再び原点回帰なり!

未熟なビジネスマンの心のつぶやき

日本のエネルギー政策を考える(5):どうする原子力#3

2011-04-30 09:35:36 | 日本のエネルギー政策を考える!

私が社会人となった1981年(昭和56)前後は、原子力工学が最も華やかだったころであった。

私が新卒社員として入社した建設会社でも、その年に原子力本部が新設され、多数の優秀な技術者が採用された。そして、その新設組織のトップは、一流大学から招いた方を副社長として充てた。

資源のない日本国にとって、原子力エネルギーに頼ることが経済成長の鍵となる。そのようなある意味で明確な国家戦略の下に、日本の原子力政策は着実に進められ、その政策を現場で担うエンジニアにも、優秀で気概に満ちた人材が多かった。

その後、1986年のチェルノブイリ原発での事故や国内でも東海村、JCOでの相次ぐ事故などの現実を通じて、原子力の安全性に疑問が生じ始め、原子力ブームは急速にその推進力を失っていった。

そうなると大学や企業でも原子力なにがしと銘打った学科や部署も、次第に姿を消すこととなり、その結果として優秀な人材循環も止まってしまった。

ただここ数年間は、地球温暖化対策の切り札として、温室効果ガス削減に資するのはやはり原子力しかないということに、世界のエネルギー政策が一斉に舵を切った。

日本でも同様で、そもそも原発反対派が多かったはずの民主党政権となっても、その政権下でエネルギー基本計画が改定され、2030年までに新設原発14基という計画が打ち出されたばかりである。

そのような大きな潮流の中で起こった今回の福島原発の大惨事。

その記者会見をする政府、国(原子力保安院)、東電、大学教授など、さまざまな原子力関係者の対応や話しぶりを見るにつけ、私のような原子力の素人にもはっきりと分かったことは、この国には本当の意味での原子力発電事業・ビジネスというものを全体的・包括的に理解し把握している人材(管理者も技術者)が不在だということである。

特に技術的な面ではその欠落が顕著である。つまり、現場のことも含めた全体プロセスが本当に理解できている優秀な技術者がいないということだ。だから、今何が起こっているのか、これから何が起こりうるのかなど、明確にかつ分かりやすく説明できる人がいない。

しかしながら、われれれが今直面している問題は、まだ国内では50基あまり、世界にも400基近くの原発が稼働しており、われわれの生活を大きく支えているという現実である。

本来なら、今回のような事故を契機として、もう一度原子力工学の再構築と進化が期待されるところであるが、果たしてその分野に技術者生命を捧げて飛び込もうという若者が今後どのくらい出てくるであろうか。

残念ながら人材不足はさらに加速するのではないだろうか。

このことが今後の原発の安全にも大きく影響してくるであろうし、最大のリスク要因となる。

工学・エンジニアリングという分野は、あくまで現場、現実との戦いである。そして、そこに絶対はない。試行錯誤(トライ&エラー)という言葉こそ、工学の進歩には欠かせない概念である。

つまり、失敗が次なる成功、成長、進化につながる。それがエンジニアリングの本質である。

その点から言うと、原子力発電はあまりに失敗の代償が大きすぎる。ある意味大きなエラーが絶対に許されない。

そこに原子力エンジニアリングの抱える大きな課題があり、ただし現実問題として、その点を避けて通ることもできない。

誰かがこの問題に真正面から取り組むしかない。それが誰なのか、誰であるべきなのか。やはり現時点では、国と政治、それに心ある原子力関係の技術者なのか。

こうした点においても、オープンな場での国民的な議論に基づいた方針決定が急がれる。もうそんなに時間はない。