3月10日(4名)
廣田洋一
引鶴や螺旋に飛びて北を向く★★★
引鶴の前を向きたる長き首★★★
引鶴や友の訃報に献杯す★★★★
小口泰與
板塀をひそかに渡る猫の夫★★★
暖かや金平糖の角まるき★★★
支流よりひたと出で來る雪解水★★★★
桑本栄太郎
春風の水面を渡りさざ波に★★★★
紅白の源平咲きや落つばき★★★
青空にもくれん開き摘み見る★★★
古田敬二
ヘリコプター春の雲間に旋回す★★★★
山茱萸の主なき庭に光浴ぶ★★★
犬ふぐり畑に残し草を引く★★★
3月9日(4名)
小口泰與
縄文の出っ尻土偶風光る★★★
畦道へ土塊落とす燕かな★★★★
久方の空へ浅間の雪解かな★★★
廣田洋一
春の野や光さんさん子らの声★★★
春の野や笑顔こぼれる家族連れ★★★
春の野の小川とろとろ流れけり★★★
桑本栄太郎
木蓮の千のつぼみや咲き初むる★★★★
想い出の房のピンクや馬酔木咲く★★★
べんがらの板塀褪せし春半ば★★★
古田敬二
今年又初音を妻に先越され★★★
2Bの鉛筆削る春吟行★★★★
刈り込まれ低きに咲き初むイタチ草★★★
3月8日(4名)
小口泰與
春の闇浅間火柱眼間に★★★★
たぶたぶと湯舟溢れし春の宵★★★
雉啼くや土煙上ぐ耕運機★★★
廣田洋一
雨空に明るき墓碑や立子の忌★★★★
春塵や銀杏並木にクリーニング店★★★
啓蟄や動き出したる団子虫★★★
桑本栄太郎
ほろほろと房のピンクや馬酔木咲く★★★
雨上がる朝の日差しや桜芽木★★★★
みな見上げ通り過ぎ居り白木蓮★★★
古田敬二
菜の花や田原の町の長屋門★★★
青空へこぶしの蕾さみどりに★★★
さみどりに太りて尖る辛夷の芽★★★★
3月7日(5名)
小口泰與
君子欄影をひきいる応接間★★★
鳥雲にズームレンズの重さかな★★★
小綬鶏や大河ドラマの始まりぬ★★★
廣田洋一
遠景色色変りたる砂嵐★★★
春塵に巻かれつつ行く散歩道★★★
駆ける子を追ひかけ上がる春の塵★★★
多田有花
啓蟄や人みな野辺に繰り出しぬ★★★
鶯や朝の体操しておれば★★★
初桜演奏帰りの山の辺に★★★★
桑本栄太郎
乙訓の丘の田道や揚ひばり★★★
橡の芽のてらてら芽吹く日差しかな★★★★
白壁の築地の塀やしだれ梅★★★
古田敬二
雪消えてシルエットとなる鈴鹿嶺★★★
草原の青き草食む羊かな★★★
どこからか公園に飛ぶなシャボン玉(原句)
どこからか公園に飛ぶシャボン玉★★★★(正子添削)
3月6日(5名)
小口泰與
畦道の右も左も揚雲雀★★★★
大いなる浅間控える桜かな★★★
春暁の禽の鋭声や藪の中★★★
廣田洋一
草餅や思ひ出したる野の香★★★★
絶え間なく白き花舞ふ立子の忌★★★
鳥の声一声高く立子の忌★★★
桑本栄太郎
白れんの今に飛翔や咲き初むる★★★★
陸橋の開き初めたる白木蓮★★★
春雲の嶺を奔りて止まらず★★★
多田有花
うぐいすの囀り繁くなる朝★★★
ポストまで駆けてゆくなり春の雨★★★
さんしゅゆの花や遠くで人の声★★★★
古田敬二
鴨引けりさざ波の無き池となる★★★
葦の芽のさざ波来れば見えぬほど(原句)
葦の芽にさざ波来れば見えぬほど★★★★(正子添削)
雪柳咲けり夕べの雨の後★★★
3月5日(6名)
小口泰與
活写せる五羽の白鳥帰りける★★★
諸子魚釣先頭駆ける女の子★★★
白梅や風の秀づる利根川原★★★
廣田洋一
露天湯の雲の流れて日永かな(原句)
露天湯に雲の流れて日永かな★★★★(正子添削)
帰り来て襟元払ふ春の塵★★★
春埃食事の度に拭き清め★★★
桑本栄太郎
淡々と雨にピンクや馬酔木咲く★★★
山茱萸の花の明かりの軒端かな★★★★
料峭の花、山茱萸は、研ぎすまされたようなきれいな黄色。それが軒端にあると軒端は花明かりに浮き立つようだ。(高橋正子)
蘂のみな上に襤褸やつばき落つ★★★
川名ますみ
風光る新生児抱く父親へ★★★★
抱くことに慣れない父親が新生児をこわれそうなものを抱くように大事に抱いている。それを風がきらきらと吹いてゆく。命の輝きを見るようだ。(高橋正子)
葉のうらにましろき莟シクラメン★★★
菜の花の下にサフラン五つ六つ★★★
多田有花
あたたかき雨の降る音春未明★★★
春の空映せる池に鷺来る★★★
雲行くや芽吹きの時を待ちし木々(原句)
雲行くや芽吹きの時を待てる木々★★★★(正子添削)
古田敬二
煮えたぎる湯へしゃぶしゃぶの蛍烏賊★★★★
残雪も消え影絵となる鈴鹿嶺★★★星
二ン月の時刻の過ぎる早さかな★★★
