★★★★★★☆☆☆☆
昨年亡くなった三國連太郎さんの代表作として、ニュースでも何度も挙げられていた本作ですが、大分前のBSでの放映を録画し、ようやく見ました。何しろ3時間ですからね・・・。長い映画が苦手な私としては、見るのに覚悟が要ります。原作未読。
さて、名作誉れ高いだけのことはあって、確かに力作です。役者も揃っている。中でも、八重を演じる左幸子が出色です。犬飼の残した爪を持って官能に耽る演技など凄みを感じます。また、犬飼を追う伴淳演じる弓坂刑事も味わい深く、素晴らしい。むしろ、主役の三國さんより際立っていたと思います、このお二人は。一方で、健さんは、何の役をやっても昔から健さんだったんですねぇ。
とにかく、本作の時代、日本は皆が貧しかったのですね。田舎でも都会でも、その描写から貧しさが嫌というほど伝わってきます。皆、生きるのに必死だった。その貧しさをベースにして、実際に起きた台風での船の転覆事故と大火を絡めているという、その原作の設定が非常に秀逸だと思います。
ところで、犬飼が味村刑事に語った、北海道から内地へ渡る過程についてだけれども、これ、皆さん信じるんでしょうか。彼は、漁父の利よろしく大金を手にしたと、、、。
私は信じられないクチで。犬飼は網走出の2人を撲殺し海に放り出して、大金を独り占めしたのだと思えてなりません。なぜなら、船に乗る際、網走出の男がそれまで肌身離さず持っていた大金入りの鞄を、わざわざ体から離して船床に置くとは思えないからです。犬飼の言った通りが事実なら、大金もろとも海の藻屑となっていたに違いないと思うのです。犬飼は思ったに違いない、「この金で人生仕切り直せる」と。事実、彼は北海道を出ることでリセットしたというようなことを味村に話しています。そこに目の前に大金が出現し、それを奪うことを考えない方がむしろ不自然です。どうせ、どっちにしたって、彼はすでに強盗殺人及び放火事件という大罪に巻き込まれているのですからね。自制が効かなくなっていて当然です。少なくとも、私が犬飼ならそう思うと思いますね。
しかし、本筋とは関係ないところですが、署長が弓坂刑事にお茶を点てて差し出すシーンがありまして、私、このシーンにいたく感動しました。この署長さんは、部下の意見をじっくり聞いた上で、決断は素早く冷静に下すという、上司としての鏡のような人であり、おまけに、お茶を点てるという風流も心得ているなんて、あの戦後の皆が貧しい時代に、何と粋な署長さんなんでしょうか。原作でもこういう設定なんですかね。分かりませんが。
ちょっと後半がダレたのと、ラストが読めてしまったことが、私にはかなり興ざめだったので、星の数は低めです。