父は
あの時代に
パンを食した人であり
母は
あの時代に
パンを焼いた人である
剣道を教える
飄々とした父は
寄り合いがあると
一刻前に出向き
定刻に
人が集まらぬと
帰り支度を始めた
私が中傷されたおり
師からの
諌めを受けた父は
問答無用と
私を打った
「おとうさん」
他家に入った私が
舅に面罵されてより
父は
二度と
この家の
敷居を跨がなかった
「おかあさん」
正月元旦
紋服をまとい
あれから
毎年
母はやって来て
三つ指をついた
癇性の父は
寒い冬
七十六で亡くなり
親族の中で
「三羽烏」の一人と
うたわれた
母もまた
舅たちが
亡くなるのを待ち
寒い冬
九十七で亡くなった
H5.9.21