巻頭言
話が上手いということは人の心を読む術を知っているということだ。
私たちは毎日複雑な人間関係の間で生きている。言葉と言うものは人間関係をより成熟させる段階に引き上げる重要な媒介体になる。場合によっては言葉はどんな暴力よりもひどい損害を与えることもあるが、生死の分かれ道にいる人を生に引き入れる役割もする。
ある人が事業で失敗して妻に離婚された後自殺をする決心までするに至った。これ以上生きる意味を見つけることのできない彼に最後に残った選択というのは死ぬことしかなかったのだ。しかし、ある日偶然に一人の友達から電話が来た。
「成功した人の過去は悲惨であるほどに美しいと言う言葉がある。お前も勇気を出せ。」
友達の困難な状況を慰めようとした一言が死を決意した一人の人には救いの声に等しかった。
電話をかけてきた友達は彼が今どんな決意をしているのかも知らないで偶然にテレビを見ていて胸を打った言葉があってそれを電話で聞かせてくれただけだった。しかし偶然にもこの一言が一人の人を死と言う最悪の選択から救ったのだ。
人間関係と言うのは、見えない人の心を相手にして会うから時に対立と葛藤を生むものだ。そんな時相手の意表をつく一言がどれだけ重要な役割をするかに対してはこれ以上言及する必要もないことだ。ただ強調して置きたいことは、言葉と言うものが人間の生活の基本的価値に答えをくれると言う事実だ。
人間社会のすべての不幸は相互の不信に始まると言うことだ。そんな不信は大概の場合、不適切な言語作用に因る真実の歪曲のために、時に避けることのできない現実になることもある。結局人の心をちゃんと読めない話術が人間関係の破局を招くのだ。
話が上手いと言うことは人間関係という生涯の事業を成功に導くために最も大きな知的財産だということができる。それは単純な口先だけの要領がいいとか、甘いたくらみとは明らかに区別される賢明な処世のひとつの方法として理解されなければならない。
言葉をどのように発するかと言うことはどんな人生を生きるかと言う問題とも直結される。どうせ人は一人では生きていけない存在であるから、他人との関係をどのように発展させるかによってその人の人生も大きく違ってくるからだ。
この本は現代人の暮らしにおいて最も大きく重要な社会的関係である職場内での話術のノウハウを主に扱っている。しかし、ここで扱われている状況は私たちが暮らす世の中のすべての関係にもよく通じる事例でもある。ただ、職場と言う組織社会で結ばれた人間関係に比べて、言葉による葛藤と誤解の素地がより多い環境だと言う点に着眼して主な背景にしただけだ。
なにとぞ、この本が人と人との心をつなぐ楽で簡単な飛び石の役割になることができることを願う。
1999年7月
キムソッチュン