退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-04-15 05:47:03 | 韓で遊ぶ


父の手紙

木の枝ごとに小さな花のつぼみがついた春の日です。
山奥の小さな村から上京し大学に通う私は、一月に一回、父からの手紙を受け取りました。
黄色い紙を半分に切って、鉛筆でこつこつと押し書いた手紙の書き始めは、いつもこのように始まりました。
「タロへ。」
ですが、その日は何か変でした。
タロではなく「ヨンスクへ。」で始まる手紙は、父が妹のヨンスクに送るものだったのです。
もしやと封筒を見ると、「チェダロ宛」と書かれていました。
「父さんも、まったく、、、。」
ふと笑いがでました。封筒が入れ替わったと思われる手紙を元通りに入れようとした私は、その内容が気になりました。
「ヨンスクヘ。お前がくれたお金は、兄さんの入学金として送った。兄さんもありがたく思うだろう。」
小学校をやっと卒業して、そのまま工場へ就職し苦労して働いている妹のヨンスク。
次の日、私は入れ替わった手紙を持って妹が仕事をする工場に訪ねていきました。
うれしそうに走ってきたヨンスクも手紙を持って来ました。
「兄さん、このせいで来たのでしょ。」
「やっぱりそうだったのか。これ、、、。」
私たち兄妹は入れ代わった手紙を交換しました。妹が受け取った手紙は「タロへ」で始まっていました。
「成績が上がったんだな。この父よりもヨンスクがもっと喜ぶだろう。お前はお金の心配をしないで勉強を一生懸命しなさい。」
「兄さん、大変でしょう。」
手紙を全部読んだ妹が、断る私の手に無理やり小遣いを握らせて走って行きました。
少し行ってヨンスクが私に大きく叫びました。
「おいしいものを買って食べて行って勉強して。兄さん。じゃあね。」
その日以後、父はいつも半分に切った紙に「ヨンスクヘ」で始まる手紙を私に送って、その度に私たち兄妹は会って手紙を交換したのでした。
半分に切った紙に書いた手紙は、私たち兄妹が互いに理解できるようにするために、父がわざと取り替えていたのでした。
コメント
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