水平線に、雲が掛かっている。
朝日が昇っているけれど、その雲に邪魔されて見えない。
「海霧」が掛かっているが、山の上には雲はない。
外気が寒い朝に起きる「海霧」、久し振りに見る現象だ。
また、山手に雲がないのは、風が余り吹いてこないときが多い筈…。
しかし、今朝はポイントに着いたときには、既に西からのウネリが立っていた。
船首を風上に向けて、船が流されるのを少しでも防ごうとするが、なかなかアタリに繋がらない。
ベイトは、魚探に映っているから何かが居ても良いと思うのだが…。
「塩田さん、風が止むまで岸近くで、風を避けていましょうか」
船を岸近くの、水深30メートル付近に、移動する。
魚探を見て、船の位置を決めて、流していく。
塩田さんにアタリが来た。
良型のオオモンハタが上がってきた。
この海域は、昨日は真鯛が上がっているところ、今日も期待している。
すると、2流し目に塩田さんに、真鯛らしいアタリが来た。
竿先をゴンゴンと叩き、強い引きで竿が曲がる。
ところが、可成り巻き上げたところで、針はずれ。
昨日も、一昨日も起きた針はずれ。
「口惜しいな」
でも、この頃に強く吹いていた西風が、かなり弱くなってきた。
「塩田さん、沖合に行ってみましょうか」
「はい、行きましょう」
気分一新、水深50メートルのポイントに移動する。
その一流し目、下り潮に乗って南に船が流れていく途中に、塩田さんにアタリが来た。
竿が大きく曲がり、針掛かりした獲物が、ラインを引き出している。
海中に濃い茶色の魚体が見えてきた。
「ヒラメだ!」
上がってきたのは2キロ超の良型のヒラメ。
「こりゃ、美味しい高級魚が釣れた」
塩田さんの笑顔が、嬉しそうだ。
「仲間達にメールしよう」
塩田さんの釣り仲間に、早速釣果報告。
大物が釣れると、気分も良くなってくる。
船を元に戻して流していると、又してもアタリが来た。
今度は、良型のアラカブ。
「味噌汁にすると美味しい」とクーラーの中へ入れる。
この頃になると完全に風も収まり、ちょっと暑く感じるくらいになった。
気が付くと、上り潮の潮目が沖合から入ってきている。
その潮目が岸方向に流れていくと、当然、船の流れる方向も北方向に変わった。
上り潮に乗せて船を流していくと、塩田さんに大きなアタリ。
ドラッグから、ラインが思い切り引き出されていく。
「ゆっくり巻き上げてください。大物ですよ」
やり取りを繰り返し、ラインを巻き上げていくと、海中に光る魚影が見えてきた。
海面に姿を見せたのは、大きなニベだった。
「てっきり、青物と思った」
しかし、7~8キロ位はありそうな良型のニベだ。
しっかりと血抜きをして、クーラーに入れ氷を被せる。
船を元に戻して、流し始めた直後に、又しても大きなアタリ。
中層アタリで、いきなり竿を引ったくる様なアタリ。
これも、ラインが引き出され、ドラッグ音が鳴り響く。
塩田さんが歯を食いしばって、強い引きに耐える。
何度もやり取りを繰り替えしたその直後、「あっ」と声がした。
もうすぐ魚が見えるところまで来て、針が外れた。
「あーっ…」
塩田さんも、私も、後は言葉にならない。
「くそっ…。なんやったろうか…」
「大型の青物か、大きな真鯛か…何にしても口惜しいな…」
釣りの世界は、この口惜しいことの方が、遙かに多い事は分かっている。
それでも、口惜しい。
「次は、取りたいですね」
「また、リベンジに来いと言われましたね」
海は凪になったが、気持ちは波だったまま帰港した。