市内バス乗車券
創業30周年を迎えたバス会社がありました。
その会社は盛大に行おうとしていた記念行事を取りやめました。顧客に対する感謝の気持ちを表すこととして、よりは意味のあることにしようとしたからでした。
いろいろなアイデアの中で、子供のいる家庭と一人暮らしの老人に毎月30枚の乗車券を配ることに、意見が集まりました。
その仕事は結婚を前にした20代後半の一人の女性職員に任されました。彼女は通学距離が遠い子供いる家庭と、保健所に行く老人の中から対象者を選定し、ひそかに訪ねて行きました。
ある家に行きました。その家には女子中学生が鼻をたらした弟と一緒に住んでいました。
「あなたがソンジェですね。」
子供は、言葉もなく頭を掻きながら女性を見つめました。
「これはバスの乗車券なんだけど。私の会社からのプレゼントなの。」
「はあ、、、バスの乗車券ですか。」
心の優しい彼女は、大したことでもないことで、恩着せがましく見えないように、受け取った人たちの自尊心を傷つけないように、配慮し注意して乗車券を渡しました。
「おじいさん、これバスの乗車券です。」
「バスの券だと、これはありがたい、、、。」
幼い少女から年をとったおじいさんまで、幸いにも乗車券を拒否する人はいませんでした。
「失礼します。」
「気をつけて、、、」
そうやって一ヶ月経った後、彼女は2回目の乗車券を持って対象者一人一人を訪ねて行きました。ですが、その人たちの中の何人かを除いては、先月あげた乗車券をほとんどそのままに持っていたのでした。
「年寄りが、どこに行くところがあるものか。お金でくれればむしろ良いものを。」
乗車券が残っているのは子供たちも同じでした。半分でも使ったでしょうか。家に帰りながら彼女は心が重くなりました。
「本当に必要なものは、乗車券ではなくてお金だと言うことだけど、、、」
彼女は一晩中眠れず寝返りを打って過ごした末、次の日の朝早く銀行へ行き満期まであと3ヶ月の貯金を解約しました。そして準備した封筒に乗車券の代わりに、真心をこめてお金を入れました。
次の日、彼女は坂の上の町内の急な坂道を、うれしい気持ちで上がって行きました。