サッカー狂映画監督 中村和彦のブログ

電動車椅子サッカーのドキュメンタリー映画「蹴る」が6年半の撮影期間を経て完成。現在、全国で公開中。

W杯決勝進出!デフフットサル女子日本代表!!

2023年11月17日 | ろう者サッカー

デフフットサル女子日本代表、ブラジルを7-1で破りW杯決勝進出決定!

2位を争うイングランドは、アイルランドに3-2で勝利。
その結果、日本は予選リーグ最終戦でブラジルに引き分け以上で決勝進出が決まる。

日本の先発、フィールドプレイヤーの4名はアイルランド戦と同じくピヴォに中井香那、アラは岩渕亜依、阿部菜摘、フィクソに酒井藍莉。ゴレイロには芹澤育代が入る。

日本は試合開始早々からブラジル陣内に攻め込む。
最初のシュートも日本だ。まずは阿部のクロスに中井がうまく合わせるが惜しくもゴールにはならない。

日本の選手たちからは、ネットの画面越しにも「勝つぞ」という気持ちが伝わってくる。
前半7分くらいだろうか?
左サイドからのキックインを川畑菜奈がチョンと出し、中島梨栄が左足を振り抜いて先制!
ブラジルはその後、ゴレイロが上がり5人攻撃を仕掛かけてくる。

しかしゴールを奪ったのはまたしても日本、岩渕が右サイド阿部からのクロスに合わせて2点目。
さらには宮田夏実が右45度からゴールを決め、3-0 !

ブラジルにPKを決められ1点を失ったものの、今度は岩渕の自陣から狙いすました強烈なパワープレー返しのロングシュートがゴールネットを揺らす。
なんと前半を4-1のリードで終えた。

日本はトランジションも寄せも速く、気持ち的にもブラジルをはるかに凌駕(しているように見える)。
ブラジルは負けても1位通過は決まっており、気持ちが切れてしまっているのか、それとも日本のフットサルが凄いのか。

後半、どうなるかと思ったが、日本の勢いは止まらない。
芹澤は痛んでしまい國島佳純がゴレイロに入ったが、その國島がゴール前から放ったシュートが相手ゴールネットに吸い込まれていく。
「ゴラッソ!」
ブラジル人実況も絶叫していた。
さらには桐生玲奈、そして宮田もゴールを決め、終わってみれば7-1の完勝。
決勝進出を決めた。

デフフットッサル女子日本代表は前回大会が終わってから、本気で世界一を目指してきた。
そしてやっとその挑戦権を得ることができた。
決勝は日本時間の11月19日日曜午前7時15分キックオフ。

決勝で再び相まみえるブラジルは、今日とは全く別のチームだろう。
だが、きっとデフフットッサル女子日本代表は世界一を勝ち取ってくれるだろう。
そのためにみんな、個人練習、各々のチームでの練習、試合、代表合宿と頑張ってきたのだから。

世界一を獲る瞬間に立ち会えないのが、本当に本当に残念だ。
地球の裏から応援しています。


デフフットサル男子日本代表 初のベスト4進出!

2023年11月16日 | ろう者サッカー

デフフットサルW杯、男子日本代表は準々決勝でスイスと対戦し3-1で勝利、ベスト4、準決勝進出を決めた。

先発はピヴォに野寺風吹、アラは土屋祐輝、宗澤麟太郎、東海林直広がフィクソに入り、ゴレイロは折橋正紀。
日本が早い時間帯(前半2分くらい)に先制、右サイド野寺のクロスにファーに詰めていた東海林が合わせてゴール。
日本はその後もチャンスを作り出すが、1-0で前半を折り返す。

後半スイスも日本ゴールに迫るも折橋の好判断の飛び出しなどもあり、得点を許さない。
後半も残り7~8分(?)となったあたりから、スイスはゴレイロが上がった形でのパワープレーを仕掛けてくる。

日本は自陣のFKから右サイド宗澤へ、宗澤が東海林とのワンツーで抜け出しゴールを決め、2-0とリードを広げる。
さらに日本はスイスのパワープレーの流れから坂本大起がゴールを決め3点目。
スイスに3-0と勝利し、初のベスト4進出を決めた!

