[11月24日]
★田の道の冬日を抜けて家並みへと/祝恵子
遮るもののない田んぼの道には、冬日がさんさんと降り注ぐ。心地よい冬日を受けて歩くと道は家並へ続く。穏やかに晴れた日の農村を歩く幸せ。(高橋正子)
★冬紅葉の向こうに星の光あり/高橋秀之
立冬を過ぎ、夜間の気温が一段と下がると紅葉がさらに色濃く美しくなる。その紅葉が街灯に照らされているのだろう、向こうにつぶらな星の光が見える。澄んだ大気に、冬紅葉と星の光によい詩情がある。(高橋正子)
[11月23日]
★冬めきて丘の辺の道海光る/河野啓一
冬めくと、寒さ、冷たさが心身にほどよい緊張感をくれる。そんなとき、丘の辺の道を歩くと、光る海が見え、展望がほっと開けるような明るい思いになる。(高橋正子)
[11月22日]
★産土は坂の町なり寒椿/小口泰與
坂の町は変化があって詩情がある。わが産土の坂の町は、今、寒さの中に点るように寒椿が咲いている。(高橋正子)
[11月21日]
★太き枝しならせリンゴは豊作に/古田敬二
豊作のリンゴは、その重さで、太い枝をしならせている。太い枝も赤く熟れたリンゴの重量に耐えて実りを支えている。微笑みのこぼれているようなリンゴの木だ。(高橋正子)
★火を落とし灯油の香る冬の夜/福田ひろし
寝じまいに灯油ストーブの火を消すと、あとに灯油の匂いがつんと残る。灯油の匂いが冬の夜を更に静かに深くする。(高橋正子)
[11月20日]
★大雷一瞬にして冬来たる/内山富佐子
雷が鳴って季節が一変することは多い。大雷が鳴って梅雨が明けることはよく経験する。雪国の生活は知らないが、雪国では大雷が鳴って一瞬にして冬が来ることもあるのだろう。11月20日は横浜も急に冷え込み真冬のようだった。(高橋正子)
[11月19日]
★冬ぬくし京の歩きは山の寺/祝恵子
京の都は、底冷えのする京都盆地を思わせぬ「冬ぬくし」の一日。山の寺へ歩く道も暖かく気持ちがよい。
山の寺に味わいがある。(高橋正子)
★青空のはるか日射しや片時雨/桑本栄太郎
青空の高いところには日射しが見えるのに、時雨がさあっと降ってくる。時雨で知られる京都の冬の天気であるが、こういった天気にも京都の風情が思われる。(高橋正子)
[11月18日]
★生まれたての流れに沿いて冬の谷/多田有花
源流は、下流の川を想像しにくいほど小さい流れだ。その「生まれたての流れ」に沿って川と旅するように、冬枯れの谷を歩くことは、なんと心楽しいことではないか。(高橋正子)
★大漁旗迎える港の柿赤し/福田ひろし
大漁旗を立てて帰る船を迎える港には、柿が日に輝いて赤く熟れている。秋晴れの港が喜びに満ちている。漁港の風景が明らかで、勢いのある句だ。(高橋正子)
[11月17日]
★枯蘆の吾が立つ時に騒ぎけり/桑本栄太郎
離れて眺めていた枯蘆は、静かに立っていたが、傍に寄って立つと、ざわざわと戦ぐ。人に応えたように思える不思議さがある。(高橋正子)
★初冬の銀杏晴れたる大通り/小西 宏
銀杏並木の続く大通りが冬を迎えた。今日は空が晴れ渡り、銀杏黄葉が晴れやかに色を競っている。初冬の晴れ晴れとした句だ。(高橋正子)
★残菊の香りを車に野良がえり/古田敬二
野良の畑の隅に植えている小菊であろう。野良仕事の帰りに、切りとって車に乗せると、菊の良い香りが漂う。無機質な車内も菊の香りに満たされ、うれしい空間となった。(高橋正子)