おはようございます昌栄薬品の宮原 規美雄です
傷寒雑病論集
荒木性次先生『方術説話』より (私が句読点を付けました。)
論曰、余毎覽越人入虢之診、望齊侯之色、未嘗不概然歎其才秀也。
解 論じて曰く、余毎に越人虢に入るの診、齊侯の色を望むを覽て、未だ嘗て慨然として其の才の秀でたるを歎ぜずんばあらざるなり。
怪當今居世之士、曾不畱醫藥、究方術、上以療君親之疾、下以救貧賤之厄、中以保身長全、以養其生、但競逐榮勢、企踵權豪、孜孜汲汲、惟名利是務、崇飾其末、忽棄其本、蕐其外、而悴其内、皮之不存、毛將安附焉。
解 怪しむらくは當今居世の士、かつてを醫藥に畱どめ方術を究し、上は以て君親の疾を療し、下は以て貧賤の厄を救ひ、中は以て保身長全して以て其の生を養はんとはせず、但競ふて榮勢を逐ひ權豪に企踵し、孜孜汲汲として惟だ名利是れ務め、其の末を崇飾して其の本を忽棄し、其の外を蕐やかにして其の内を悴らす、皮の存せずんば毛は將た安くにか附かん。
卒然遭邪風之氣、嬰非常之疾、患及禍至、而方震慄、降志屈節、欽望巫祝、告窮歸天、束手受敗、賚百年之壽命、持至貴之重器、委附凡醫、恣其所措、咄嗟嗚呼。
解 卒然として邪風の氣に遭ひ非常の疾に嬰れ、患い禍ひに及ぶに至りて始めて震慄し志を降し節を屈し巫祝を欽望し竆を告げて天に歸し手を束ねて敗を受く、百年の壽命をそなへ(賚たまう)至貴の重器を持てるを凡醫に委附して其の措く所を恣ままにす、咄嗟ああ。
厥身已斃、明消滅、變爲異物、幽潛重泉、徒爲啼泣、痛夫。舉世昏迷、莫能覺悟、不惜其身、若是輕生、彼何榮勢之云哉。
解 その身已に斃れ明消滅し變じて異物となり、重泉に幽潛されて徒らに啼泣をなさしむ、痛ましいかな舉世昏迷能く覺悟すること莫く其の命ちを惜まず是くの若く生を輕んず、彼の何ぞ榮勢と之れ云はんや。
而進不能愛人知人、退不能愛身知己、遇災値禍、身居厄地、蒙蒙昧眛、憃若遊魂。哀乎。趨世之士、馳競浮蕐、不固根本、忘軀徇物、危若冰谷、至於是也。
解 而して進んでは人を愛し人を知る能はず、退いては身を愛し己れを知る能はず、災に遇ひ禍ひに値ひ身は厄地に居りもうもうまいまい憃として遊魂の如し、哀しいかな趨世の士浮蕐を馳競し根本を固めず軀を忘れ物に徇ふ、危きこと冰谷のほとりに至るが如くなり。
余宗族素多、向餘二百、建安紀年以來、猶未十稔、其死亡者、三分有二、傷寒十居其七。感往昔之淪喪、傷横夭之莫救、乃勤求古訓、博采衆方、撰用素問、九巻、八十一難、陰陽大論、胎臚藥録、并平脈證辨、爲傷寒雑病論合十六巻、雖未能盡愈諸病、庶可以見病知源、若能尋余所集、思過半矣。
解 余が宗族は素より多く向に二百に餘りぬ建安紀年以來猶ほ未だ十稔ならざるに其の死兦せる者三分にして二有り傷寒は十のうち其の七に居せり往昔の淪喪に感じ横夭の救ひなきを傷み乃ち勤めて古訓に求め博く衆方を采り、素問九巻、八十一難、陰陽大論、胎臚藥録并せて平脈證辨を撰用し傷寒雑病論合せて十六巻を爲す、未だ盡とく諸病を愈やす能はずと雖も以て病を見れば源を知るべきに近く若し能く余が集むる所を尋ねなば思ひ半ばを過ぎん。
夫天布五行、以運萬類、人禀五常、以有五藏、經絡府兪、陰陽會通、玄冥幽微、變化難極、自非才高識玅、豈能探其理致哉。
解 それ、天は五行を布き以て萬類を運らし人は五常を稟けて以て五藏を有つ經絡府兪陰陽會通玄冥幽微にして變化極め難し才高識玅に非ざるよりは豈よく其の理致を探らんや。
上古有農、黄帝、岐伯、伯高、雷公、少兪、少師、仲文、中世有長桑、扁鵲、漢有公乘陽慶及倉公、下比以往、未之聞也。
解 上古に農、黄帝、岐伯、伯高、雷公、少兪、少師、仲文あり、中世に長桑、扁鵲あり、漢には公乘陽慶及び倉公あり此れより下りて以往は未だ之を聞かざるなり。
觀今之醫、不念思求經旨、以演其所知、各承家技、終始順舊、省疾問病、務在口給、相對斯須、便處湯藥、按寸不及尺、握手不及足、人迎趺陽、三部不參、動數發息、不満五十、短期未知決診、九候曾無髣髴、明堂厥庭、盡不見察、所謂窺管而已。
解 今の醫を觀るに經旨を思ひ求め以て其の知る所を演べんことを念はず、各の家技を承け終始舊に順ひ疾を省病を問ふ務め口給にあり、相對すること斯須にして便ち湯藥を處し寸を按じて尺に及ばず、手を握りて足に及ばず、人迎趺陽三部を參へず動數發息五十に滿たず、短期も未だ診を決することを知らず、九候にも會ち髣髴なく明堂闕庭盡く見察せず所謂管を窺うのみ。
夫欲視死別生、實爲難矣。孔子云、生而知之者上、學則亞之、多聞博識、知之次也。余宿尚方術、請事斯語。漢長沙守南陽張機著。
解 夫れ死せるを視て生くると別たんと欲するは實に難しとなす、孔子(前五五〇~前四七九)云ふ生まれながらにして之を知る者は上、學びたるは則ち之に亞ぐ、多聞博識も知の次なりと、余は宿より方術を尚とぶ請ふ斯の語を事とせん、漢の長沙の守、南陽の張機著はす。
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