青磁ぐい呑みと焼き締めぐい呑み、片口
今回の語り手は、親父にバトンタッチする。
赤城山南麓にある久呂保窯に出掛けた。地元百貨店の個展を見て気になっていたからである。
くろほは、万葉集にも出てくる赤城山一帯の古い地名である。漢字は当て字なので、そこに格別の意味はない。ほには炎と言う意味があるそうだ。
展示室
上州と言えば、空風と雷とかかあ天下、この地帯は雷の常習地帯である。 つまり、ほは、雷→落雷→火事→炎である。
個展の案内葉書にあった青磁の碗が気になっていたが、これは既に売約済みであった。
似たようなものが窯元にあるのではないかと考えた出かけたのである。
展示室に入ると、青磁やら何やら、色々な作風のものが置かれている。
作家は綿貫さん。
一時、自分の作風を追い求めていたようであったが、今はそれほど作風には拘らないと言う。
あるがままの自分流なのかもしれない。
青磁のぐい呑み
棚の片隅に、凛と澄ました顔の青磁のぐい呑みが目についた。
案内葉書にあった碗を二回りほど小振りにしたような感じである。美しいスタイルの魅了され、「連れ帰る」ことにした。
妻は入るなり、目に留めたものがあった。作業机にぽつんと伏せられた民芸調の片口。
残念ながら、それは売り物でないと言う。 訊けば、窯出しの際、冷めるのを待ちきれず、化繊の軍手で出したところ、それが融けて付着してしまったなのだと言う。
同じようなものがないか、探してくれた。元々、ないものねだりなのだからあるはずはないのである。
結局、妻は綿貫さんが現在取り組んでいる民芸調のぐい呑みを選んだ。
綿貫さんはきっと根負けしたのだろう。
帰り際になって、妻は売り物でない片口を綿貫さんからプレゼントされてしまった。
青磁のぐい呑みはガス窯製。民芸風のぐい呑みと片口は蛇窯(長窯)製である。
蛇窯は始めて見た。この窯は作家の意図を超えた面白いものも生むことがあるらしい。
蛇窯から出る作品の歩留まりは1割位だそうである。これでは、とても商売にはならないだろう。
家に帰り、そのぐい呑みで一杯やったのは言うまでもない。