俺の友人の弟が、お前と同じ学部なのは知っているな。
彼は教室でお前の顔を見たことがないと言っている。一体お前はどこの大学に行っているのだ」
「ばれてるなら仕方がない。推察通りだよ。学校には行ってない」
「理由は何だ。弁護士になる夢は諦めたということか。まさかお前が歯が立たない分けではない
だろう。それとも他にやりたいことでもできたか」
「理由は別にないけれど、なんかやる気が起きない。さっぱりなんだ」
「そのようだな。学校に行って調べてみた。このままでは留年か退学だ。まるで出席していない。
お前一体何を考えているのだ」
最初怒りに吊り上がっていた眼が、次第に軽蔑と哀れみに変わっていた。
「何か考えがあるのか」
「何もない。ただ行く気にならないんだ。
実は大学に入ってから、だんだん気力が萎えていくみたいで、3年になってからは特にひどい。
体中のねじが弛んで、蝶番も外れてしまって、グズグズと崩れていく気分だ。何もやる気がしな
い。兄さん、俺は病気かな。兄さんも父さんも医者だ。専門科じゃなくても、それでも医者だ。今
まで俺を見ていて、おかしいとは思わなかったか。
病気じゃないかと思ったことはないか。
俺自身は自分が病気だという気はしないが、それでも周りを見ると、自分はどこか変だと思って
いる。
だから今までに自分なりに、原因や理由やらを探していた。
あれが悪いとか、これが良くなかったとか大体は人のせいにしたり、社会のせいにしたり、時代
のせいにもしてみた。