80年代のポーランド。美しい人魚の姉妹、シルバー(マルタ・マズレク)とゴールド(ミハリーナ・オルシャンスカ)は、その美しい歌声で人間の男たちを惑わせると捕えて食べてしまう。
ある日、例によって美しい歌声で男を惑わせると陸に上がり、ワルシャワにやって来る。その美しい容姿と歌声をもって、とあるストリップ・ナイトクラブに辿り着く。たちまち店の人気者になる人魚姉妹。
毎晩ステージで歌って踊るうち、バンドのベーシストの青年ミーテク(ヤーコブ・ジェルシャル)と姉のシルバーは次第に惹かれ合い、恋に落ちてしまう。そんな姉を見て、妹のゴールドはイラつき、しばしば言い合いになる。人魚にとって人間の男は餌であり、人間の男との恋を成就させることなど出来ないのだ。もし、シルバーがミーテクとの恋を成就せんがために人間になっても、ミーテクに愛されなければ、シルバーは海の泡となって消滅する運命なのである。
しかし、シルバーは美しい声を失うことと引き換えに、人間になる道を選び、手術を受ける。そして、腹部に大きな傷を伴って真の人間の下半身を手に入れ、いざミーテクとセックス行為に及ぼうとするが、シルバーの腹部から激しく出血する様を見て、ミーテクは引いてしまう。そして、人間の美しい女性と恋に落ち、あっけなく結婚してしまう。
結婚披露のバーティーに招待されたシルバーとゴールド。このパーティーが終わる明け方までに、シルバーがミーテクを殺せなければ、シルバーは海の泡と消えてしまう、、、。
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ポーランドによるボーランドが舞台のボーランド語での映画。しかも、予告編で見たところ、なんかちょっとアブノーマルっぽい、、、。これは見なくては! と劇場まで行ってまいりました。ところどころ意味不明ながらも、なかなか面白かったです。
◆ギョギョッ!となる面白さ。
いわゆる、アンデルセンの「人魚姫」と終盤の設定は同じで、愛する人を殺すか、自分が死ぬか、ということになるんだけれども、そこに至るまでは、結構なエログロワールド全開で、これは好みが分かれるところだと思うけれども、私は好きだわ~、こういうの。
とにかく、オープニングのアニメからして怪しげでイイ感じ、これは期待できそう、、、となる。でもって、冒頭の人魚姉妹が海から陸に上がるシーン。美しい歌声で、陸にいる男たちに“私を陸に揚げて~”と懇願するように歌うのね。吸い寄せられるように人魚姉妹に近付く男たち、、、、ぎゃーー。
この人魚の造形が、かなりグロテスクで、下半身の尾ひれなど非常にリアル。人間の姿で、ストリップ・ナイトクラブのオーナーの所に連れてこられるんだけど、オーナーに向かって、澁澤龍彦じゃないけど、まさしく“大跨びらき”すると、彼女らを連れてきたオッサンが「見てください、穴がないんです、まったく」などと彼女らの股間を指して言うわけ。……ぎゃはは、笑える。でも、尾ひれにはちゃんと性器があって、それもしっかり映るんだけど、これがまたちょいグロ、つーか気持ち悪い。
しかも、この人魚たち、店のバックヤードにいるのに、店にいるオーナーが「何か臭うぞ、何だこの臭いは!?」ってくらいキョーレツな魚臭を放っているらしい。あんまし嗅ぎたくない、、、。
さらに、人魚姉妹は生きていくために人間の男をかっ喰らう。そのときの姉妹の口元は、まさにドラキュラ張りの鋭い犬歯が光る歯に変わっていて、男の身体にかぶりつく様はちょっとエグい。まあ、そこまでグロくはないけれど。
ストリップ・ナイトクラブでの歌って踊るシーンが結構あるのだけど、ちょっとしたミュージカルっぽくて、これも楽しい。ワルシャワのスーパー(あの時代のスーパーだからゼンゼン物が少ないってのがミソ)での群舞シーンもあるし、エンタメとしてもよく出来ている。
てな具合に、共産主義時代のポーランドを背景に、ダークな世界をなかなか上手く演出していて、雰囲気だけでも十分楽しめる。
◆皮肉、、、。
大してグロくない、と書いたけど、シルバーが人間になるための手術シーンは、結構グロい。シルバーと人間の少女を並べて、それぞれの胴体を切断し(切断シーンももろに映る)、その下半身と尾びれを入れ替えて縫合する、、、、という、なんともはや痛い描写。しかも結構、血もドバドバ、、、。ここまでリアルに描く必要あったのかなぁ、、、という気もするが。
おまけに、手術後のシルバーの腹部は、それはそれはひどい傷跡で、これもグロい。そんな身体でミーテクと合体しようとするなんて、まあ、無謀もいいとこなわけだけど、ミーテクがそんなシルバーの身体に萎えちゃうのもムリはない。つーか、“しよう”と思っただけでもミーテクは偉い。
