希望という名前のひよこ
3年前に天国へ行った夫の場所を埋めてでもしてくれるように、我が家に新しい家族が増えました。うぶ毛がふわふわした黄色いひよこです。12歳になる息子が、友達からもらったといって育てることになったひよこの名前は、ピチです。息子はお母さん鶏のように胸に抱いて面倒を見ました。ピチが寝ている時には、足音で起きるかもしれないと忍び足で歩くほどでした。ご飯も良く食べて、よく遊んでいたある日、心配していたことが起こりました。
「お母さん、ピチの具合が悪いみたいだ。早く病院へ連れて行こう。」
その瞬間、私の幼い頃の記憶がよみがえりました。具合の悪いひよこを病院に連れて行ったけれど、何もしないまま死んでしまった胸の痛い経験です。
「このまま黙ってピチを楽に送ってあげましょう。」
「、、、お母さん。なぜ僕が好きになればみんな死んでしまうの。お父さんも死んで、ピチもそうだし。僕がすごく好きなのに、、、、。」
胸にぐっさときた気持ちでした。父親を亡くした衝撃から、まだ抜け出すことができなかった息子、、、、。だからピチとの別れが大きな苦痛だったのでしょう。すべての別れを自分のせいにしてしまった息子を何とかしてなだめたいと思いました。
「ピチや、僕をおいて死んだらダメだ。目をあけてくれ。」
息子の気持ちを感じたのか、ピチは最後まで命の綱を離しませんでした。
「ピチ、お前は大丈夫だ。元気を出して。みんなお前のこと、大好きだ、、、。どうか。」
たとえピチの命がここまでだとしても、最後まで希望を捨てることはできませんでした。ずっとおなかを撫でてやり、指を水を浸してくちばしを潤してやり、ふやかしたご飯を食べさせて、、、。そうやってピチを助けるために涙と真心で送った2日後、息子が歓声を上げました。
「わぁ、元気になった、元気になった。ピチが元気になった。」
私、いつ具合が悪かったのというように起き上がり、丸く黒い目で私たちをチラチラ見るピチ、、、、。胸を覆っていた黒雲が晴れて日差しがさした瞬間でした。
「ピチよくやった。よくやった。」
この間に、さっと大きくなって無法者のように居間を歩き回るひよこのピチ、、、。何よりもふやかしたご飯が大好きな変ったヤツ。私たちにとってピチは愛する家族であり希望のもうひとつの証です。