もし男性が火星人で、女性が金星人だとしたら、ディスカウント・チェーン米J. C. Penney社は、昨年のホリデーシーズンの口コミ広告キャンペーンで、笑いの種にする惑星を見誤らなかったことをほくそ笑んでいるに違いない。[「男は火星から、女は金星からやって来た」は、心理学者ジョン・グレイのベストセラー本からの言葉]
J. C. Penney社は2008年11月、『Doghouse』(犬小屋)と題した動画広告を公開した。「大切な人に不適切なプレゼントを買ってしまった男たちが陥った苦境」が描かれたフィクションだ。[冒頭に掲載]。
広告では、ある男性がクリスマスプレゼントに最良と思って、最新式の掃除機を妻に贈ったところから始まる。男性は妻から、犬小屋に入るよう命じられた。その地下は監獄になっており、女性たちにまずいプレゼントを買ってしまった男性たちが入れられていた。
従来の広告とは異なり、J. C. Penney社の商標は、4分半を超えるこの長い動画の最後の最後にようやく登場する。同社のダイヤモンドを購入し、犬小屋から釈放された男性が出てくる場面だ。
この広告は人気を呼んだ。動画の分析を行なう米Visible Measures社によると、この広告は『BewareOfTheDoghouse.com』と『YouTube』で公開されてからの3週間で、トータルで170万回も視聴されているという。さらに、9つの動画サイトに56件アップロードされている。その90%以上が自発的コミュニティーによるものだ。
「反響は間違いなく、予想を超えている」とJ. C. Penney社の広報担当者は言う。「独り歩きを始めてしまった」
J. C. Penney社は、広告キャンペーンの大部分をオンラインに集中させた。専用のウェブサイトや『Facebook』ページを作り、男性を笑いの種にするという昔ながらの手法を用いた。
ただし、オンライン広告は少しでも方向性を誤ると、大失敗に終わる可能性がある。製薬大手の米Johnson & Johnson社が昨年11月に打ち切った鎮痛剤『Motrin』の広告がまさにその例だ。
同社は、自社のウェブサイトで短い動画を公開した。赤ん坊をだっこする母親に向け、背中が痛ければMotrinを、と宣伝するものだった。ところがこの広告は、子供を持つ世代の手厳しいブロガーたちの神経を逆なでし、恩着せがましく感じたブロガーたちは広告の削除を要求した。
勝負はすぐについた。Johnson & Johnson社は批判を受けて数時間で広告を削除した。[別の英文記事によると、批判者からは、「抱っこする母親を否定・侮辱するもの」としてとらえられたという。この動画は、騒動が起こるまでの45日間はまったく関心を呼ばなかったが、11月15日に批判がネットに登場。翌日には、怒った母親たちのTwitterメッセージなどを構成した動画がYouTubeに登場。同日、Johnson & Johnson社は広告を削除した。なお、この広告自体はYouTubeで40万回視聴されたが、反応のほとんどはこの広告に肯定的もしくは中立だったという指摘もあり、同社が最初からソーシャルネットワークの存在を前提にして、これをうまく利用する方向性もあったと指摘されている]
なぜ反応がここまで違うのか、理由を説明するのは難しい。Motrinの広告は、悪意はないものの、押し付けがましいととらえられた。一方、J. C. Penney社のキャンペーンは図らずも、男性に特有の鈍感さと素早い軌道修正をうまく表現していた。多くの男性は自身の鈍さを堂々と受け入れている(あるいは、異性がかかわるときだけそうだと認めている)。
「[J. C. Penney社の広告は、]本来は、宝石の購入を検討している男性に向けた広告だ」と、米J.D. Power and Associates社で消費者動向関連部門を率いるDave Howlett氏は言う。「しかし実際は、男性を笑いの種にする女性たちに受けている」。その戦略がうまくいったようだ。
「私はJ. C. Penney社の広告を気に入っている。大切な人に何を贈るかという身近な状況を取り上げ、それをジョークに仕立てているからだ」と、メディア戦略のコンサルティングを手掛けるB.L. Ochman氏はワイアードに語る。「これは、女性にも容易に置き換えることができる。大切な男性に、永遠の結び付きを意味する宝石ではなく、重要なときのためのネクタイや靴下を買ってしまった女性だ」
しかしHowlett氏は、もし女性を笑いの種にしていたら同じようにうまくはいかなかっただろうと考えている。「私はこの問題を、少し男女差別的な見方でとらえている。男性は女性より自己批判的なところがあると思う。この広告が、まずいプレゼントを買った女性を笑い者にする内容であれば、これほど成功することはなかっただろう」
J. C. Penney社のキャンペーンにも、批判がなかったわけではない。Johnson & Johnson社の広告よりは少ないものの、声高な非難もあった。『MSNBC』のブロガーAllison Linn氏は次のように書いている。
「このキャンペーンで最も嫌な思いをするのが誰かは分かりかねる。性差別主義者の鈍感な愚か者として描かれた男性か。心が狭く物質主義で、人を奴隷にする罰を与えるのが好きで、きらびやかなものに惑わされる存在として描かれた女性か」
しかし、広告の中身を批判する人がいるのと同時に、この動画を友人に転送する人たちもいる。Ochman氏は12月10日、『Advertising Age』に次のように書いている。
複数の女友達からDoghouse広告を教えられた。『Twitter』のダイレクトメッセージも1件届いた。複数の男友達が「きっと気に入るよ」というメッセージ付きで送ってきた。一言で表すと、これこそ口コミだ。友人から友人に、「きっと大好きだよ」、「共感するよ」などと伝えられる。