準決勝の相手はおそらくブラジルを4-3で破ったスウェーデン。
18日土曜早朝5時キックオフ。だと思います。

ベスト4は、日本、イラン、タイ、スウェーデンとアジア勢が3か国進出。


デフフットサル女子日本代表 決勝進出は次戦に持ち越し

2023年11月15日 | ろう者サッカー

デフフットサルW杯、女子日本代表は総当たりの予選リーグ第4戦でアイルランドと対戦。
その前に行われたブラジルvsドイツ戦で、ドイツが1-7と敗れたため、日本はアイルランドに勝てば2位以上が確定し決勝進出が決まる。
日本の先発はピヴォに中井香那、アラは岩渕亜依、阿部菜摘、フィクソに酒井藍莉、ゴレイロは國島佳純。

先制点は日本、宮田夏実がセンターサークル付近でボールを奪い、ロングシュートがゴールネットを突き刺す。
前半は1-0で折り返した。

この試合まで無失点の日本はアイルランドのFKも國島が落ち着いて弾き出す。
その後も、例えば酒井、宮田、桐生玲奈などでいい形を作る場面もあるが追加点は奪えない。

アイルランドはパワープレーに出る。
1点差だがこのまま試合が終われば、日本の決勝進出が決まる。

しかしアイルランドはパワープレーからボールをつなぎ、後方からのパスをダイレクトで合わせゴール。
日本は終了間際の土壇場で同点に追いつかれてしまった。
試合はそのまま1-1で終了、悔しい引き分けに終わった。

決勝進出は第5戦のブラジル戦に持ち込まれる。
日本が決勝進出の2位を争う相手はイングランド。

日本VSブラジル戦は、16日深夜24時30分(17日0時30分)~。 時間は日本時間。
イングランドvsアイルランド戦はその前に試合があるので、決勝進出条件はブラジル戦のキックオフ時にははっきりしている。
イングランドの試合の勝敗に関係なく、日本はブラジルに勝てば決勝進出。
イングランドが10点差未満の勝利だった場合は、日本は引き分けでも決勝進出。
イングランドが、アイルランドに引き分け、あるいは負けた場合は、その時点で日本の決勝進出決定。

ブラジルは4試合で27得点の強豪だが、とにかく死力を尽くして闘うしかない。

デフフットサル女子日本代表の力を信じています!


デフフットサル女子日本代表 アルゼンチンに2-0で勝利

2023年11月13日 | ろう者サッカー

デフフットサルW杯、女子日本代表の予選リーグ第3戦で、13日、アルゼンチンと対戦。
日本の先発は、ピヴォに中井香那、アラは岩渕亜依、阿部菜摘、フィクソに酒井藍莉、ゴレイロは芹澤育代が今大会初出場。

前半、日本は阿部からのパスを右サイドで受けた中島梨栄が左足を振り抜き、ニアをぶち抜き先制。
2点目も中島、右サイド岩渕からのキックインを蹴り込んだものと思われるが、中継では写っておらず詳細は不明。

前半を2-0で折り返し後半へ。
大量得点も期待されたが、アルゼンチンのゴレイロやディフェンスの懸命な守備で、なかなか追加点が奪えない。
少しプレーが雑になっているような印象も受けた。
だがそれではいかんと気合が入ったのだろうか。

中央をドリブルで持ち上がった宮田夏実から左の岩渕へ、岩渕がダイレクトで蹴り込み3点目。
さらには自陣左サイドからのキックインを阿部が逆サイドの岩渕へ、岩渕は右サイドをドリブルで持ち上がりファーで待つ中島へ、中島が丁寧に合わせてハットトリック!
日本が4-0でアルゼンチンを破った。

3試合で無失点という結果は素晴らしい。

日本代表はこれで2勝1分で勝ち点7、得失点差+7
次戦は14日(火)深夜24時30分~(15日0時30分~)アイルランド戦

(追記)
その後行われたドイツvsイングランドは、イングランドが5-3で勝利。
決勝進出に向け、日本はかなり有利な状況となった。

3試合を終えた戦績は以下。
ブラジル   3勝         勝ち点9 得失点差+18
日本     2勝1分    勝ち点7 得失点差+7
ドイツ    1勝1分1敗 勝ち点4 得失点差+2
イングランド 1勝2敗   勝ち点3 得失点差-6
アルゼンチン 1勝2敗   勝ち点3 得失点差-10
アイルランド 0勝3敗   勝ち点0    得失点差-11

