[11月16日]
★冬紅葉眺めつ山の懐へ/多田有花★★★★
色濃く鮮やかに紅葉した冬紅葉は、見事であるが、その冬紅葉の美しさを次々眺めて行けば、山懐へと入った。仙郷に入っていくような気分だろうか。(高橋正子)
[11月15日]
★境内の森を歩けば焚き火の香/多田有花
紅葉も秋を彩るもの。空に映えればことに美しいが、櫨の実に集う烏にも青空があって、冬へ向かう日々もはれやかだ。(高橋正子)
[11月14日]
★山寺や生垣成してお茶の花/佃 康水
山寺のお茶の垣根はそのたたずまいが、慎ましい。白い茶の花が咲けば、生垣も生き生きとしてくる。お茶の垣根は、実際に茶葉を摘むためだったのだろうが、静かで上品な感じが好もしい。(高橋正子)
★鰯雲妻は五十路に入りけり/福田ひろし
少し年下の妻も五十路に入った。「これからともに五十路を歩みましょう」と、空高く広がる鰯雲を眺めて思う。「鰯雲」がいい。(高橋正子)
[11月13日]
朝霜や朝の挨拶短けれ/小口泰與
朝霜が降りるようになると、人は口をつむりがちになる。朝の挨拶も、寒さの中では、つい短く。しかし、その短い挨拶があたたかい。(高橋正子)
[11月12日]
★青空に夕日集めて柿の赤/河野啓一
日没が急にやってくるまで、空は青く柿の実はあかあかと夕日を受けている。少し昔に帰れたような、暖かい風景だ。(高橋正子)
★有明の潟の海にも冬の雨/福田ひろし
有明海は、潮の干満の差が大きく、干潟が広がって、さまざまな生物を育んでいる。その潟にも寒々と冬の雨が降って眺めを煙らせている。眺めれば気宇の大きくなるような広い景色だ。(高橋正子)
[11月11日]
★蒼天が散らす紅葉の下にいる/古田敬二
頭上高く広がる紅葉の下にいると、紅葉は木が散らすのではなく、蒼天が散らすのだと思える。蒼天から降る紅葉が美しい。(高橋正子)
★雨上がり冬めく朝に日が昇る/高橋秀之
雨のあと、気温が急に下がり冬めいた朝を迎えた。太陽が溌剌と昇ってくるのも、冬を感じさせる景色。冬の太陽の勢いを「日が昇る」と力強く言い切った。(高橋正子)
[11月10日]
★真っ白な小皿に大根おろし盛る/高橋秀之
皿も真っ白、大根おろしも真っ白で、違うものが馴染みあって小さいながら白の世界を作っている。俳句形式は個人の何気ない驚きを表現するのが得意。(高橋正子)
★足弾む落葉の匂い嗅ぎながら/小西 宏
林や山を歩くと落葉の匂いが、歩く楽しさを増してくれる。足が弾みどんどんと歩きたくなる。心身ともに軽やかだ。(高橋正子)
[11月9日]
京都御所観月
★玉砂利を踏みつつ待つや後の月/桑本栄太郎
御所の観月は、さながら平安絵巻のようであろうと思う。さびしくも美しい後の月を玉砂利を踏む音とともに楽しまれた。(高橋正子)
[11月8日]
★白波の岩叩く音冬近し/迫田和代
私たちは、新しい季節の到来をいろんなところで感じる。移ろう季節を感じ取るのが俳句だと言えるが、この句もまさにそんな句。白波が岩を打つ音を聞き、またその様子を見、冬が近づいていることを感じた。(高橋正子)
★初冬の山から近くに琵琶湖見ゆ/高橋秀之
初冬の山に登る。そこの山からの眺めに琵琶湖がすぐ近くに見える。初冬の山のほっこりとした感じや、水を湛えた琵琶湖が間近に見えることは、生活に変化のある新鮮なことだ。(高橋正子)
[11月7日]
★着信がありて立冬の朝/多田有花
少し冷え込む朝、携帯電話の着信音が鳴った。いつもより響く感じで、気づけば今日は立冬ということ。何気ないようだが、周囲の音によって、季節をとらえることもある。(高橋正子)
★やまもみじ空近きより紅葉す/小西 宏
紅葉は、寒暖差のがあればあるほど美しく紅葉する。山もみじは、夜気が当たる天辺、空の近くから紅葉する。空を背景にもみじが映える。(高橋正子)
★秋深し星の明るき帰り道/高橋秀之
秋が深まり、空気もますます澄んできて、夜空の星も明るさを増す。帰宅の道に明るい星が出ていると、一日の疲れも、癒されよう。(高橋正子)