半跏思惟像の微笑み
新羅の時代に金の取り扱いが上手いと評判の金職人が、石仏寺に安置する仏様である「金銅彌勒半跏思惟像」を作るよう王命を受けた。女性の耳飾や腕輪のようなものを作っていた金職人として仏像を作ることは、この上ない光栄なことだった。
金職人は蓮華座の上に座って右の足を左の足の上に重ねて、軽くうつむいた顔を右側の手で支えたまま、法と真理の世界を瞑想する半跏思惟像の基本の形はそんなに難しくなく作ることができた。しかし、仏様の奥深い悟りの微笑みをどうやって具現化するかということが問題だった。
彼は体と心をきれいにして全精神をこめて仏様の微笑を作った。しかし、どんなに考えても、それは彼が考える真理の微笑みではなかった。
彼は仏様を作っては壊し、壊してはまた作るということを数年の間繰り返した。しかし、どんなに繰り返して作っても、できたものは平凡な人間の微笑にしか感じられなかった。もはや彼はどうしていいのかわからなかった。
自然に体と心はやつれていった。はじめからできない事を引き受けたようだと思って食事どころか、眠ることもできなかった。あきらめてしまうことがいいという思いが、一日に何度も浮かぶが、王命を破ると言うことはすなわち死ぬことを意味した。
彼はよくよく考えたがだめで、仏様の微笑を探して家を出た。限りなく世の中を回って見れば、この世に仏様の微笑があるような気がした。
彼は仏様の微笑に出会うことができなければ、決して家に帰らないと固く決心して、すべての世の中を巡った。しかし、どんなに巡っても仏様の微笑を見つけることができなかった。日差しが輝く木の葉の間にも、かげろうがあがる平野のどこにも、仏様の微笑みは見えなかった。
若くて健康だった彼の肉体はいつの間にか疲れ老いてしまった。彼はもはや病気になった肉体を引きずって、これ以上どこにも行くことができなかった。半跏思惟像を作れなければ、このまま死んでしまうことも、もしかしたら仏様の意思かも知れないという思いがした。
そんなある春の日だった。彼はある村の前をのろのろと疲れた足取りで過ぎていった。あちこちの野原にはヨモギが芽を出し、遠くの山にはハクサンイチゲが広がっていた。
彼はその日、やけに喉が乾いた。冷たい水を一杯飲みたいと言う思いが切実だった。彼は目に付くまま、ある家のしおり戸を押して庭に入って行った。井戸端で一人の少女が米を洗っていて、春の日差しが優しく降りおろす板張りの床では老人がしらみを取っていた。
「私に水を一口くれ。」
彼は少女に水を頼んだ。
少女は丁寧に器に新しく摘んだ木の葉を一枚浮かべて水を持ってきた。水の味は格別だった。
「やっと生きた心地がする。娘さん、ありがとう。」
彼はすぐに水を一口飲んで、少女にお礼を言った。すると、日の当たる床に座ってしらみを捕っていた老人が彼に言った。
「これ、こっちに来てこいつらとちょっと遊んでみなさい。」
彼は水の入った器を持ったまま、のろのろと老人のそばに近づいた。老人は捕まえたしらみを床に置いてそれと遊んでいた。
「はは、しらみを捕まえて殺していたのではなかったのですね。」
彼はしらみと遊ぶ老人の天真な姿を見て、自分でも知らずに顔に笑みが広がった。瞬間、彼は驚かずにはいられなかった。もう一度水を飲もうと器を見た瞬間、水の上に静かに浮かんだ微笑、それは彼が生涯探してさまよった仏様の微笑み、正にそれだった。