14日火曜22時15分~のブラジルvsドイツ戦でドイツが引き分け以下に終わり、
その後の24時30分~日本vsアイルランド戦で日本が勝てば、日本の決勝進出が決まります。


デフフットサルW杯 女子日本代表はドイツに引き分け

2023年11月12日 | ろう者サッカー

ブラジルで開催中のデフフットサルW杯、女子日本代表は総当たりの予選リーグ第2戦で、11日(日本時間12日)、ドイツと対戦。
ドイツは初戦でアイルランドに5-1と勝利している。

日本の先発は、初戦と同じくピヴォに中島梨栄、アラは岩渕亜依、桐生玲奈、阿部菜摘がフィクソ、ゴレイロは國島佳純。
開始早々ドイツはゴレイロが上がっていきなりの5人攻撃!
足元も上手く身体能力も高そうなゴレイロ故になせる戦術だった。
しかし日本はこの攻撃を凌ぎ、シュートまで持ち込む場面も増えてくる。

初戦ベンチ入りしていなかった酒井藍莉も途中から出場、何とかプレー出来そうで一安心。

ドイツは機を見て5人攻撃をしかけてくるが、日本も落ち着いて対処。両チーム決め手を欠くまま前半を終了。
観る立場からすると目が離せない緊迫した試合。

後半に入ると、日本はシュートを放つ場面が増えてくる。
しかし強烈なシュートはドイツのゴレイロがことごとく素早い反応。

その後日本は連動して崩す攻撃の形も作り出す。
桐生から左サイド前線の酒井に当てて、酒井がゴール前へクロス、しかし中井は惜しくも合わせらずボールはゴール前を横切っていく。
今度は自陣で阿部と中島がボールを奪い、右サイド阿部からゴール前宮田への高速クロスは、ドイツディフェンスのオウンゴールを誘発するかと思われたが、ゴレイロの素早い反応で得点ならず。

終了間際にはFKのチャンスを得ると日本はタイムアウトを取り、デザインされたFKでなんとかゴールをこじ開けようとするが、阿部、中島、桐生とつないでのシュートはジャストミートしない。
しかしその直後には桐生が気持ちのこもったデュエル、ゴール前でドイツ選手からボールを奪いシュートを放つ。
しかしドイツのゴレイロがまたしても素早い飛び出しを見せ、惜しくもゴールならず。

日本の方がチャンスも多く作りだしたが、0-0のスコアレスドローとなった。
ドイツは鍛え抜かれた好チーム。
引き分けを喜んでいたのはドイツのようだった。

2試合終えた時点で日本もドイツも勝ち点4、決勝進出のためには、今後、得失点差も重要となってくる。
3戦目アルゼンチン、4戦目アイルランドから勝ち点3を上げ、予選リーグ最終戦のブラジル戦を迎えたい。


今後の予定(日本時間)
13日(月)20時~    vsアルゼンチン
14日(火)深夜24時30分 vsアイルランド
16日(木)深夜24時30分 vsブラジル
決勝に進出した場合 決勝は19日(日)午前7時


現在の戦績(2試合終了時点)
ブラジル    2勝   勝ち点6 得失点差+12
ドイツ    1勝1分 勝ち点4 得失点差+4
日本     1勝1分 勝ち点4 得失点差+3
アルゼンチン 1勝1敗 勝ち点3 得失点差-6
アイルランド  0勝2敗 勝ち点0    得失点差-5
イングランド  0勝2敗 勝ち点0 得失点差-8


*ドイツ戦は配信で観戦 初戦は音声がなかったがこの試合は音声もあった。
 選手たちの思わず出る声、聞きなれた声もあり、聴者には音声があるとありがたい。


デフフットサルW杯 男子日本代表ベスト8進出! 

