醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより  222号   聖海(白井一道)

2016-02-29 13:01:04 | 随筆・小説

  お酒の話 「浦霞・禅」を楽しむ

侘助 宮城県の酒というと何かな。
呑助 「浦霞」、「一ノ蔵」といったところでしようか。
侘助 歴史学者の和歌森太郎に『酒が語る日本史』という著書があるんだ。もう五十年も前の本だから知っている人もいなければ、読んだ人も今ではほとんどいないと思うけれども、この本の中で和歌森太郎は名酒の誉れ高い「浦霞」に喉を唸らせたと述べている。『日本外史』を書いた江戸時代後期の儒学者、頼山陽は「剣菱」を愛したが私は「浦霞」を好むと書いている。
呑助 へぇー、「剣菱」や「浦霞」という銘柄の酒はそんなに昔から名酒の誉れが高かったんですか。
侘助 そうらしい。特に戦後、「浦霞」の名を日本全国に轟かした「浦霞」の名酒は「浦霞・禅」という銘柄の酒だったようだ。
呑助 あの酒は、そんな名酒だったんですか。
侘助 売り出されたのは昭和四十八年というから一九七三年のことだった。四十年以上前のことだよ。一九七〇年に万博が大阪で開かれんだ。この万博見学の団体旅行が一挙に増えたんだ。九月に万博が終了すると団体旅行が一気に減少する。何とか団体旅行ブームを続けようと当時の国鉄と電通がチームを作って始めたのが「ディスカバージャパン」というコピーだった。その中で脚光を浴びた酒が何と言っても「越乃寒梅」だったが、その中の一つとしてまぁーまぁーの人気を得た酒が「浦霞・禅」だったんだ。
呑助 あぁー、それで「浦霞・禅」は他の酒と比べて高いんですね。
侘助 「越乃寒梅」と競い合った名酒の一つだったんだからね。
呑助 新潟の酒だけかと思ってましたけど、日本全国に名酒が発見されてたんですね。
侘助 そうなんだ。福岡の「繁桝」とか、高知の「酔鯨」、石川の「菊姫」いろいろあるんだ。
呑助 地酒ブームがあったんですね。
侘助 七〇年代の後半から八〇年代がそうだったかな。その後、焼酎ブームが20年間ぐらい続いたかな。「百年の孤独」とか「森伊蔵」なんていう焼酎が脚光を浴びたかな。
呑助 私らは焼酎世代かもしれませんね。
侘助 今日は「浦霞・禅」を飲んでみようよ。
呑助 いいですね。
侘助 「浦霞」は宮城県・塩竈の酒だからね。塩竈といえば、芭蕉も参った陸奥一の宮・塩竈明神への御神酒を醸した酒蔵が佐浦酒造だった。この佐浦酒造が名杜氏、平野佐五郎を生んだ。平野佐五郎氏は南部杜氏会の会長をした人なんだ。佐五郎杜氏が現在の「浦霞」の酒を造った。「浦霞」の醪の中から「きょうかい12号酵母」が発見されている。国の醸造試験場の先生方からも高く評価された蔵にしたのが佐五郎杜氏だった。この佐五郎杜氏の甥っ子の平野重一が佐五郎杜氏の後を継ぎ、浦佐酒造の杜氏になり、社長・佐浦茂雄が望む酒質の酒を造った。その酒が「浦霞・禅」だったようだ。
呑助 どうして酒の銘柄に「禅」と名付けたんですかね。
侘助 松島・瑞巌寺の酒好きな僧侶がフランスのパリに禅の普及に行く時に持って行ってもらった酒が「浦霞・禅」だった。

醸楽庵だより  221号   聖海(白井一道)

2016-02-29 12:56:41 | 随筆・小説

  tppは日本の富をアメリカは奪う(5)

呑助 tppは自由貿易、自由競争を加盟国間では自由に放任することを認め合う協定ですよね。これは強者に都合がよく、弱者に厳しいものになることが解っていながら、加盟する発展途上国があるんでしようかね。
侘助 そこだよね。特にヴェトナムなど、なぜtppに加盟しようとしているのか、疑問に思うよね。
呑助 そうですね。被害を受ける可能性があるにもかかわらずにね。
侘助 そうなんだ。南アメリカのチリ共和国に1970年、社会主義政権、アジェンデ政権が選挙の結果、成立したんだ。このアジェンデ政権は議会制のもとで社会主義社会を実現することを目指した世界で初めての政府だった。その動向は「チリの実験」として世界史的な出来事だった。だが、成立後三年足らずの1973年9月11日、チリ軍部クーデターによって倒された。このクーデターを、カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインは『ショック・ドクトリン』という著書で糾弾している。このクーデターを行ったのはシカゴ大学経済学部で学んだ人々が中心にいたようなんだ。新自由主義経済を学んだ人々だよ。経済のグローバル化によってチリの経済は発展すると考えた人々だった。
呑助 経済がグローバル化するとその国の経済が良くなるんですか。
侘助 確かに一部の人々はよくなるみたいだよ。国民全体として見れば、貧困化するよ。古代ローマ帝国はグローバル化した帝国だった。ローマは繁栄を極めたが、周辺の国々は窮乏化した。グローバル化とはローマ化だと思うな。グローバル化明白に自然な営みじゃないの。文明化は自然な道理だと説明するんだ。西部開拓は神から与えられた明白な使命だ。マニフェスト・デスティニーと白人たちは唱えて、アメリカ原住民を滅亡させた。西部開拓に協力したアメリカ・インディアンたちのような存在がアメリカの大学で学んだ発展途上国の学生たちだ。この学生たちが母国に帰り、グローバル化を推進する。きっとヴェトナムにもアメリカの大学で学び、魂を引き抜かれた者たちがいるんじゃないかな。
呑助 tppを推進する日本の政治家や官僚たちも日本人としての魂を失った人々なんですかね。
侘助 その通りだよ。インドネシア建国の父といわれるスカルノ大統領を倒した9.30事件の裏にはアメリカの大学で学んだ経験を持つ理由学生の存在があったことが分かっているという話を京都大学名誉教授の本山美彦氏氏から聞いた。日本の高級官僚といわれる人々はハーバート大学とか、エール大学とかに国費で留学している人がいるからね。それらの人々は全然国民の生活のことなんか考えていないようだ。だからtppを推進する。彼らには日本国民のことを考えるナショナリズムはないんじゃないかな。
呑助 そりゃ困りますね。
侘助 アメリカ国民の中にもtppは嫌だという人々がいる。日本にもヴェトナムにも、チリ、ニュージーランド、その他のtpp加盟国の中にもいる。
呑助 tppは嫌だという各国の人々は協力しなくちゃいけませんね。
侘助 もうすでに市民団体同士で協力し合っているようだよ。情報を交換し合ったりしてね。
呑助 そのようなことをマスコミが報道しないから我々は知らないんですね。
侘助 ナオミ・クラインは言っている。メディアが報道しなければ、その事実は存在しないものとなってしまうとね。
呑助 言論の自由とは、反対意見が堂々と言えることなんでしよう。
侘助 そうだよね。そうでないと、新聞やテレビは政府の広報機関になってしまうからね。北朝鮮や中国のメディアは政府の広報機関のようだけれどね。日本のメディアは北朝鮮や中国のメディアを批判できないなぁー。
呑助 そうですね。