J-PARCセンターは、大強度陽子加速器施設J-PARCの最終段加速器「50GeVシンクロトロン」で30GeV(300億電子ボルト)まで陽子ビームを加速し、原子核・素粒子実験施設(ハドロン実験施設)への入射に成功した、と28日発表した。
J-PARCは、日本原子力研究開発機構と高エネルギー加速器研究機構の共同運営組織「J-PARCセンター」が、2001年から茨城県東海村で建設を進めてきた。大強度陽子ビームによって発生する大量のK中間子やパイ中間子、反陽子、ミュオンなど二次粒子ビームを用いて、物理学、化学、生物学の基礎研究からライフサイエンス、工学、情報・電子、医療など幅広い応用分野への活用が期待されている。世界でも例がない多目的加速器として海外からの関心も高い。
今後、徐々に出力を上げ2月から本格的な利用運転開始が予定されている。
概要
J-PARCの原子核・素粒子実験施設(ハドロン実験施設)は、50GeVシンクロトロンで加速された陽子ビームを用いてK中間子やパイ中間子、反陽子、ミュオンなどの二次粒子ビームを生成し、それらを用いて素粒子物理学、原子核物理学の研究を行うための施設です。特に大強度の陽子ビームを用いて大量の二次粒子を生成するため、強固な放射線遮蔽の構築や、耐放射線性があり、また容易に交換が可能な電磁石の採用など、随所に技術的な工夫をした施設となっています。
J-PARCの最終段加速器である50GeVシンクロトロンでは、平成20年12月に最初の目標である30GeV(300億電子ボルト)まで陽子ビームを加速することに成功しました。今回、この30GeVまで加速された陽子ビームを加速器から取り出し、約250m離れたハドロン実験施設内の二次粒子生成標的まで導くことに成功しました。標的を通過したビームはさらに50m下流に設置されたビームダンプに吸収されました。今後はさらにビームの取り出し軌道の調整などを続け、安定したビームの取り出しや導入の実現に向けた試験調整を行い、2月から主にK中間子ビームを用いた種々の研究を開始する予定です。
J-PARCは、21世紀の科学や技術の研究・発展に大きく貢献する、我が国が世界に誇る最先端の多目的研究施設です。J-PARCでは、中性子や中間子、ニュートリノなどの様々な二次粒子を利用した、物理学、化学、生物学などの基礎科学研究の進展や、ライフサイエンス、工学、情報・電子、医療など、広範な研究分野への応用も期待されています。
J-PARCの加速器は、第1段目のリニアック、第2段目の3GeVシンクロトロン、最終段の50GeVシンクロトロンで構成されています。最終段の50GeVシンクロトロンは、第2段目の加速器である3GeVシンクロトロンから入射された3GeV(30億電子ボルト、光速の約97%のスピード)の陽子ビームを、50GeV (500億電子ボルト、光速の約99.98%のスピード)まで加速することを目指している陽子シンクロトロンで、1周約1600m、直径約500mの我が国最大の陽子加速器です。3GeVシンクロトロンと同様に、新磁性材料を活用して開発された従来比約2倍の加速電界を持つ高周波加速システムなど、随所に世界最先端の機器を使用した装置です。また、遷移エネルギーというシンクロトロンに特有の加速ビームが不安定になるエネルギーが存在しない磁石配置を世界で初めて実現した加速器でもあります。
50GeVシンクロトロンでは、引き続きもうひとつの実験施設であるニュートリノ実験施設において、30GeV陽子ビームを用いて発生させたニュートリノビームを、岐阜県飛騨市神岡町に設置されているスーパーカミオカンデに向けて打ち込む「T2K長基線ニュートリノ振動実験」を予定しており、平成21年4月からの実験開始に向けて準備を進めています。