ガトゥ・ハロゥ

八犬伝と特撮と山田風太郎をこよなく愛する花夜のブログ。

架空戦記八犬伝 ~【提督の決断~吼える四艦隊~】 ~

2007年08月19日 23時03分00秒 | 八犬伝いろいろ

(「提督の決断~吼える四艦隊~」吉岡平 著)

架空戦記。戦場の八犬伝とでもいえばいいんでしょうか。

戦時中の、とはいっても架空の戦記で、それぞれに力と能力と技量のある8人が
主力となってアメリカ軍を翻弄させるというお話。
「大和」だとか「大鵬」だとか、軍記モノとか好きな人にはたまらないらしい。
自分的には主要人物が八犬士のもじりってだけで萌える。
(他にも、ニヤリとするようなキャラが出てくるけど)戦闘は割とあっさりと
終了。文章の1/3はキャラクター説明に費やされているのではあるまいか。

特に最後美味しいトコどりの里見の大儀指令、ずるいぞ(笑)


犬田文璽(提督少将)
・帝国の高級士官。後方勤務。人望に厚い。少佐時代にアメリカに留学。

犬坂要(参謀中佐)
・アメリカ人クォーター。本名カナメ・ポール・イヌサカ。
「棄民」として差別を受ける。20代に見える32~33歳。日本人離れまつげ長い。
飛びぬけて優秀な頭脳を持つ目鼻立ちのハッキリした帝国軍人らしき優男。

犬飼衛(二飛曹)
・一匹狼の零戦乗り。22歳。最前線帰りの死地を何度もくぐってきた男。
実力的には少尉になっていてもおかしくないが、喧嘩っ早く営倉行きの常連。

犬山惟史(中佐)
・水雷戦のプロフェッショナル。犬坂の同期で駆逐艦乗りの腕は一流。
30歳そこそこ。髭あり背高い伊達男。「北上」

犬川充(大尉)
・武者絵の金太郎のような美丈夫。謹厳実直を絵に描いたような男。
27~28歳。砲術屋としての能力は稀有の天才。

犬江嘉尚(中尉)
・小柄な青年士官。まだ少年のような海軍中尉。
学徒動員上がりだがあどけなさは残っていない21歳。
彼しかできない特殊任務として特殊潜航艇「坤龍」を操る。

犬塚徹(中佐)
・駆逐艦「逆湖」の艦長。38歳。有能だが素行不良。
「殿下の放蕩」反骨の漢。武将髭。趣味はカメラ。スーパーセミイコンタ。
馴染みの娼婦の名は浜路。

犬村寿壱(海軍少将)
・40代後半のロマンスグレー。少将にしては若い、「愛宕」座乗の次席司令官。


金碗大治郎
・若少佐。巨漢で3~4日の徹夜も平気な並外れた体力の持ち主。犬田と同郷。

東京八犬伝

2007年08月19日 22時06分01秒 | 東京八犬伝
庚は無表情のまま不機嫌そうに冷たい視線を郷に向けた。
郷が目を合わせると同時に黒い粘着物を纏わり付かせたまま庚の身体が
フェンスの外側に傾ぎ、郷の視線から消えた。

「庚!」

郷の身体をもフェンスから引き剥がそうと黒い巨大な粘着物の塊が粘着触手
のようなものを伸ばし郷の手足に絡みつく。早くここから逃げ出したい。
気持ち悪い。階段の踊り場に残してきた、倒れて気を失ったままの洸輝も
気にかかる。意識の無い身体なんてコイツは容易く捕まえるだろう。
さっきの庚のように。

『郷くん、はよ逃げや』

痛みに堪えながらふわりと笑って、庚と郷を逃がすために囮になった洸輝。

(そんなことはさせん・・・!)

郷の手足の先から、ふわりと赤い陽炎のような炎が立ち上った。
ジュッと焦げる腐臭のような嫌悪感を抱かせる匂いが鼻をついた。
ざざっと黒い粘着物は瞬間的に手足から離れ、郷の周囲にわずかな空間ができた。
咄嗟にその場所から逃げようと屋上の入口へ走りかけた郷の足を何者かが掴んだ。
ギョッとして一瞬立ちすくんだ郷の目に、自らの足場となっていたコンクリート
から白い人間の手が現れ、郷の身体を両足首をそれぞれ掴んでいるのが映った。

「う、うわわわっ!!」
「そのまま。目をつぶって!」
「離せ!  離しやがれ!!」
「落ち着けって!! オレだオレ! 郷!!」

足首をこぶしで強く殴られた途端、我に返る。痛みと共に聞き覚えのある声。

「オレだよ。助けるから目閉じて」

郷が目をつむると同時に、ぐいっと足元から引き込まれる。
泥の中のような、ぺたりと軟らかい粘土に身体を埋め込まれるような感覚があり、
それはまた突然に無くなった。頭から落下するような感覚に変わりあわてて目を
開けるもその光景に絶句する。

「もー、落ち着けよな。目を開けていいから。今度は洸ちゃん拾ってくるから
きみは下で受け止めて」

郷は自分が屋上下の教室の天井壁から上半身が出ている聖斗の腕に足をつかまれて
逆さにぶら下げられていた。
落ちかけていた郷の身体を下向きに背後から両腕を抱え支える人物がいる。
落ちたはずの庚がいた。

「庚! なんで!?」
「重い!! ここならもういいだろ、落とすよ!」

庚の身体が空中に浮かんでいた。
庚が両腕を離す前に聖斗が郷の足を離したので、かろうじて足から教室床に落ちる。
それでもバランスをくずしてしたたかに背中を打ちつける。
そのまま仰向けになった郷は、1メートル程上に地面に立つようにして浮かぶ
庚の姿を見た。

「・・・生きてる?」
「あんた、ボケてる?」

イラついたように庚はふんっと息を吐く。言葉を無くしたまま庚の姿を擬視する
郷に、天井から逆さまに上半身をのぞかせたまま聖は叱咤するように声を荒げた。

「ぼうっとしてないで起きて。庚は僕達がここを出るための次の行動に移るから。
郷君は起きて構えてないと、洸ちゃんも落ちちゃうよ?」

君みたいに背中打つよ、ドゥーユーアンダスタン? とばかりに首を傾けた。
うんうん、と慌てて郷はたてに首を振る。
聖斗は庚の腕を掴んだまま、二人はそのまま頭から天井に吸い込まれるように姿を
消した。仰向けになったまま、起き上がる気力も無かった。
ぼんやりとしていた頭を振る。やや間があって、天井から見覚えのある栗色の髪が
現れると先ほどの聖の言葉を思い出し、慌てて起き上がる。まだ気を失っているの
か、だらりと腕が下がったまま背面から落ちてくる洸輝の身体。郷は慣れない横抱き
でしっかりと受け止めた。

「もう少しだけ待ってて。窓に気をつけて。ヤツラはそこまで来てる」
「庚は?」
「窓の外」

それだけ言うと聖斗はまた壁の中に消える。
郷は体力がまだ回復していない。洸輝を抱えこんだまま床に座り込む。
ひとまず一難は去ったけどこの後はどうすればいいんだろう。
窓の外側にじわりと這い伸びてくる黒い塊をぼんやりと眺めながら郷は、はぁっと息をついた。