「最悪なのは、口コミを狙った動画が話題にされないことだ」と言うのは、Visible Measures社でマーケティングと分析を担当するMatt Cutler副社長だ。「宣伝を目的とした動画の歴史を振り返ると、常に、ある程度の論争が起きているものだ」
J. C. Penney社は2008年11月、『Doghouse』(犬小屋)と題した動画広告を公開した。「大切な人に不適切なプレゼントを買ってしまった男たちが陥った苦境」が描かれたフィクションだ。[冒頭に掲載]。
広告では、ある男性がクリスマスプレゼントに最良と思って、最新式の掃除機を妻に贈ったところから始まる。男性は妻から、犬小屋に入るよう命じられた。その地下は監獄になっており、女性たちにまずいプレゼントを買ってしまった男性たちが入れられていた。
従来の広告とは異なり、J. C. Penney社の商標は、4分半を超えるこの長い動画の最後の最後にようやく登場する。同社のダイヤモンドを購入し、犬小屋から釈放された男性が出てくる場面だ。
この広告は人気を呼んだ。動画の分析を行なう米Visible Measures社によると、この広告は『BewareOfTheDoghouse.com』と『YouTube』で公開されてからの3週間で、トータルで170万回も視聴されているという。さらに、9つの動画サイトに56件アップロードされている。その90%以上が自発的コミュニティーによるものだ。
「反響は間違いなく、予想を超えている」とJ. C. Penney社の広報担当者は言う。「独り歩きを始めてしまった」
J. C. Penney社は、広告キャンペーンの大部分をオンラインに集中させた。専用のウェブサイトや『Facebook』ページを作り、男性を笑いの種にするという昔ながらの手法を用いた。
ただし、オンライン広告は少しでも方向性を誤ると、大失敗に終わる可能性がある。製薬大手の米Johnson & Johnson社が昨年11月に打ち切った鎮痛剤『Motrin』の広告がまさにその例だ。
同社は、自社のウェブサイトで短い動画を公開した。赤ん坊をだっこする母親に向け、背中が痛ければMotrinを、と宣伝するものだった。ところがこの広告は、子供を持つ世代の手厳しいブロガーたちの神経を逆なでし、恩着せがましく感じたブロガーたちは広告の削除を要求した。
勝負はすぐについた。Johnson & Johnson社は批判を受けて数時間で広告を削除した。[別の英文記事によると、批判者からは、「抱っこする母親を否定・侮辱するもの」としてとらえられたという。この動画は、騒動が起こるまでの45日間はまったく関心を呼ばなかったが、11月15日に批判がネットに登場。翌日には、怒った母親たちのTwitterメッセージなどを構成した動画がYouTubeに登場。同日、Johnson & Johnson社は広告を削除した。なお、この広告自体はYouTubeで40万回視聴されたが、反応のほとんどはこの広告に肯定的もしくは中立だったという指摘もあり、同社が最初からソーシャルネットワークの存在を前提にして、これをうまく利用する方向性もあったと指摘されている]
なぜ反応がここまで違うのか、理由を説明するのは難しい。Motrinの広告は、悪意はないものの、押し付けがましいととらえられた。一方、J. C. Penney社のキャンペーンは図らずも、男性に特有の鈍感さと素早い軌道修正をうまく表現していた。多くの男性は自身の鈍さを堂々と受け入れている(あるいは、異性がかかわるときだけそうだと認めている)。
「[J. C. Penney社の広告は、]本来は、宝石の購入を検討している男性に向けた広告だ」と、米J.D. Power and Associates社で消費者動向関連部門を率いるDave Howlett氏は言う。「しかし実際は、男性を笑いの種にする女性たちに受けている」。その戦略がうまくいったようだ。
「私はJ. C. Penney社の広告を気に入っている。大切な人に何を贈るかという身近な状況を取り上げ、それをジョークに仕立てているからだ」と、メディア戦略のコンサルティングを手掛けるB.L. Ochman氏はワイアードに語る。「これは、女性にも容易に置き換えることができる。大切な男性に、永遠の結び付きを意味する宝石ではなく、重要なときのためのネクタイや靴下を買ってしまった女性だ」
しかしHowlett氏は、もし女性を笑いの種にしていたら同じようにうまくはいかなかっただろうと考えている。「私はこの問題を、少し男女差別的な見方でとらえている。男性は女性より自己批判的なところがあると思う。この広告が、まずいプレゼントを買った女性を笑い者にする内容であれば、これほど成功することはなかっただろう」
J. C. Penney社のキャンペーンにも、批判がなかったわけではない。Johnson & Johnson社の広告よりは少ないものの、声高な非難もあった。『MSNBC』のブロガーAllison Linn氏は次のように書いている。
「このキャンペーンで最も嫌な思いをするのが誰かは分かりかねる。性差別主義者の鈍感な愚か者として描かれた男性か。心が狭く物質主義で、人を奴隷にする罰を与えるのが好きで、きらびやかなものに惑わされる存在として描かれた女性か」
しかし、広告の中身を批判する人がいるのと同時に、この動画を友人に転送する人たちもいる。Ochman氏は12月10日、『Advertising Age』に次のように書いている。
複数の女友達からDoghouse広告を教えられた。『Twitter』のダイレクトメッセージも1件届いた。複数の男友達が「きっと気に入るよ」というメッセージ付きで送ってきた。一言で表すと、これこそ口コミだ。友人から友人に、「きっと大好きだよ」、「共感するよ」などと伝えられる。
「最悪なのは、口コミを狙った動画が話題にされないことだ」と言うのは、Visible Measures社でマーケティングと分析を担当するMatt Cutler副社長だ。「宣伝を目的とした動画の歴史を振り返ると、常に、ある程度の論争が起きているものだ」