退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-04-24 06:17:09 | 韓で遊ぶ


孝行者と老人

バスは湖のほとりをくねくねと曲がりながら走っていました。
江原道の田舎ピスグミという村に住んでいるというチャン老人を訪ねて、ゆれるバスに乗って行きながら心は重かった。
その人が癌に良いという天然のサルノコシカケを採ったという新聞の記事を見て、やみくもに飛び出して来たからでした。
「手にすることができるだろうか。その高い物を1文無しで、、、」
不安な気持ちで独り言を言いながら、ため息をつきました。結果は運命に任せることにして、尋ね尋ねして到着した老人の家は、村のはずれの湖のほとりにありました。家を訪ねて行くと、庭に出ていた老人は気乗りしない表情で聞きました。
「だ、、れだい。」
私はいきなり庭に手をついて挨拶をしました。
「新聞を見てきました。」
「新聞だって。」
思いもよらない状況に、老人はとても慌てたように見えました。私は一部始終を話しました。
「父が癌にかかって寝込んでいます。病気を治そうと家を売って、車を売って今は一文無しになってしまいましたが、これでも受け取って、きのこを少し分けて貰えたら、、、」
私は腕につけていた腕時計をはずして差し出しました。とても貴重で言われたらそれが値段だといわれる天然のきのこ、自分でもとんでもないことだと思いましたが、藁にでもすがる思いでした。
そんな私に顔を背け老人はフッと笑いました。
「えぃ、まったく、度胸がいいわい。10ウォン1つも持たないで来て、、、チチ。」
ぶっきらぼうに庭に膝まづいた私を、不憫に思う顔でじっと見ていた老人が、急に息子を呼びました。
「おぉい、中に誰かいるか。」
「はい、お父さん。」
「残っているのがあるだろう。持って来い。」
「お、、父さん。」
息子は、とても驚いて言葉を失いました。
「持って来いと言ったら持って来い。」
「はい、お父さん。」
断固とした老人の言葉に、息子がどうしようもなく持ってきたサルノコシカケ一箱。老人はそれを時計さえ受け取らず私の手に渡してくれました。
私はうれしさ余り、挨拶さえもちゃんとしたのかしないのかわからないで帰路に着きました。
その時、後ろで老人が息子に話す声が聞こえました。
「あの様な人をただ帰したら、生涯心にひっかかって生きるようになる。」
父はその後15日して亡くなりましたが、きのこのおかげなのか、人情のおかげか大きな苦痛もなく旅立ちました。
コメント
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