3月4日(5名)
小口泰與
楤の芽の天ぷらに沸く都会っ子★★★
華やかに沼を囃すや春の鴨★★★
轟ごうと谷川揺るや杉の花★★★★
杉の花が咲くころ、谷川は雪解け水に水量を増して、轟ごうととどろきながら身を揺らして流れる。谷川に迫る杉木立も谷川の音に揺れるほど。堂々とした男性的な句。(高橋正子)
古田敬二
離れ住むわが娘(こ)へ運ぶ雛料理★★★★
離れ住むわが娘に、幼いころを姿を重ね、いまも変わらぬ愛情で、ひな料理を運ぶ。懐の深さと温かさが父親たるところ。(高橋正子)
長男が上手に裁く細魚かな★★★
蛍烏賊入れ歯に堅き目玉かな★★★
廣田洋一
窓際の机うっすら春埃★★★
霞立つ足音だけの人が行く(原句)
「霞立つ」と「行く」の二か所に切れがあります。これは避けたいです。このごろは、このように切ってしまった句を俳句総合誌でも見かけますが、もともと切れは付かず離れずの関係です。(高橋正子)
霞立つ足音だけの人が行き★★★★(正子添削)
丹沢の山々霞む朝かな★★★
桑本栄太郎
溝川の楽となりたる犬ふぐり★★★
休耕の畑を占めたり花なずな★★★
芽柳の佳人のように腰揺るる★★★
多田有花
恋猫の声夜更けにも夜明けにも★★★
遠目にも煙のごとく柳の芽★★★★
はくれんの花芽のほぐれ初めにし日★★★
3月3日(5名)
小口泰與
春の夕秀つ枝下枝に雀かな★★★
初蝶のゆたにたゆたに草の間を★★★
落椿五目並べの手が止まる★★★
廣田洋一
雛飾る形ばかりの雛祭★★★
一枝の桃の節句てふ厨かな★★★★
厨に桃の花の一枝をさした。一枝の桃の花で厨はすっかり桃の節句の雰囲気となる。ささやかながらも心華やぐ。(高橋正子)
遅き日や今日の工程終へにけり★★★
桑本栄太郎
風を避け植え込みに沿い木の芽吹く★★★
陽菜人(ひなと)とう直売所あり春の畑★★★
ものの芽や山里光るさみどりに★★★★
多田有花
ひな祭りよく晴れ朝のまだ寒し★★★★
ひな祭の朝は、晴れた朝なら、特に寒さが残る。昼間はあたたかくなるであろうが、ひな祭りの華やぎに凛とした空気が加わる。(髙橋正子)
雉鳴くや昼餉を終えしその窓辺★★★
雛の日やピアニカで吹くアベマリア★★★
古田敬二
春炬燵きょうから薬一つ増え★★★
寒烏木の天辺に鎮座する★★★
つがい鴨北へ飛びゆく時を待つ★★★★
3月2日(4名)
廣田洋一
シクラメン葉陰に伸びる蕾かな★★★
シクラメン白斑の花の群咲けリ★★★
シクラメンきりりと顔を上げたりき★★★
小口泰與
白鳥帰る声高らかに華やかに★★★
ばらの芽の和紙の如くにほぐれけり★★★
梅の香や縁側に食む塩せんべい★★★
多田有花
ランドセル光らせ下校春日和★★★★
低学年の児童であろうか。まだ日が高いうちの下校。ランドセルに春の日が当たっててらてらと光っている。のどかな下校風景を少し離れて見守る作者のあたたかさがいい。(高橋正子)
春一番吹いて午後には雨あがり★★★
春キャベツ今日の目玉と積まれおり★★★
桑本栄太郎
春荒や傘を斜めに登校生★★★
春一番吹いて雨降る午後の冷え★★★
春睡の赤子のように雨の午後★★★
3月1日(5名)
小口泰與
狂暴の巨花の去りけり春の沼★★★
白鳥の引きゆく沼へ目を張るや★★★
春夕べほつ枝取り合う雀かな★★★
廣田洋一
ものの芽や花壇に秘めし花の色★★★
新築の家に新車や春の風★★★
春塵や道を隔てて舞来たる★★★
多田有花
おぼろ月夕餉のしたくしておれば★★★★
夕餉の支度をしながら窓をみるとおぼろ月が懸かっている。夕餉の支度さえも艶めいて思えるおぼろ月。(高橋正子)
明けてくる窓辺に初音響きおり★★★★
三月や池の畔でピアニカを★★★
桑本栄太郎
山里の地道に迷う春日かな★★★
春日さす南茶屋とや辻看板★★★
UFOと見たるさみどり土佐みずき★★★
古田敬二
陽が落ちるキャベツ畑を黒くして(原句)
春日落つキャベツ畑を黒くして★★★★(正子添削)
キャベツは歳時記では、夏の季語です。キャベツは露地栽培しかできないので、採れる時期によって冬キャベツ、春キャベツ、グリーンボール(夏)、高原キャベツ(夏)があり、今の時期なら春キャベツということになりましょう。
午後からの風に打たれて畑を鋤く★★★
春立てば梢の天へなお高し★★★★
春になった。そのことで梢は天へさらに伸びようとし、天は梢をはるか下にしてなお高くある。万物は高く、明るく、春へ動き始める。(高橋正子)