2023年11月11日 | ろう者サッカー

ブラジルで開催中のデフフットサルW杯、男子日本代表はグループリーグ第2戦でタイに3-1で勝ってグループ2位以上が確定し、ベスト8進出を決めた。

先発は初戦と同じメンバー、ピヴォに野寺風吹、アラは土屋祐輝、宗澤麟太郎、東海林直広がフィクソに入り、ゴレイロは折橋正紀。

先制点、そして2点目は前半、セカンドセットのメンバーたちから生まれた。
鎌塚剛史がバックパスを奪いカットインしてのループシュートがゴールネットを揺らし先制。
その3分後には坂本大起からのパスを受けた設楽武秀が上がってきた坂本とのワンツーで右サイドを抜け出しダイレクトでファーに詰めた本多将起へ、本多はゴレイロの動きをよく見て、落ち着いて1タッチでゴールに流し込み2点目を奪った。3人が連動した見事なゴールだった。

タイは前半から早くもパワープレーに出る。
しかし日本は後半、日本は左サイド野寺のキックインを設楽が直接合わせて3点目。
その後、パワープレーから1失点は喫したものの3対1で勝利。
ベスト8進出を決めた。

(追記)
グループリーグ第3戦アルゼンチン戦は13日月曜早朝5時~。
日本は5-4でアルゼンチンに勝利。
準々決勝は15日深夜26時45分(16日2時45分)~ 相手はスイスに決まった。
時間はいずれも日本時間。


デフフットサルW杯 男女日本代表 ともに初戦勝利

2023年11月11日 | ろう者サッカー

デフフットサルW杯がブラジルで開幕した。

まず最初に、実はブラジルに行く予定で2年以上前から準備を進めていた。
だが、とある理由で渡航することは叶わなかった。
本当に残念で仕方がない。無念の思いだ…。


ということで配信で試合観戦。
10日、男女日本代表はともに初戦を戦った。

女子は6か国が参加、総当たりの予選リーグが行われ、1位と2位が決勝を争う。
10日に行われた初戦の相手はイングランド。
日本の先発は、中島梨栄、岩渕亜依、桐生玲奈、阿部菜摘、ゴレイロは國島佳純。
前半早い時間帯に日本は先制。左サイドから宮田夏実がゴール前に折り返し、桐生がきっちりと決めて先制。
さらに前半、川畑菜奈がインターセプトし岩渕へ、左サイドから岩渕からの折り返しにそのまま走り込んだ川畑が体ごと押し込んで2点目。

後半に入るとイングランドはパワープレーに出る。しかし國島や阿部の体を張った守りでゴールを許さない。
そして中井香那のパワープレー返しのゴールが決まり、3点目。
日本は3-0で初戦を勝ち切った。

宮城実来、山崎優子も出場、勝利に貢献した。前半、柵に激突し怪我が心配された桐生は後半途中から再出場、大事にはいたらなかったようだ。
酒井藍莉はベンチ入りしておらず、どうしたのだろうか。


男子は14か国が参加、4つのグループに分かれ、上位2チームが準々決勝に進出する。
初戦はブルガリア。先発は東海林直広、野寺風吹、土屋祐輝、宗澤麟太郎、ゴレイロは折橋正紀。
前半終了間際ブルガリアに先制点を許すが、後半、鎌塚剛史からのリターンを受けた野寺のゴールで同点。
そして右サイドタッチライン際からの鎌塚の強烈なゴールが決まり逆転。
さらにはパワープレー返しから東海林の3点目が決まり、見事な逆転勝利!
男女ともに初戦を勝利で飾った。


追記
他会場の結果
女子 ブラジル 8-1 アルゼンチン ドイツ  5-1 アイルランド
男子(同グループ) アルゼンチン 3-3 タイ


電動車椅子サッカーワールドカップ閉幕 記事を書きました

2023年10月31日 | 電動車椅子サッカー

電動車椅子サッカーW杯閉幕から少し時間が経ってしまいましたが、W杯後半戦の試合の様子、全体の振り返り、そして鹿児島で開催された「特別全国障害者スポーツ大会」オープン競技電動車椅子サッカー大会についての記事を書きました。

