11月20日(2句)
<赤目四十八滝>
★それぞれに名を持つ冬の滝めぐる/多田有花
冬の滝は水量も少なくなって、厳冬期には凍ることもあるが、この句に詠まれた滝は、まだまだ水量が豊かなようだ。沢山の変化に富んだ滝を歩いて巡るのは面白いことだろう。忍者修行の地の滝巡りに脚力は欠かせないのかもしれないが。(高橋正子)
★通りがけ焚火に寄りて親しめり/廣田洋一
通りがけに焚火をしているところに出会った。最近では焚火で温まることも少ないが、つい寄ってみたくなる。「親しめり」が懐かしい気持ちのあっていい。(高橋正子)
11月19日(2句)
★マスク子の電車待つ間も日向かな/桑本栄太郎
マスクをした子は、風邪をひいているのだろう。電車を待っている間も、日向で暖まりながら、ホームに立っている。その子を見守る眼差しがやさしい。(高橋正子)
★行く水に冬の紅葉の映えており/多田有花
冬紅葉のあでやかさが極まるころ。池や湖の水に映るのもよいが、流れ行く水に映る冬紅葉も、刻々新しい影を流れに映していいものである。(高橋正子)
11月18日(1句)
★冬の海水鳥飛ばす高き波/廣田洋一
「冬の海」は湘南の海であろうか。からりと明るいイメージがあると、冬は曇れば色も寂しく、うねりが大きく高い波が寄せたりする。水鳥が高い波に弄ばされるかのように飛ぶ。生き生きとした冬海の風景。(高橋正子)
11月17日(2句)
★鳥の影一つも無きや冬耕は/廣田洋一
耕しておれば、春ならば、小鳥の囀りがうららかに聞こえてくるが、冬の今は、鳥の影さえ見ない。耕した畑はしんとして力を溜めつつあるようにも思える。(高橋正子)
★上州は雲早き郷返り花/小口泰與
上州はからっ風が名物になるほど。空を吹く風は雲を走らせる郷だ。そんな上州も小春日和が続くと、返り花が咲き、季節外れの花をかわいらしいと思う。(高橋正子)
11月16日(2句)
★冬紅葉合間に光る播磨灘/多田有花
冬紅葉の鮮やかさ。その合間に光る穏やかな播磨灘。かっちりとした紅葉と海の景色だ。(高橋正子)
★冬の蝶花無き里を飛び行けり/廣田洋一
冬となって辺りには花もない里となった。蝶は波を描くように飛んでゆく。蝶の飛ぶのを見送りながら、蝶の命を思ったことだろう。(高橋正子)
11月15日(句)
★徳山の煙りあまたや冬入日/桑本栄太郎
徳山は山口県にある工業都市。「徳山セメント」とセメントの紙袋に印刷された字が遠い昔のこととして私の記憶にある。たくさんの煙突があって、煙が幾本立ち昇っている。すぐに沈んでしまう冬の入日は哀しいほどだ。(高橋正子)
★冬灯読書する影映しけり/川名ますみ
冬の灯を近寄せて読書をしているとき、ふと自分の影に気づく。本を読みふけっている時には気づかなかった自分の影。気づいたとき、「なあんだ、私か。」と思ったのかも。(高橋正子)
11月14日(3句)
★山茶花のこぼれし道や海近し/廣田洋一
山茶花の花の色と海の色の取り合わせに、明るい色調があって、冬が楽しそうである。(高橋正子)
★がっしりの浅間眼間冬林檎/小口泰與
冬の浅間山。がっしりと眼前に聳え、手前には林檎が赤く実をつけている。遠景と近景の配合に、浅間山がぐっと身近に迫ってくる迫力がある。(高橋正子)
★深々と音の冷えをり冬紅葉/桑本栄太郎
「音が冷える」は感覚的な捉え方だ。冬紅葉が照り映えるなか、空気は冷たく、ものの音が、深々と冷えている。はやも底冷えがする冬紅葉である。(高橋正子)
11月13日(2句)
★茶の花や真直ぐに伸ぶ石畳/小口泰與
御屋敷の石畳であろうか。きっちりと真直ぐに伸びている。その傍に茶の花が咲いて、品のよい空気がただよう。清らかな印象の句だ。(高橋正子)
★快晴に甘き香りよ枇杷の花/多田有花
冬の初めに嗅ぐ枇杷の花の香りは印象深い。甘く、品のある香り。快晴の空があれば、枇杷の花も空に映えて、匂いもいっそう香しい。(高橋正子)
11月12日(句)
★木枯しや牛舎の隅に牛集う/小口泰與
木枯らしが早くも吹いた。牛舎の牛も寒さに驚き、体を寄せ合って隅に固まっている。牛舎の藁の匂いや牛の匂いが、私には、冬の匂いとして思い起こされた。(高橋正子)
★産土の神旅立ちの風清か/廣田洋一
陰暦の10月は、産土の神も出雲へ旅立つ。神の旅立ちの頃の風を神渡というが、その風も清かに思われ、神の留守の感じも強まる。(高橋正子)
11月11日(2句)
★潟の蟹無心に食事小春かな/廣田洋一
干潟の小春。穏やかな小春日和と、蟹の無心にな様子に心和むとき。いい時間を過ごされた。(高橋正子)
★窓はみな薪に塞がる冬はじめ/小口泰與
冬を越すための薪がたくさん用意され、軒下の雨の当たらないところに積まれる。自然、窓という窓がふさがれる。冬用意の仕方を見れば、そこの冬の厳しさが知られる。(高橋正子)