この風はあなた様から吹いてくるのではないかと。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。
巡る季節の中、どうぞご自愛下されますよう。
かしこ 」
鉄五郎はかげり始めた西日を受けて輝く、海原を見詰めていた。
入江の家は眼の下にあり、苦労して拓いた斜面の菜園はようやく勢いを得て風にそよいでいた。
手元の開かれた長い手紙も、その風を受けて揺れている。
今日、漁協事務所で清子から渡された手紙は、鉄五郎がこの地に来てから受け取る、初めての手
紙というものだった。
差し出し人の杉野和美の脇に、括弧で囲まれた旧姓野木の名を見た時、心がざわついた。
最初の一葉を読み切らない内に、体に電流が走った。事務所の扉の前で茫然として立ちつくし、
手紙は途中で封に戻した。
それから後のことは自分でも、どうやって家に着いたのか覚えていない。
同行した高志に延縄の仕掛作りを指示し、あやには裏山の畑で草むしりをしてから、菜を採って
くると告げて、御用篭を背に追いたてられるように家を出た。
菜園の切株に腰を下ろし、再び手紙を開いた時は指先が震えた。
別れてから25年、忘れようにも忘れることができなかった、我が子からの手紙だった。
最初の一読では文字が踊り、意味を良く捉えることができなかった。
同じ所を何度も生きつ戻りつを繰り返すうちに、次第に時間が溶解し、あの時のことがまざまざ
と脳裏に甦ってきた。
胸の奥から突き上げてくるものがあり、その抑え難い力が全身を揺さぶり、やがて突然に崩れて