作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv68035/
以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。
=====ここから。
イギリス・ニューカッスルに住むリッキー(クリス・ヒッチェン)とアビー(デビー・ハニーウッド)夫妻の一家。
マイホーム購入の夢を叶えるためにリッキーはフランチャイズの宅配ドライバーとして独立し、アビーはパートタイムで介護福祉士の仕事をしている。個人事業主とは名ばかりで、理不尽なシステムによる過酷な労働条件に振り回されながらも働き続けるリッキー。
一方アビーも時間外まで一日中働いている。家族のために身を粉にして働くリッキーを、アビーや子供たちは少しでも支えようとし、互いを思いやり懸命に生きる家族4人。しかし仕事により家族との時間が奪われていき、高校生の長男セブ(リス・ストーン)と小学生の娘ライザ・ジェーン(ケイティ・プロクター)は寂しさを募らせていった。
そんな中、リッキーがある事件に巻き込まれる……。
=====ここまで。
やっぱり、ローチはまだ怒っている。
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ローチの最新作ということで、見に行って参りました。『わたしは、ダニエル・ブレイク』では怒髪天を衝いていたローチだったけれど、本作でも、まだかなり怒っている模様。ただ、今回は、そこに少し無力感が加わって、救いがないところが前作より辛いとこ。
◆美味しいとこどりの本部様
日本でもUber Eats といい、コンビニといい、利益の吸い上げ時には「フランチャイズ」、損切り時には「個人事業主」と、都合良く使い分けて美味しいところだけ本部がかっさらって行くという、まぁ、自由経済社会だからってそこまでやるか、、、みたいな話があちこちで聞かれる昨今。本作でも、イギリスにおける同様の実態が容赦なく描かれる。
リッキーとアビー夫婦は、かつて自分たちの家を持っていたけど、不景気の煽りを喰らってリッキーが職を失い、家を手放した様子。だから、借金もある。加えて、車は自前の宅配業に身を投じたことで、経済的にもだけど、物理的・精神的に一層厳しい状況になるという、、、。個人事業主だから、休む=無収入、となる。だから休めない。でもフランチャイズだから上納金は免れない。封建時代かよ、って話。
私の職場近くでも、ちょっと前に某コンビニ大手のオーナーが過労自殺してニュースになった。ネットでその背景など詳細が書かれているレポを読んだけど、そりゃもう、悲惨極まりない話だった。ハッキリ言って、本作に勝るとも劣らぬえげつなさで血の気が引いた。何しろ、そのオーナーの息子さんもコンビニの手伝いをしていて過労自殺しているのだ。息子さんのときもニュースになり、驚いたが、その後しばらくして閉店騒動が起きた挙げ句の話だった。今は、その元店舗の前を通るのも憚られるので通っていない。少し歩けば同じフランチャイズのコンビニに2つ3つとぶち当たるのは、いくら何でも節操なさ過ぎな感じがする。
本作でリッキーがフランチャイズ契約している配送業者もまったく同じ。とにかく数をこなして売り上げを増やす。売り上げに響くようなことは許されない。病気や家族の緊急事態で休もうものなら、代わりを探せとドヤされる。つまり、数をこなす代わりさえいれば、別にお前なんかどーでもええわ、って話。前述のコンビニオーナーの話でもそうだったが、多店舗展開すれば本部にとっては売り上げが増えるが、オーナーにとってはカニバリで売り上げが下がる。本部にとって、上納金さえ増えれば、オーナーの1人や2人どーなってもええわ、っていう経営方針を堂々と体現する恐るべき人権軽視企業。
……と分かっていても、そこにあればそのコンビニを利用してしまう私。ネットで頼めば届けてくれるなら、わざわざ店に行かないで宅配してもらっちゃう。それもこれも、あるから使う。なければ使えないけど、そこにあるんだもん。
コンビニや宅配だけじゃない。とにかく、利便性の追求という名目で、あれもこれも過剰なんだよ。コンビニがもっと少なくても、宅配が時間指定なんかなくて盆暮れ休みでも、別に社会は困っていなかったのに。
24時間営業を見直したり、年末年始を休業したり、、、という動きが少しずつ出て来ているのは非常に良いことだと思う。
◆ローチ作にしては、、、
ローチは、これまでも、こういう社会の不条理を描いてきたが、シビアな描写の中にも必ず一筋の光明を見出すエンディングにしていたように思う。だが、本作は、最後まで救いがないのが、ちょっと驚きだった。
あのまま、リッキーたち一家の厳しい日常は続く。何も改善の兆しがない。
ローチはどうしてこういうエンディングにしたんだろう、、、? と、ちょっと考えてしまった。これは飽くまで私の勝手な想像だけど、さしものローチも、いささか無力感に苛まれたのではないか、、、という気がする。それくらい、現実が酷すぎると感じたのでは。ヘンに希望を感じさせる終わり方は嘘くさいと思ったんじゃないか、、、と。
イギリスはそれでなくても、ブレグジット騒動で国全体が疲弊しているというし。しかし、マジでEU離脱後、あの国はどーなるのか?? 経済とかも気にはなるが、個人的には、北アイルランドがかなり心配である。また、紛争の地と化すのではないか、、、。ローチの懸念はいかばかりか。
本作は、見ていて、リッキーがあの大事な端末をなくしちゃうんじゃないか、、、とか、疲れの余り居眠り運転で衝突しちゃうんじゃないか、、、とか、とにかく、下手なホラーやサスペンス映画よりもよっぽどハラハラ・ドキドキの連続である。でも、そんな分かりやすい追い詰められ方ではない、もっとじわじわと真綿で首を絞められるような追い詰められ方をしていくのだ。それが却ってリアルすぎて恐ろしい。
家族との軋轢も実にリアル。父親不在で、母親も多忙となれば、家族はバラバラになりがちだ。長男セブの言動は、やや類型的かと感じたが、終盤、そのイメージは覆される。どうにもならなさが、分かりすぎて心が痛くなる。
そんな中、母親のアビーが女神のように優しくて包容力のある女性で、感動的だった。介護の仕事でも、荒んだ雰囲気の父と息子が対峙する家庭でも、あんな状況で、あんな寛容な行動は、私には絶対ムリ。でも、アビーの寛大さには嘘くささがなく、彼女が真に心優しい寛容な人なのだと伝わってくる。そんな彼女が終盤、リッキーの上司に悪態をつくのは、むしろホッとする。彼女も、やっぱり人間だったんだなー、と。
ローチと是枝監督の対談をTVで見たが、そこでのローチの言葉が印象的だったので、ここに記しておきます。
「メディアにとって国益とは、富裕層や権力者の利益を意味します。だからこそ、何か問題があると、それは移民のせいだとか、労働者が怠け者だからだとか、様々な理由を示すのです」
「私は、映画を通してごく普通の人たちが持つ力を示すことに努めてきました。一方で、弱い立場にいる人を単なる被害者として描くことはしません。なぜなら、それこそ正に、特権階級が望むことだからです。彼らは貧しい人の物語が大好きで、チャリティーに寄付し、涙を流したがります。でも、最も嫌うのは、弱者が力を持つことです。(中略)私たちには、人々に力を与える物語を伝えていく使命があると思います」
その後のリッキー一家がどうなるのかが気がかりだ。