醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  208号   聖海(白井一道)

2016-02-14 15:46:02 | 随筆・小説
 
  言葉は文化をつくる

侘助 「俺はね」と言った人はどんな人だと思う。
呑助 「俺」でしよう。友だち同士の打ち解けた者がいう言葉じゃないですかね。「俺」っていうのは。
侘助 「私は」といった場合はどうかな。
呑助 ちょっと、改まった雰囲気でいうんじゃないでしようか。
侘助 「僕が」と言ったら、その人はどんな人かな。
呑助 少年が母親に言う場合が多いように思いますがね。でも大人の人でもよく使いますね。
侘助 「自分は」と言い始めたら。
呑助 おおぜいの人の前で話し始めようとしている人という印象がありますね。
侘助 日本語には自分を表す言葉がたくさんあるよね。だから日本語による自分を表現する言葉が豊富にあるということは相手との関係によって自分を表現するという特徴が日本語にはあるということらしい。
呑助 相手の関係というか、相手との間柄によって自分を表現する言葉が変わってくるということですか。
侘助 そのようなんだ。英語ではそのようなことにはならないらしい。自分を表現する言葉は「I」(アイ)だけのようなんだ。
呑助 「I」、一つね。相手との関係は関係ないんですね。
侘助 そうなんだろうね。誰の前でも、私は「I」、先生の前でも、親の前でも、友達の前でもみんな「I」。そういうことなんだろうね。
呑助 英語ではあまり人間関係の在り方に注意を払う必要がないんでしようかね。
侘助 相手は「you」一つだからね。生徒は先生を「you」と言う。子供は親を「you」と言うようだしね。
呑助 英語は自分主張が強いんでしようか。
侘助 そう。英語による自分認識は確固としている。誰からも否定されたり、押しつぶされたりしない強い存在としての自己主張があるようだ。
呑助 そんなに自己主張の強い人々が集まっている以上、英語を話す人々の中では言い合いが絶えないでしようね。
侘助 そうなんだよ。だから、だから発言には公正さが強く求められるらしい。公正さに欠ける発言は退けられる傾向があるようだ。
呑助 日本は場の空気のようなものが支配するが英語の世界では公正さが支配する社会ですか。
侘助 そうなんだ。言葉はその社会における人の在り方を秩序づける力があるようなんだ。
呑助 言葉というのは強い力を持っているんですね。
侘助 そんな気がするよね。英語は道具だ。アメリカ人や英国人とコミュニケーションする道具だ言う人がいるが、そうじゃないんだ。それ以上のものが言葉にはあるんだ。
呑助 そんな気がしてきましたよ。
侘助 そうでしょ。だから英語の得意な人が言っているのを聞いたことがあるんだ。英語を話すとアメリカ人になるとね。
呑助 じゃー、日本語を話すと日本人ですか。
侘助 日本語を話すと相手を思いやる気持ちが生まれてくると言う人がいるからね。
呑助 へぇー、そんなもんですかね。
侘助 「tatamiser」タタミゼというフランス語があるらしいんだ。このフランス語の意味は「にほんかぶれする」とか「日本人っぽくなる」、「日本びいきになる」という意味らしい。フランスでは柔道が盛んだからね。畳は日本を表現している。フランスで日本語を学ぶと性格が穏和になる。人を優しくする。このようなことがフランスで日本語を教えている人々か言っているそうだよ。
呑助 日本語って、凄いんですね。
侘助 日本語が日本の文化を作って来たんだということが言えそうなんだ。英語を勉強して日本語を更に深く日本語を知る。日本で英語を公用語化しようという動きは危険だ。