https://www.paraphoto.org/?p=38112


やまゆり園事件を題材とした映画『月』

2023年10月30日 | 映画

2016年7月26日、45人が殺傷され、うち19人の方が亡くなられた『津久井やまゆり園事件』を題材にした映画『月』が公開中、『月』の雑感を書き記しておきます。

その前に、事件と私の関係(というほどのものではないですが)です。
各障害者サッカーの映画制作を通じて、知的障害、聴覚障害、肢体不自由の人たちとつながり、描いてきた私としてはとてもショッキングな事件だった。当初は忙しさにかまけ何もすることができなかったが、2020年初頭の公判あたりからは事件の全容を理解しようと関連書籍を読み漁り、神奈川新聞、東京新聞の関連記事も事件当日まで遡ってすべて目を通した。映画の原作となった「月」も当然読んだ。

公判にも通い一度だけ抽選に当たり傍聴することもできた。その後も関連シンポジウムに顔を出したり、やまゆり園や自宅付近も何度か歩いてみたりして、何とか映画(フィクション)にならないものかと、植松が生まれてから犯行にいたるまでを書き起こして、プロットなども何度か書いてみたがきちんとした形にはならなかった。
また電動車椅子サッカードキュメンタリー映画『蹴る』の制作の流れで介護福祉士の資格を取り、また強度行動障害の状態にある入所者がいる施設に通ったり、強度行動障害支援者養成研修を受講したりと、いわゆる福祉側からの視点としての興味も持ち続けた。

そんななか、昨年の夏ごろに映画が作られると知り、完成したら是非観たいと思っていたところ、試写会で観ることができた(公開後にも再見した)。ということで感想を書いていきたい。

まず大前提として、難しい題材を映画化したスタッフ、キャスト、関係者の方々には敬意を表しますし、何よりも映画が作られ多くの人に目に触れ、風化しつつある事件を改めて考え直すきっかけになったことは素晴らしいことだと思っています。

では項目別に感想を書いていきます。

『きーちゃん』の描き方
きーちゃんは原作である小説『月』の登場者。目も見えず、発語も他者との意思疎通もできず、上肢下肢も顔面も動かせず、ベッド上に“かたまり”として存在し続ける。原作はほぼ、そのきーちゃんの想念で埋め尽くされている。
事件に則して言えば、被害者側、殺された側の人物である。

その想念をなんらかの形で直接映像化するのか、あるいは別のやり方をするのかがまず最初の興味だった。
映画では、書けなくなった小説家である洋子(宮沢りえ)が、きーちゃんの心を書き、彼女自身の再生のドラマとしても描かれる、という間接的な表現となっていた。

想念を直接映像化すればおそらく観客層を狭めることになるだろうし、元々、故河村光庸プロデューサーの「なるべく多くの人に観てもらえるような構えの大きい映画にしたい」という意図があったようで、だとすると、おのずと選択肢は限られてきたようだ。
それならそれで良いと思うが、洋子が書き上げた小説を、なんらかの映像表現で、きーちゃんの言葉としてさとくんに対峙すべきなのではないかと思った。(さとくんとは、植松聖死刑囚をモデルとした小説内の登場者)

小説は、事件後、事件に対峙するものとして存在し続けるということはわかるのだが、映画内で描くべきことだったのではないか。
原作では、きーちゃんを殺しにきたさとくんに「(略)〈ひとでないひと〉というのは、きみのかってなきめつけだ」「あ、あ、在るものを、むりになくすことはない……。あ、在ることに、い、い、意味なんかいらない」と訴えかける。その場面に代わりうるようなシーンとして。


『さとくん』の描かれ方~職員の描かれ方 その他
原作に出てくる『さとくん』は植松聖死刑囚をモデルにした登場者であり、事件をどう描くかということとストレートにつながってくる。植松には多くの方々が接見したが言いたいことだけを言い放ったという印象はぬぐえず、また責任能力の有無に終始した一審でも十分な解明にはいたらず、犯行にいたるまでの過程の足りない部分をフィクションの想像力でどう補うのか、そしてそもそもどう描くのかと思い注視した。

