退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-04-16 06:36:36 | 韓で遊ぶ


父の窓

トンミは町の賃貸アパート街に暮らす少女です。
トンミのお父さんは“ルゲリック (ALS)”という病気と7年間、闘っています。
粗末な部屋のベッドに横たわっている父。精神ははっきりしているけれど、、、とても、しっかりしているけれど身体がこわばってしまい言葉も発することができない恐ろしい病気でした。言葉はもちろん、一人では息をすることさえも大変で、いつも呼吸器をつけて生きなければなりません。父の意思表示の手段は、唯一動くことができる足の指ひとつで、ベッドの足元のベルを押すことです。
「ピルル。」
父の足元のベルを押すと、ベッドの横でご飯を食べさせてあげている母に何かを言おうとしているのです。
「なあに。もう食べないって?」
父は違うと言うように、顔をしかめてもう一度ベルを押しました。
母は7年の看病のおかげで、いまや父の目を見ても、その気持ちをわかるようになりましたが、時には間違う時もあり、互いに苛々しました。父との意思疎通をもっと自由にしたいと思ったトンミがある日とんでもないことを思いつきました。
「へ、、、へ、、できた。」
トンミは紙に大きく文字版を作りました。
「父さん、父さん、、今からこうしましょう。言いたい言葉があったならば、私が文字を一つ一つ指差すからベルを押して。」
トンミが“50音”が大きく書かれた文字盤を持って指差していきながら、該当する文字で父が足の指でベルを押すのを並べて、気持ちを読むということでした。父の顔を見て書いていくトンミ、文字を指差すなり父はベルを押します。それは言葉で言うほど簡単なことではないけれど、父娘はやってみようと思いました。
「い、い、ほ、う、、」
父の顔を見てトンミは「いい方法」と書いた紙をあげます。
「あ、いい方法ですって?」
父は涙を流して反応しました。文字盤の対話は成功しました。ある日の夜、母がしばし背中を丸めて眠っている間、トンミと父は事を企てました。1日2時間ぐらい寝るか寝ないかの苦労をしている母に手紙を書くことにしたのです。手紙は一晩かかって完成しました。次の日の朝、目をさました母が手紙を見つけました。
「かあさん、私が悪くなってから長いな。悪い家長のために苦労するお前と子供たちにすまない。だけど、私は絶対にあきらめないできっと良くなるから。」
母を見つめる父の目に涙が浮かびました。
「あなた、、、」
父のまぶたで書いた手紙には、この間、千回、一万回よりももっと言いたかった言葉が入っていました。トンミは言葉を失った父の心に大きく澄んだ窓をひとつ開けたのです。

※ 本文では“母音子音”
コメント
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