退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-04-07 06:26:13 | 韓で遊ぶ


夫の菊の花

秋が深まってきたある日のことでした。
仕事から帰ってきた夫が、出し抜けに黄色い菊の花束を差し出しました。
「何で、花かしら。誕生日でもないのに。」
「おまえにやる秋の便りだ。」
夫は、大したことでもないように言いましたが、私は胸がドキッとしました。なんでもない日に花をプレゼントされたことは、生まれては初めてだからです。私が花瓶に花を挿して置いたら夫も満足気でした。
「そんなにうれしいか。たった1000ウォンで奥さんを幸せにできるとは思わなかったな。」
次の日、仕事から帰った夫は、また花を差し出しました。問題はその後に起こりました。次の日も、その次の日も、仕事から帰った夫の手には菊の花束が抱えられていました。
家の中は菊の花畑に変り、花を置く適当な場所を探すのに、だんだん時間がかかるようになりました。
水差しに生けて下駄箱の上にも置きましたが、もう家の中が菊の花でいっぱいになりました。
「もう、遠慮するわ。花が多すぎて置く場所もないじゃないの。」
もしや私のためではなくて自分が好きで買ってくるのか、でなければ花屋の娘さんが気に入って毎日立ち寄っているのではないか、などという疑いまで生じるほどでした。
今日も花を買って来たら絶対に問いただしてみようと心に決めていた日、幸いにも夫は花を持ってきませんでした。
ですが今度はポケットから安全ピンを取り出したのでした。
「さあ、これ。」
あれまあ、花の代わりに下着に入れるゴムひもと安全ピン、防虫剤をいっぱい買って来たのでした。私はあきれて言葉も出ませんでした。
次の日も、その次の日も夫のおかしな買い物は続きました。
私は、もうこれ以上我慢できなくて聞きました。
「あなた、いったいなんなの。何でしょっちゅうこんなものを買ってくるの。」
ちょっとためらった夫が頭を掻きながら一部始終を打ち明けました。
「それがだね。」
少し前から会社の前の路地におばあさんが孫娘をつれて来て商売を始めたということでした。
はじめは菊の花を売っていたら3日前からはゴムひも、安全ピンのようなものを並べて売っているということでした。
「あんまり気の毒で黙って通り過ぎる事ができなくて。」
私は言葉もなく夫の手を握りました。がさがさしていて、しわがよっているけれどまだ暖かい手。
「ごめんね。お前は1ウォンでも大事に使うのに。」
「いいえ、あなた。そのおばあさんが商売をしている間、毎日ひとつずつ買ってきて。」
「そうしたら家の中で古物商をするようになるな、ほほ。」
夫のその言葉に私は笑いながらいいました。
「みんな使いましょう。安全ピンもゴムひもも使える時まで使って、みんな使い切れない時には売りましょう。そしたらあなたのようなやさしい人がまた買ってくれるんじゃないの。」
コメント
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