妻の秘密
日差しの気持ちいい休日の朝でした。
大掃除をしようと家具を動かしていたら、隅に無理やり押し込んだ包みをひとつ見つけました。私はその包みを持って妻のところに行き尋ねました。
「おい、、、これは何だ。」
「な、何が。」
瞬間、慌てたように見えた妻は、すぐに何事もなかったようにその包みを取り上げて、屋根裏部屋に上がって置いて来ました。包みを持って行きながら妻はため息をつきました。
「ふぅぅ、、」
顔色まで変わった妻の態度が気になりましたが、私はそれ以上問い詰めることなく掃除を続けました。そして何日か過ぎました。夕食を食べていて急にその包みのことを思い出し、それとなく、聞いてみました。妻はいったん匙を置いて、そしてまた持って上の空で答えました。
「何でもないって言っているじゃないの。」
私は、妻が何か隠しているという事実が不快で、もう一度催促し、結局その包みにまつわる事情を聞くことになりました。
その色あせた包みは、妻が末の子を産んだ時に、妻の実家の母が、産後に飲みなさいと送ってくれた補薬だということでした。もったいないことをしたと思って、どうしてその時に飲まなかったのかと聞くと、妻は悲しそうに言いました。
「義母さんの前で、新米の若い嫁が補薬を飲むなんてとんでもない、、と思って、一日伸ばしにしていたら忘れてしまって。」
妻のその言葉に、私は何も言うことができませんでした。息子の私の目にも、母は普通の姑ではありませんでした。
毎日ゴミ箱をチェックして、食べ物グズや使わないものが捨ててあったならば、取り出して難癖をつけていた母、そんな20年でした。
私は心の中ですまないと思いながら妻の顔を見ました。補薬の包みが黄色くなる間に、妻のきれいだった顔にも、しわが増えました。
その日の夕方、私は妻に隠れて屋根裏部屋の年月を経た補薬を取り出して、心を込めて煎じました。
「オイ、俺が補薬、煎じてやったぞ。」
「ええっ。何ですって。」
「調べてみたら、10年たった補薬でも中国産の薬よりはいいってよ。実家の母さんが大事な一人娘にくれたものを、捨てるわけにはいかない、ハハ、、、さあ、早く飲みなさい。」
妻は、年老いた夫の冗談が嫌ではないようなそぶりで、補薬の入った器を受け取り飲みました。歳月を経た補薬には亡くなった実家の母さんと、できの悪い夫の深い愛が染み出ていたのでした。