも、困った人への分配となっている。もっとも、企業が現状の余剰労働力を抱え続けることを前提としているので、将来の成長性という意味ではマイナスといえよう。
ただ、次の項目はいかがなものか。追加経済対策には、失業給付の切れた長期失業者に対して、職業訓練を条件に、生活費を月10~12万円支給するという「緊急人材育成・就職支援基金」の創設が盛り込まれた。
率直に言って、このような制度ができれば、職業訓練を理由として、生活費を意図的に受給するというようなモラルハザードが起こりやすくなる可能性がある。そもそも雇用保険というものは、モラルハザードを招きやすい保険だ。制度として定着させた場合には、かえって失業率上昇の弊害が出る可能性がある。職業訓練をどのように有効なものにするのか、そのためにどういう施策を講じるのかが重要なポイントとなりそうだが、現状ではその中身が分からないため、評価の仕様がない。
休業手当も就職支援の生活費サポートも、長期化すると、かえって経済の効率を損ないかねない。本来は、個人単位で経済的な困窮そのものに対するサポートを強化すべきだ。生活保護の拡充や、低所得者に対する減税ないし給付金といった政策が考えられていいと思う。
麻生首相的には恐らく今回の追加経済対策の目玉は、住宅対策なのだろう。
たとえば、住宅金融支援機構が民間金融機関と提携する長期固定住宅ローン「フラット35」(35年のローンは気が遠くなるようなローンだが)について、物件価格に対する融資上限を従来の9割から10割へと引き上げるという。ただ、そこまでして、1割の頭金すらない人に住宅を買わせることが本当に親切且つ適切なのか。個別の住宅購入というだけのことだから、公共性が別段あるわけではないし、加えて、せいぜいが未来の住宅需要を先食いするだけのことで、成長性に対するプラス効果に大きなものはない。配分のフェアネスという意味でも、今住宅を取得しようという「余裕のある人」のサポートだから、評価し難い。
個人が贈与を受けて住宅を買った場合などに贈与税の非課税枠を通常(年110万円)よりも500万円上乗せするという施策も、フェアネスという意味ではいささか妥当性を欠きはしないか。この施策は、たとえば、パパがお金持ちで、今年贈与を受けて家を買うというドラ息子にとっては有益だろうが、所詮はお金持ち優遇策だ。ただ、麻生首相としては、お金持ちにお金を使わせる方法を一所懸命考えたものなのだろう。何と言っても「お金持ちの気持ちが分かる総理大臣」である。これは、内閣の性格が一番出ている政策と言えそうだ。
一方、少子化対策として、3~5歳の子供を持つ世帯を対象に、子供一人当たり3万6000円を1回だけ支給するという話が盛り込まれた。率直に言って、1回のみの支給は、少子化対策にはなるまい(そもそも3~5歳の子供を今年中に作るのは無理だ!)。また不妊治療を受けやすくするといっているが、制度の必要性はよしとして、一時的に1回のみの支給であっていいわけがない。
同じことは、医療・介護分野への対策 にも言える。追加経済対策には、女性特有のがん対策(乳がんや子宮子けいがんの検診費用を免除する方針で、今年度の実施費用として約200億円を計上)、後期高齢者医療制度における保険料軽減の継続、介護施設の整備に向こう3年間3000億円を投入することなどが掲げられているが、介護施設の整備を除いては、医療・少子化対策の重要な要件である継続性がない。こうした、一回限りの施策が、今回の経済対策の中に雑多に盛り込まれていることは、金額だけ決めて後は積み上げた、哲学の欠如の証左ではないだろうか。但し、介護については、確かにある程度の公共性があるし、介護という産業を育成する点での成長性にもつながり、所得の配分という意味でも悪くない政策だと思う。
お金の使い道を限定した
「エコ贔屓」の財政支出
政府がお金を使うことはやはり非効率的なのではないかと思わせる例は、教育対策 に見られる。たとえば、追加経済対策には、パソコンを使って教材の内容を映し出せる電子黒板を公立校に配備したり、教員が使えるパソコンを増やしたりする「学校ICT(情報通信技術)化」事業に約4000億円を充てること、加えて小学生5~6年を対象に4月から始まった英語授業に対して約10億円の予算を組み、2万3000人の小学校教員に英語研修を実施することなどが書き込まれた。
だが、いうまでもなく教育は内容が大切であり、足りないのは優秀な教師であり、教育の内容ではないのか。電子黒板ではあるまい。具体的には、教師のレベルアップや増員など、教育内容をグレードアップするために本来はもっと予算が使われるべきではないか。英語研修に10億円、対して学校ICTの機材購入には4000億円。この対比は何とも象徴的だ。経済対策が名目になると、機材購入でお金を使うことに重心が偏るのだろう。
また、学校の屋根への太陽光発電施設の導入や校庭の芝生化に1000億円を計上、学校施設の耐震化事業にも約2000億円を充てるという。耐震化は確かに欠かせないが、学校の屋根に太陽光発電施設は本当に必要で効率的なのか。太陽光発電や芝生化に、教育内容を改善する積極的な意味があるわけではないだろう。ここでも機材の購入に支出が偏っている。主に公立校に対する投資だから、この部分に限って言えば、メリットは割合均等に行き渡り、貧しい人に対してより手厚くという意味合いはあるだろうが、総合的なおカネの使い方がまずいのではないか。また、高校生や私大生への授業料の減免措置や奨学金の拡充といっているが、たとえば、どういう私大に対して、どんな奨学金を出すのかよほどよく考えないと、悪く言えば、暇つぶしに補助金を出すことになる可能性があるのではないか。教育への支出は全体として評価できない。本来は、教師の増員、質の向上、さらに特に公立の中学・高校のカリキュラムの充実が必要ではないだろうか。