映画パンフレットで石井裕也監督が「植松自身の人間像を掘り下げるだけではあまり意味がない」「限りなく『ごく普通の人間に置き換えていく作業』」と言うように、「事実に寄せ過ぎないように」人物造詣がなされ、例えば普通だけど紙芝居の内容がちょっと変という味付けはされているものの、実際の事件に比して犯行に至る心理過程は圧倒的に足りなかった。
映画「ジョーカー」のように観客がさとくんへ感情的に後追いするような現象は回避しなくてはならないだろうし、確かに致し方ない面もあるだろう。
また「彼が持つ思想や考えはいまのこの社会の産物であって、ごく普通の誰の心の中にも潜んでいるんじゃないか」と石井監督がいうように、英雄視は論外としても、特別なことではなく社会の問題として描きたいこと自体は理解できる。

しかし、さとくんをできるだけ普通に描く一方、監督が取材した障害者施設での虐待の現状をリアルに描いている部分があり、結果として施設内のいびつな虐待や糞尿まみれの入所者そのものが、さとくんを犯行に向かわせたという印象が強まっている。
もちろん一つの要因にはなりえるが、あきらかに映画全体のバランスが崩れているようにも感じた。

実際には植松は、介助経験から感じたこと、日本の財政危機やトランプ大統領の台頭、犯行を犯せば総理大臣に褒められると(植松が勝手に)思った政治状況、ネット空間の影響、イルミナティカードの勝手な解釈、薬物の影響、個人のパーソナリティ等々、複合的な要素がからまって犯行にいたったものだと思われる。

また施設を舞台とするならば、虐待とはほど遠い、小説家志望でもない、いわば普通の職員たちと重度障害者の密な関係をベースとして描く必要があったのではないか。もちろん撮影することは容易ではないが。
一度公判を傍聴できたと前述したが、その日は、やまゆり園職員の方の意見陳述があった。犯行当日、入所者がしゃべれるのかしゃべれないのか植松から確認された職員の方だった。映画では陽子(二階堂ふみ)の存在にあたる。
PTSDに苦しみ、植松に対しては「命が終わる最後まで、命の尊さと向き合ってほしい」と述べられた。その残酷な場面との対比の意味でも、日常の様子はあったほうが良かった。自分であれば最もこだわる場面でもある。

石井監督は、実際の障害者の方々が出演することにはこだわり、撮影した施設側の協力もあって出演されたそうだ。そして撮影そのものが出演された障害者の方々にその後好影響を与えたようだが、原一男さんも指摘されているように彼ら彼女らが『小道具』の域をでていないようにも感じた。
(渋谷ユーロスペースの壁面に原一男さんの批評が張ってあった。最後、持ち上げるのかと思いきや最後まで辛辣な批評だった)

さとくんに話を戻すと、恋人=祥子(長井恵理)がろう者の設定になっていた。この設定にはとても大きな違和感を感じた。
植松は「意思疎通のとれない人間」は生きていてもしかたがないとい主張していたが、話すことができなくとも手話で語る聴覚障害者は植松の対象外だという。石井監督はそれを受け「彼の不寛容さを描くにあたって、どこに寛容さを示すのか明確にしておきたかった」ことから、ろう者が恋人である設定にしたというが、明確にするのは良いと思うが、恋人の設定にするのはあまりにも飛躍し過ぎだと感じた。
またろう者である祥子は「我々が使うだらしなく使う言葉の空虚さから逃れている存在」というが、聞こえないから音声言語の空虚からは逃れているかもしれないが、手話も言語だからこそだらしなく使う言葉の空虚さをもつわけで、手話に対する何か幻想じみたことを感じていたのだろうか。

撮影としては、実際のろう者である長井恵理さんがキャスティングされ、手話指導もろう者監督の今井ミカさんが入り、しっかりと進められたようだが、そのことと、ろう者の恋人を設定することは全く異なる話だ。

長井さん(祥子役)と磯村さん(さとくん役)は、2人が付き合って何年目であるとかいろいろ話したらしいが、自分の頭のなかでは2人の過去を考えれば考えるほど、犯行へといたる、さとくん像が見えなくなった。
また犯行に及ぶ日の朝、さとくんは彼女に聞こえないように犯行をほのめかすことをしゃべるが、そのことがプラスに働いているとは思えなかった。
この恋人設定は「『ごく普通の人間』に置き換えていく作業」のなかで、行き過ぎた改変だったのではなかろうか。

