[9月30日]
★コスモスの揺れは大きく朝の風/高橋秀之
コスモスを大きく揺らす風は、「朝の風」である。「朝の風」の透明感、爽やかさがコスモスの花の色、花姿の優しさをイメージづけている。たっぷりと吹く朝の風が心地よい。(高橋正子)
[9月29日]
★天空より翳おりてきて秋の蝶/小西 宏
空高くから降りてくる翳に気付き、なんだろうと思うとそれは蝶であったというのだ。「翳」は秋の日差しを飛ぶ「秋の蝶」だからこそ感じ取れたもの。(高橋正子)
★母屋へと重たく寄せる稲穂波/佃 康水
母屋のすぐ傍から田んぼが広がっているところ。どっしりとした母屋へと、稲穂の波が押し寄せる風景に、豊作の嬉しさが見る側にも伝わってくる。(高橋正子)
[9月28日]
★秋高しいざ斑鳩へ出かけなむ/河野啓一
天高くなると、斑鳩の里の空に憧れる。斑鳩は悠久の空が青く広がるところだ。(高橋正子)
[9月27日]
★晴れあがる青空と紫苑と色二つ/迫田和代
晴れあがった高い青空の「青」の色と、紫苑の「薄紫」の色が今二つ眼にある。この二つの色によい色調を感じ取ったのは、作者の色に対しての感な感覚。(高橋正子)
[9月26日]
★ふるさとへ戻り林の鵙高音/桑本栄太郎
ふるさとに戻った安らかさと懐かしさのなかに、鋭い鵙の高音が聞こえる。この鵙の高音こそが、わがふるさとの秋なのだ。(高橋正子)
★城立つや澄みたる沖を背景に/多田有花
山の上から見た景色だろう。きれいな青色に澄んだ沖を背景に凛と城が立つ。白鷺城だろうが、さわやかに凛とした風景。(高橋正子)
[9月25日]
★ハイウェイのはるか眼下に稲田かな/桑本栄太郎
田園地帯を走るハイウェイは、少し高い位置にあって、眼下に稲田が見渡せる。日本の秋の景色は稲田がなければ、全く違ってくるだろう。故郷へ向かう気持ちを晴れやかにしてくれる。(高橋正子)
★桂高く葉色変えつつ秋にあり/小西 宏
桂の黄葉は、銀杏に劣らず見事なものだ。桂は、今、色づき始めている。秋という季節に高々と立っている。「秋にあり」に桂の姿と空の様子が見える。(高橋正子)
[9月24日]
★一群れの集い拡がる稲雀/桑本栄太郎
稲雀は、農家には困りものだが、一群れがやってきてぱっと稲穂に散らばる様子は、稔の秋の象徴だ。稔の稲田を明るく快活にしてくれるものだ。(高橋正子)
★玄関に居間に風立つすすき活け/黒谷光子
土手からすすきを切ってきて、家の玄関や居間に埋けると、野の景色がそのままそこに移されて、さわやかな風までも吹いてくるようだ。 (高橋正子)
[9月23日]
★笛太鼓響くや秋の広き森/河野啓一
万博記念公園では、どこかで鼓笛隊のパレードでもあるのだろう。笛や太鼓の楽しい音楽が森の中まで聞こえてくる。間近で聞くよりもより、うららかなに思える。秋うららかな森の散策。(高橋正子)
[9月22日]
★父のブランデーグラスに桔梗一輪/川名ますみ
ブランデーグラスに桔梗が一輪挿されて、洒落ている。そのことは勿論だが、ブランデーグラスが思い出深い父のもので、深まりゆく秋を、父の懐のように、温かく、深く感じさせてくれる。ブランデーグラスの水と桔梗の色がきらめいている。(高橋正子)
★樫の木に日の残りいて虫の声/小西 宏
この句では、樫に日が残っているが、私は野原に残る日のなかに虫が鳴いているのをよく経験した。そういう情景を樫の木に変えて思うと、残る日にも鳴く虫にも切ないような気持ちが湧く。(高橋正子)
[9月21日]
★噴煙の果たてや蕎麦の花盛/小口泰與
噴煙の昇らない山と花盛りの蕎麦畑の取り合わせによって、静謐な風景が詠まれている。(高橋正子)
★秋空を独り占めして少女の像/内山富佐子
少女のしなやかな肢体、手をしなやかに空に伸ばしているような像が、秋空の青の中に立っている。秋空の青が少女の像をすっきりと浮かび上がらせた印象深い像だ。(高橋正子)