そこまでしてでもシルバーは恋を成就させたかった、愛する人と人間と人間の交わりを持ちたかった、ということで、これが“少女から大人への物語だ”という、あまりにも見たまんまの解説がパンフにも書かれていたけれど、、、。
まあねぇ、それは誰でも分かることなわけよね。
人魚姫の話もそうだけど、愛ってのは大きな代償が伴うものである、ってことは、人間は皆、大人になる過程で学ぶことである。でもって、大人になるってことは、人魚が大切な尾びれをなくすがごとく、何かとても大切なものを自ら捨て去ることでもある、みたいなことを読み取る向きもあるようだ。
そういう解釈も良いけれど、私は割と単純に、人間を喰って生きている人魚が、人間の掟に従った途端に滅びてしまった、というアイロニーを感じた次第。子どもの頃は、人魚姫のお話は“心美しい人魚の悲恋”みたいに受け止めていたけど、本作を見ても思ったんだけれども、どんなに好きでも、自分のアイデンティティーを捨てなきゃならない恋やら愛なんてのは、結局自分を滅ぼすものである、ということだわね。
若い頃は、それでも好きなんだから、愛しているんだから!! と思って突き進むものなんだろうけど、それって自分のかなりコアな部分が変化してしまうわけだから、相手にとっても愛した人間とは違ってしまっている、ということになるわけよ。だからお互いにとってダメになる。そんな恋愛は、消耗するだけだし、そもそも続かない。
私にはそこまで自分を捨てて恋愛に猛進したことがない、というか、自分が自分でいられなくなる相手などそもそも好きにもならなかったのだが、人を好きになるということは理屈ではないから、私はたまたまそんな機会がなかっただけだとも思う。
おそらく、人魚姉妹の妹・ゴールドは、きっと私と同じ思考回路なんだろうな~。何で餌でしかない人間の男のためにこの姉は、、、アホか?? って感じだったよなぁ。でも、ゴールドはシルバーのことが基本的には大好きだから、イラついてケンカになったのだよね。
そんなゴールドの思いが、ラストシーンで爆発するんだけど、これが結構ビックリでありました。人魚姫同様、悲恋譚で終わるのかと思ったら、トンデモナイ!! ぎょえ~~、な展開が待っておりました。内容は敢えて書きません、ムフフ。
◆その他もろもろ。
ワルシャワの街並みとか風景とか、もっと出てくるかな~、と期待していたんだけど、ほとんど出て来なかった、、、ショボ~ン。ちょっと出て来た外の景色は、夜だったからほとんど見えないし、、、がーん。
姉のシルバーを演じたマルタ・マズレクが、決して美人ではないんだけど、蠱惑的というか、ちょっと抜けている可愛い感じを上手く演じていたのが印象的。ミーテクのことをどんどん好きになっていく様とか、なんか微笑ましいというか。あまり人魚であるがための葛藤とかは感じられなかったかなぁ。ぽわ~んとした姉キャラがよく出ていました。
ゴールデンのミハリーナ・オルシャンスカは、ちょっとキリッとした美人。人魚になって歯が鋭くなった顔がかなり怖い。ラストシーンが、その怖さを発揮しています。
人魚姉妹を可愛がるストリップ・ナイトクラブの歌姫クリシアを演じたクンガ・プレイスが、なかなか見せてくれる。歌も踊りもかなり上手い。あの『アンナと過ごした4日間』に出演していたなんて、、、。あのストーカーされちゃう女性役だったのかしらん?? クリシアは、自分が人魚になってしまう夢まで見るという、、、、。その夢のシーンがまた何とも言えずグロ面白い、、、。
ミーテクを演じたヤーコブ・ジェルシャル君は、まあまあイケメンだけど、正直言って好みじゃないので、イマイチ。透き通るように白くて細いのよ。
でも、パンフを見てビックリしたのは、人魚姉妹の臭いがクサいと言っていたストリップ・ナイトクラブの経営者を演じていたおじさんが、なんとあの『水の中のナイフ』で夫婦の前に現れた青年を演じていた男性だったこと!! え~~! そういえばこんな顔だったような、、、。いやー、ビックリ。
まあ、人間を餌にしている人魚姉妹が主人公ですから、それなりにグロいシーンもあるけど、いろんな意味でなかなか面白い作品です。誰にでもはオススメできませんが、予告編を見て、“面白そう”と感じた人なら、多分楽しめると思いますヨ。
そもそも、なぜ人魚姉妹は陸に上がりたがったのか、、、が謎。
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