陽子(二階堂ふみ)も昌平(オダギリジョー)も石井監督の観念の産物というイメージが大き過ぎるように感じた。現実に起こった事件を元に描くにあたっては、石井監督以外の脚本家も加わり、もっと客観視できる制作体制にすべきだったのではないかとも感じた。

ただ前述したように、映画が作られ多くの人に目に触れ、風化しつつある事件について議論するきっかけになっていることはとても評価しています。
言うは易し、作るのは大変です。

(参考資料)
映画「月」パンフレット
月刊「創」11月号(創出版)
「月」辺見庸(角川書店)


映画『月』は試写会と公開後の2度観たが、試写会では、元津久井やまゆり園の職員の方や、やまゆり園事件に詳しい方々と観て、その後感想を語り合った。
その元津久井やまゆり園の職員の方が映画.comに感想を書かれている。

https://eiga.com/movie/99730/review/03114141/


電動車椅子サッカーW杯 予選リーグがすべて終了

2023年10月19日 | 電動車椅子サッカー

第4回電動車椅子サッカーW杯5日目、日本代表は予選リーグ最終戦の相手はデンマーク。
デンマークは直前のアルゼンチンとアメリカの試合が引き分けたため、試合前にベスト4進出の可能性が消滅。
一方の日本は勝っても負けても7位決定戦進出は変わらずで、数字上は消化試合となったが、やはり予選リーグ最終戦は勝利し、いいイメージで終えたい。

日本の先発は、三上勇輝、平西一斗、塩入新也、中山環。
塩入はイングランド戦同様、ゴールエリアに下がる。GKユニフォームは三上、デンマークの10番Petersenを抑え、押し上げるという役割も担っているのだと思われる。イエローカードを2枚もらっていたが、予選リーグ最終戦ということもあり、気兼ねなくプレーできる。

実際、日本が押し上げ、デンマーク陣内でのプレー時間が多く、惜しい場面も見られた。
イングランド戦では攻め込まれ、ゴールエリアに下がった塩入はあまり休むことはできなかったが、この試合では負担軽減されているようだ。

デンマークは、GKユニの三上をゴールエリアから遠ざけようという意図か、10番Petersenがポジションチェンジしてサイドに回ることも多くなる。
その対応か、平西に代わりGKユニフォームの内海恭平が入り、三上はGKユニを脱ぎフィールドプレイヤーの青に変わる。
日本は内海と三上の当たり負けしないコンビに変わった。

前半は0-0で終了し、後半も同じメンバーでスタート。

デンマークに攻め込まれる時間帯もあったが、塩入の好守で得点を許さない。
31分、中山がデンマークのバックパスに果敢にプレスをかけシュートするも、惜しくもゴールポストに跳ね返される。
その後は、攻め込まれる場面が増えたがゴールを許さず、スコアレスドローで終えた。

日本は予選リーグ9試合を1勝4分4敗、勝点7、得点6、失点16、得失点差-10の戦績で終え7位となり、7位決定戦でウルグアイと対戦する。
キックオフは20日午前9時(日本時間)。

明日の試合もおそらく6人で臨むことになると思われるが、是非最後を勝利で締めくくってほしい。
先発は、池田、平西、塩入、中山だろうか。

予選リーグの戦績は以下
1位 フランス    勝ち点27  得失点差+43   
2位 アメリカ    勝ち点22    得失点差+15
3位 イングランド  勝ち点 21   得失点差+17  
4位 アルゼンチン    勝ち点14  得失点差-1 
5位 オーストラリア 勝ち点12  得失点差-7
6位 デンマーク   勝ち点11  得失点差-5   
7位 日本      勝ち点7   得失点差-10  
8位 ウルグアイ        勝ち点6   得失点差-15    
9位 アイルランド  勝ち点4   得失点差-17 
10位  北アイルランド   勝ち点2   得失点差-20  

フランスの総得点45、得失点差43は驚異的です。
準決勝は、フランスvsアルゼンチン、アメリカvsイングランドの対戦。