ある方から紹介された作品だが、私も紹介したくなったので
ここに書き留めます。
作者は、俳句をはじめて他界するまで八年、
短歌はわずか一年四ヶ月。ご主人が俳人の境野大波。
六十三才で逝去。
これは二十年近く前に出版された遺歌集です。
ある意味ではつらい歌だが、夫々の方々に彼女の思いに
触れて頂けたら幸いです。
(入院前)
葉櫻の影ある椅子に座しをれば膝に重たき影の葉櫻
電話帳の間に乾くはなびらは幾千万の名前に押され
(入院)
笑ひたくなるほど寒の空は蒼く薄き手術着一枚となる
ぬばたまの螺旋階段のぼりきて此の世明るし此の世の朝は
点滴の管に捕はる者となりわが細胞の春瑞々し
病室の窓のはるかに一本の白梅ありて確かなる光
退院の友見送りて病室に二粒三粒かむひなあられ
物音のなき真昼間を白じろと消え入りさうよ声を出さねば
(絶筆)
病垂の字ばかり書けば優しさは草冠の花や草草