[10月20日]
★日の温み残る冬瓜胸に受く/佃 康水
畑から採ってきたばかりであろう。大きな冬瓜をいただいた。その大きさに、胸で抱くように受け取ると、生ぬるい日の温みが残っている。「胸に受く」に、季節がより強く、また作者の人柄の暖かさが感じられる。(高橋正子)
[10月19日]
★秋耕を終えし畑や静まれり/廣田洋一
歳時記では、「秋耕」は、稲を刈ったあと鋤き起こしたり、裏作の麦や菜種を播くために耕すことをいう。澄んだ大気のもとに、耕された畑は、土の色も息遣いもしずかである。次の農作業を待って「静まれり」である。(高橋正子)
[10月18日]
★露寒し陸奥の旅寝の目覚めかな/古田敬二
ご自宅のある名古屋から陸奥への旅。旅に目覚めて、朝露に寒さを覚える。みちのくの秋は冬へと足早に進む。その実感。(高橋正子)
[10月17日]
★水鳥や狭き川辺に巣を構え/廣田洋一
偶然に、水鳥が狭い川辺に巣を構えているのを見つけた驚きと水鳥への愛おしさ。思いもかけないところで、命あるものは次の命を育て、命をつないでいる。(高橋正子)
[10月16日]
★水切りの敢無く没し水澄めり/小口泰與
水切り(みずきり)は水面に向かって回転をかけた石を投げて、水面で石を跳ねさせる 遊び。昔は、水切りも上手だったであろうが、体がぎこちなくなっているのだろう、投げた石が敢え無く沈み、そのあとは澄んだ水面が広がる。その心境。(高橋正子)
[10月15日]
★赤き実のぱらぱら降りて小鳥来る/桑本栄太郎
赤い実がばぱらぱら降ってくるのは、小鳥のせい。大陸から渡って来た小鳥が木の実を啄む。赤い木の実がこぼれる。「小鳥」と「赤き実」はかわいらしい。(高橋正子)
[10月14日]
★川風をしきりに誘い萩は実に/桑本栄太郎
いい風景だ。「川風」に揺れ、「萩は実に」なるのだ。中七の「しきりに誘い」は作者の主情だが、それがいい。(高橋信之)
[10月13日]
★いろいろの木の実を拾う山散歩/谷口博望(満天星)
トレッキングとまではゆかなくても、秋の小山を散歩するのも楽しいことだ。荷物ももたない手持無沙汰に、落ちているいろんな木の実を拾ってみたくなる。遊び心。(高橋正子)
[10月12日]
★撮り溜むる写真の数や秋の星/小口泰與
撮り溜めた写真は、写真愛好家の泰與さんならば、かなりの量になっていると想像できる。夜長の灯の下にそれらを取り出して眺めたり、吟味したりする。灯の下で一枚一枚の写真の光沢が、秋の綺羅星と重なって思える。(高橋正子)
[10月11日]
★浄土へと釣瓶落としや当麻寺/河野啓一
当麻寺の向こうに釣瓶落としの日が沈む。その光景の静かな美しさは向こうの浄土の存在を思わせる。当麻寺の現在信仰の中心となっているのは、西方極楽浄土の様子を表した「当麻曼荼羅」。そのことを思えば、浄土へと日が沈むと強く実感されたのであろう。(高橋正子)