また、日経新聞に追加対策の目玉のひとつとして挙げられている環境負荷の小さい 低燃費車や省エネ型家電製品の普及策 も、優れた対策だとは思えない。たとえば、新車登録から13年超たったクルマを廃棄し、2010年度の燃費基準を満たす新車(全体の9割が該当)に買い替える場合、普通自動車で25万円を助成する(ハイブリッド車や低燃費車対象の減税措置と合わせると、200万円のハイブリッド車に乗り換える場合、負担は40万円程度減る)というが、本来はガソリンならガソリンの環境に対する汚染効果があるとすれば、その効果をきちんと評価・算定して税金などでコストを乗せてハイブリッド車購入のインセンティブを高める施策がとられるべきだろう。
環境にターゲットを絞っているという意味では、多少の公共性を認めることはできるが、配分のフェアネスから言っても、今この不景気の時に、車を買おうという人を後押しするのだから、これは明らかに余裕のある人に対してお金をつける政策だ。かつては輸出主導の景気回復のけん引役として頼られ、円安介入で側面支援してもらい、外需が崩れると今度は補助金で買い替えを国に促進してもらうとは、「自動車産業はそんなに偉いのか」と皮肉の一つも言いたくなる。こと環境に対しては、不必要な自動車が減るのが一番良い。
似たことが、家電にも言える。同じく日経新聞11日の報道を引用すると、「家電分野ではテレビ、冷蔵庫、エアコンの3品目を対象に、省エネ性能を示す“省エネラベル”で4つ星以上の家電を購入すれば、販売価格の5%分のエコポイントを付与。ポイントは省エネ商品の購入などに使える」という。しかも、「制度には地デジ放送の普及策も取り込み、地デジ対応の薄型テレビ購入にはエコポイントが5%上乗せされる。旧型テレビをリサイクルすればさらに3%つけ、最大13%の補助が受けられる」。ご丁寧に、ポイントの上限まで設けられている(3万9000円分)。家電量販店のポイント以上に複雑で分かりにくい。
そもそもお金さえあれば、家電や自動車に限らず、何に振り向けるかは個人が考えるべきものだ。借金を返済したい人もいれば、教育投資に使いたい人もいるだろうし、旅行をしたい人もいるだろう。はっきり言って、同額程度の定額給付金ないしは減税に劣る施策ではないか。お金の使い道を選別した、まさに“エコ贔屓”とでも呼ぶべきものだ。こういう財政支出は「くだらない」。
視点を変えてみよう。非常に不評だった定額給付金 にこの15兆円をまるまる使ったとすればどうなるのか。日本の人口約1億2700万人(平成17年の国勢調査)で割ると、1人あたり11万7000円となる。丸めて12万円とすれば、4人家族で48万円だ。普通の勤労者世帯の平均所得は年間400万円台だから、48万円は1割強に達する。その額をそっくりそのままもらったほうが、学校の電子黒板などにいろいろお金を使われるよりもよっぽどいいと思われる人は多いのではないか。
総合的に見ると、今回の追加経済対策は、国民に対してお金の使途を強制するお節介の色彩が濃い。所得の再配分効果も、上から下を目指しているのか(the rich → the poor、これが普通)、下から上を目指しているのか定かでない。
ところで、筆者は、追加経済対策が出てから、複数のメディアの取材を受け、その際、「景気対策の支出にはメリットはあっても、財政悪化が心配ではないか」といった誘導的な質問を多く受けた。テレビなどのメディアの場合、「〇」がこっちで、これは「×」と整理できると安心なのだろうが、財政支出は〇であるとして、財政赤字を×とするというのはどうだろうか。筆者は、財政赤字は喫緊の問題ではないと思っている。
そもそもOECDの見通しでは今年来年の日本の消費者物価指数は、1%以上のマイナスになることが予想されている。デフレへの逆戻りだ。しかも、これだけ大きな需要の落ち込みがあるわけだから、赤字国債を出さないという選択肢は現実的ではない。むしろ赤字国債がきちんとファイナンスされるか、つまり日銀が長期国債の買い入れを増やして増発される国債をきちんと消化するかどうかが重要なポイントだ。国債増発で長期金利が上がると、設備投資の資金コストや住宅ローン金利が上昇し、悪影響が出る。
日銀が国債を買い入れるとインフレにつながるから困るという意見も出るだろうが、当面はデフレなのだから、通貨の環境整備としてインフレ的な政策を行うことは構わないと考える。また、財政赤字も低水準の金利で国債がファイナンスされている限り喫緊の問題ではない(世代間の損得は、支出の行き先が関わるし、税制などで後からも調整可能だろう)。デフレ自体は、通貨およびその背後にある政府の債務への「過剰な信認」でもある。
財政支出について一応メリットを認めつつ、財政赤字が問題なのでいつか増税しなければならないというパターンで話す人たちが多いのは、霞が関の側(一口に財務省とはいえない)からのすりこみの効果が大きいのではないだろうか。これは、霞ヶ関の官僚の利害(1.財政支出には多く関与したい、2.増税で将来の財源を確保したい)に誘導された見方だと思う。
「お金持ちの気持ちが分かる総理大臣」が考えた追加経済対策【山崎元コラム】(ダイヤモンド・オンライン)