作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv85331/
以下、上記リンクからあらすじのコピペです(青字は筆者加筆)。
=====ここから。
生真面目で融通の利かない性格で、生徒や同僚から嫌われている教師ポール(ポール・ジアマッティ)は、クリスマス休暇に家に帰れない学生たちの監督役に任命される。
学校に残ったのは、勉強はできるが家族関係に問題を抱えるアンガス(ドミニク・セッサ)と、一人息子を亡くしたばかりの料理長メアリー(ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ)。
クリスマスの夜、アンガスがボストンに行きたいと言いだす。当初反対したポールだったが、メアリーに説得され、「社会科見学」と称してアンガスとともにボストンに向かう。
=====ここまで。
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劇場公開中に見に行きそびれてしまった本作。多分、早稲田に来るだろう、、、と映画友と話していたんだけれど、早稲田に来るまで待てずにDVDを借りて見てしまいました。
見て良かった、、、と思うと同時に、やっぱし劇場に行くべきだったなぁ、、、と。早稲田に来たら見に行くと思います。スクリーンで見たいので。
◆嫌われキャラを演じるポール
ポールは古代史の先生だけど、私の高校時代の世界史の先生もなかなかの曲者だったことを思い出していた。その先生は、当時定年間近と言われていて、グレーヘアーはいつもモシャモシャで、ワイシャツがズボンからベロン、、、と飛び出ていることもしばしば。でも、板書の字は怖ろしく几帳面だった。そのギャップが何とも言えず、彼の授業は結構面白かった。ポールは身だしなみはちゃんとしているけど、なんとなく、雰囲気が被っている気がした。
で、ポールは生徒からだけでなく、教師間でも嫌われているのだが、よく見ていると、彼は確かに偏屈だけど、心根は優しく誠実な人である。曲がったことが嫌いで、いい加減なことが許せないタチなので、他人にも厳しくなるのが煙たがられる要因といった感じか。現実に身近にいたら、確かにちょっと、、、かも知れないが、これ、本人が敢えて嫌われキャラを演じているのね。
多分、彼はそうやって自分を演出することで、どうにか今の自分と折り合いを付けていられるのだろう。素の自分を出すことが怖いのだ、多分。
生徒へのテストの評価が、最高がアンガスのB+で、他は軒並み、DとかE、中にはFとかも複数。卒業が掛かっていても容赦なく落第点を付けるポール。そら、嫌われるわ。
それを思うと、B+ってのは普通の先生のAなんじゃない? アンガスはやっぱりよく出来る子なのだ。終盤で、ポールもアンガスのことを「彼はとても頭の良い子だ」と両親に言っていたもんな。アンガスだったから、ポールも心を開く気になれた、ってのはあるかもね。自分の授業をちゃんと理解している生徒は、教師からしてみれば嬉しい存在に違いない。
◆アンガスとポール、、とメアリー
アンガスは、終盤まで両親との関係がイマイチはっきり分からないのだが、お母さんは再婚した夫と新婚旅行に行くために、アンガスにクリスマスの帰省を止めさせるような人である。しかも、アンガスは、母親が再婚した継父なんかより、実父のことが大好きなのだ。どうやら、クリスマスにはその実父の居るところへ母親と行く約束をしていたらしく、これも反故にされ、怒り心頭、、、というより、ショックが大きかった様子。
……まあ、そらそーだろう。図体はデカいが、精神的にはまだ少年に毛が生えただけのアンガスにしてみれば、これは結構辛い。
おまけに、一緒に居残り組だったほかの少年たちは、そのうちの一人の少年の親が自家用ヘリで迎えに来たため、一緒にそのヘリに乗って少年の別荘とやらへ向かってしまう。アンガスも行きたかったのに、新婚旅行中の母親に連絡がつかずに、たった一人取り残されるのだ。弱り目に祟り目とはこのこと。
これら一連のアンガスの不運を目の当たりにして、嫌われキャラのポールは、地の優しさが顔を覗かせてしまう。
料理長のメアリーに対してもそう。一緒に夕食を食べよう、と気軽に声を掛ける。その様子を見て「使用人と一緒に食事するなんて!」と呆れる生徒に向かって激高するポールを見ていると、やっぱりこの人、良い人なんだよな、、、と分かる。
このメアリーも要所要所でイイ味を出している。アンガスがボストンに行きたがっていて、それを学校の決まりだからダメ!というポールをさりげなく説得する。彼女の作った手料理でのクリスマスを、アンガスは喜んでいる。「こんな料理でクリスマス祝ったことない。お母さんはいつもケータリングだから」(セリフ確かじゃありません)と言うアンガス。アンガスの家庭状況がここでも垣間見えるが、そんなアンガスにウィンク一つで返すメアリー。恩着せがましくなったり、家庭のことを詮索したりしないのが良い。
ボストンでのポールとアンガスの2人旅の様子も良い。アンガスがなぜボストンに来たがっていたか、、、それを知ったポールは、父親との対面にショックを受けているアンガスを「君とお父さんは違う人間だ」と言って慰め励ますシーンが胸に迫る。
その後、このボストン行きが問題になって、アンガスは退学の危機に陥るが、ポールによってそれはどうにか免れる。やはり、ポールは道理の分かる真っ当な人間なのだ。
結局、ポールは学校を去るが、彼の今後を思うとちょっと切ない。あの歳で、これまでより恵まれた新天地が待っているとも思えない。本作は良い映画だと思うけど、を7つにしたのは、このラストにもの悲しさを感じたから。アンガスは良かったんだけどね。若者の未来の方が、老人の未来より大事、、、みたいな印象がなきにしもあらずで、あー、良かった良かった、、、と思えない。
とはいえ、ポールにはしたたかに生きて、古代史の本でも出してベストセラーになって欲しいけど。
◆その他もろもろ
ポール・ジアマッティは斜視ではないけど、役のポールは斜視で、どうやって斜視に見せているのだろうと不思議だった。さすがに、演技で出来ることではないだろうし。
クセ強な古代史の教師が実にハマっていた。アンガスと博物館に行って、生き生きと説明しているポールは嫌われキャラどころか愛嬌たっぷり。アンガスに「授業でもそんな風に話してくれればよいのに。みんなが先生を嫌ってるの、知ってるでしょ?」などと言われてしまう。しょんぼりするポールだけど、分かっているんだよね、自分でも。
あと、アンガスが肩を脱臼するシーンで、上半身裸になったアンガスの方がホントに脱臼していて(しているように見えて)、これもスゴいなぁ、、、と思った。斜視といい、脱臼といい、何でも出来てしまう技術、恐るべし。
アンガスを演じたドミニク・セッサは新人だそうだが、なかなか堂々としたものだった。見た目は大人だけど、中身はまだまだ少年で、お父さん恋しさに泣くシーンは、思わずもらい泣き。
ポールとアンガス、メアリーの3人がレストランで、デザートにチェリー・ジュビリーを食べたい!というアンガスのリクエストに応えて、ポールが注文すると、店員が「未成年には(アルコールを使っているので)出せない」の一点張り。呆れたポールは、アイスとチェリーと酒をテイクアウトで注文して、店の外で、チェリー・ジュビリーを作る、、、というシーンも、前半の規則でガチガチなポールと対照的で良いシーンだった。
アメリカ映画とは思えない、地味で味わい深い作品。イギリス映画みたい。
オープニングのレトロなロゴにビックリ(70年代の演出?)