退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

울지 말고 꽃을 보라

2014-10-06 06:13:47 | 韓で遊ぶ

りんご3個の祝福
雪の降った日の夕方だった。足首まですっぽり埋まるほど降ったぼたん雪に、暗闇さえ明るく感じられたそんな日だった。彼女は仕事帰りに家で待っている子供たちを思いながら、普段からなじみの果物屋に立ち寄った。クリスマスが過ぎて新年になったと言うのに、何一つちゃんと買ってあげたものがないという思いがしたからだった。
「いらっしゃい。」
かなりふけて見える男の店主が彼女を迎えた。彼女はあれこれ考えることなく、大きくておいしそうに見えるりんごを10個選んだ。すると店主が言った。
「一箱買っていきなさいよ。箱で買えばずっと安いよ。」
彼女はためらった。考えもなしにりんご一箱買ったら貧しい家計にひびが入るのではと心配になった。
すると、その時20代の青年が店の戸をあけて入ってきた。また雪が降り出したのか青年の頭には雪が少しのっていた。
「おじさん、さっきここでりんごを3個買って行ったのですが、行く途中で滑って、そのままりんごが潰れてしまいました。申し訳ないのですが取り替えてもらえませんか。実は今日が父の法事で膳に上げようと、りんごを買ったのですがこんなになってしまったのです。またりんごを買えばいいのですが、私の身の上がそんな楽でなくて、おじさんどうかお願いします。」
青年はばつが悪そうに、店主が頼みを聞いてくれたらと思いながら懇切なまなざしでした。しかし、普段はやさしく見えた店主が、意外にも青年の頼みを聞いてやりませんでした。
「私が何で、家を売ってでも商売をしていると思うのか。そんなりんごを他人にどうやって売れと言うのだ。」
「私もよくわかります。法事の膳にあげるのでなくて、ただ私が食べるのであれば、あえてこんなお願いをしません。大変でしょうがもう一度考えてみてください。」
「ほほ、この人、私が他人にいいことをしようとこの年でこんな苦労をしていると思っているのか。」
青年は狼狽した顔で立っていた。潰れたりんごを持った手が小さく震えた。
その時、彼女が口を開いた。
「おじさん、私がりんご一箱買うわ。そのりんごから一番いいのを3個選んでその青年に上げて頂戴。私は子供たちと食べるから痛んだ部分があっても大丈夫。」
彼女ははじめに心を決めていたのとは違って、一番おいしそうで色合いのいい富士りんごを一箱買った。店主が彼女の言葉通り一番いいりんごを3個取り出して青年にやって、青年が持っていたつぶれたりんごを箱の中に入れた。
すると、青年が深く頭を下げながら感激した語調で言った。
「おばさん、本当にありがとうございます。この恩は忘れません。新年に幸福がたくさんありますように。」
「恩なんて、君も幸福をたくさんあるように。」
「はい、ありがとうございます。」
青年はもう一度腰を曲げて挨拶をして店を出て行った。
彼女は暗い路地の端に消えた青年の後姿をしばらく見守った。今まで、このような本当の祝福の言葉を聞いたことがなかった気がした。自分が青年にしてあげたことをお金で言えば何千ウォンにもならないが、その青年は自分にお金で買えることのできない重要なものをくれたと言う思いに胸がしびれてきた。
コメント
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