[8月10日]
★コスモスや富士を背負いてゆらゆらと/廣田洋一
日本人は富士山には、なにかしら思いをもっている。青い富士を背にピンクや赤のコスモスの揺れている。鮮明なイメージが心に優しさをくれる。(高橋正子)
[8月9日]
★尾根行けば芒解るるゆかしさよ/小川和子
さすが尾根には、涼しい風が吹いているのだろう。尾根伝いにゆけば、芒が風に解けるようにそよいでいる。風に解ける芒が、尾根歩きをいっそう愉しく心地よいものにしている。(高橋正子)
[8月8日]
★青田風止みて静かな星の夜/河野啓一
昼間は青田を風が吹く。その風も夜は止んで、夜には、空に星が瞬く。昼と夜、それぞれに違う世界であるが、きれいで静かな時間をよい心境で詠んでいる。(高橋正子)
[8月7日]
★カラフルなトマト朝の皿に盛り/上島祥子
このごろは、トマトも赤だけでなく、黄色いトマトもあって、カラフルだ。プチトマトなどは、皿に盛れば、お菓子のような可愛さだ。「朝の皿」は、少し問題なのだが、朝食用の皿には、さわやかなものを選ぶだろうし、朝、食卓に出された皿は、「朝の皿」としてのそれらしい個性や存在感を持つことになる。この句では、許されてよいと思う。(高橋正子)
[8月6日]
★茅の輪くぐり終えて再び手を繋ぐ/上島祥子
茅の輪をくぐるときは、親子と言えども、ひとりひとり。くぐり終えてまた仲良く手を繋ぐ。人は、ひとり、ひとりに命があって、生きているのだと、ふと思う。みんながすこやかでありますように。(高橋正子)
[8月5日]
★旨そうに赤き艶為し椿の実/桑本栄太郎
椿の実が生り、ほんのりと緑の実赤く染まるのは、記憶では、ちょうど夏休みだった。その実がおいしそうだったことも思い出す。つやつやとした椿の実のたしかな結実を実感する。(高橋正子)
[8月4日]
★絵にしたき峰雲二つ窓の中/河野啓一
窓に峰雲が二つ。生きいきと湧きあがり、輝き、絵にかきたいほどだ。それほどに素晴らしい峰雲に、なにか活力をもらうようだ。(高橋正子)
[8月3日]
★風よりも光りにゆるる百日紅/小口泰與
真夏咲き続ける百日紅の花の柔らかな様子が的確に表現されている。フリルのような小さい花が集まった百日紅は、細やかに光りを反射し、実は、風に揺れいてる。風ではなく、光りに揺れるていると感じる。(高橋正子)
[8月2日]
★赤城より朝日いただく青田かな/小口泰與
赤城山から射す朝日は青田に射して今日が始まる。いい朝日を「いただいて」青田の緑が生き生きと鮮やかになるのを見ると、新しい命をもらうようだ。(高橋正子)
[8月1日]
★青岬廻れば高き波の音/河野啓一
青岬は、緑の木々に覆われた岬。周囲には明るく輝く青い夏の海があって。若々しい季語だ。(季語としない歳時記もあるが、この場合、季感は夏。)岬の内側は、湾になっていて、波も静かだ。岬を廻る海は開け、波音も高く、荒く寄せている。「高き波の音」に、夏海のたくましさ、すがすがしさがある。(高橋正子)