作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv27373/
以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。
=====ここから。
1782年、伊勢出帆後に難破した光太夫らは、9カ月後に北の果てカムチャッカに漂着する。
生き残ったわずか6名の日本人は、帰郷への手立てを探るためにオホーツク、ヤクーツク、イルクーツクと世界で最も厳しい寒さと戦いながらシベリアを転々とするが、土地土地で数奇な運命に翻弄される。そして、凍傷で片足切断した庄蔵は日系ロシア人のタチアナに手を引かれるようにキリシタンとなり帰化、若い新蔵はロシア女ニーナと恋におち姿を消した。
一方、光太夫は学者ラックスマンを通じ、初めて見る文化に強い衝撃を覚え、この感動を故国へ伝えたいと帰国への執念をなお燃やすのだった。そして、最後の望みを賭け、エカテリーナ二世への直訴を決意、首都ペテルブルグに向かった。
ラックスマン、ベズボロドコ伯爵、女王側近ソフィアの協力を得て、ついに光太夫の熱い想いは女帝の心に通じ、光太夫、小市、磯吉わずか3人だが、1792年、実に9年9カ月ぶりに帰国を果たし根室へ着く。
だが、鎖国中の幕府は彼らを迎え入れようとはせず、小市は病死、光太夫、磯吉も上府、雉子橋外の厩舎に留置されるが、やがて松平定信のはからいで光太夫は幽閉という扱いで、迎え入れられることになるのだった。
=====ここまで。
井上靖の同名小説が原作。
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今年も早終わろうとしているけれど、これほど年末感のしない年末って初めてかも……。年末年始休暇に入ったはずなのに、何だか普通の週末と同じ感じ。……まあ、これから一気に押し寄せてくるのかも知れませんが。
で、年が明けたら、2月末におそロシアに行くことにしたので、ちょこちょこロシアものを見ていこうと思い、まずはこの映画から見てみました。
◆船乗り 光太夫
ネットで感想をいくつか見てみたんだけど、あんまし評判がよろしくない模様。ほとんどが、「話の筋をなぞっただけで深みがない」というような理由からだった。……まぁ、一理あるけど、私は結構楽しめた。
まず、あの時代(まともな世界地図など見たことがない人がほとんど)に、流れ着いた異国=ロシアであれだけのことを成し遂げた大黒屋光太夫という人の知力・胆力に驚嘆した。もう、ただただ凄いとしか言い様がない。
よりによって寒いロシアに漂着するとは……。暖かい土地だったら、彼らの苦労ももう少し軽く済んだかも知れぬ。帰国できた人数も増えたかも。
しかも、その寒い土地の、一番寒い時期に敢えて長距離移動するという、、、。光太夫は「今はダメだ」と言ったものの、彼の部下たちの懇願に抗しきれなかったことになっているが。あれでよく生きて目的地まで辿り着いたもんだと、オドロキ。
その移動で、トナカイや馬を使っていたんだけれども、あれは現地の人が提供してくれたのかな?? まさか彼らが自力で調達できるとは思えないし。そうしてみると、当時のロシアの人々は結構、漂流民に親切だったのだなぁ、と感じた。
今だったら、漂流民など即刻本国へ送還されるだろうに、当時は、漂流民を自国に取り込んで語学教師なんかさせるという、これもかなりびっくりである。いやぁ、映画ってホントお勉強になるわ。彼の地で現地の女性と所帯を持ったり、改宗したりする人もいて、時代は違えど、人の営みって根本的には変わらないんだろうな、なんて思ったり。
光太夫はどうやらメモ魔だったようで、本作内でも終盤、大量のロシア滞在日記を役人に渡すシーンがあるが、そのおかげでこのような映画(小説)もできたんでしょうね。ロシア語の自作辞書なども見つかっているというし。一介の船乗りにしてこの知的水準の高さは恐れ入る。義務教育などない時代でも、読み書きは出来る人が多かったそうだし、今の日本人よりよほど勤勉で賢い人たちが多かったのではないか、、、などと想像してしまう。
自分の国に帰りたい、、、というだけで、女帝の許しを得なきゃいけないなんて、なんということだ。……まぁ、だからこそ物語になるのだけれども、エカテリーナは、光太夫に会ってどう思ったのだろうか。本作のように、女帝の面前で光太夫が浄瑠璃の一節を披露したなんてことはないというが、小柄な極東の人間がロシア語を喋っているのを見て、何を感じたのか、是非聞いてみたいものだ。
全編を通して、光太夫らの「祖国へ帰りたい」という強い気持ちが強く感じられて、ロシアをあちこち彷徨う間は非常にせつなく、やっと日本に帰ってきたらあんな扱いでやるせなく、ある意味、あまり救いのないところも、本作の評価がイマイチな理由なのかも知れない。
◆俳優 緒形拳
それにしても、緒形拳という俳優は素晴らしい。私は、日本の女優で一番好きなのは昔も今も大原麗子さんなんだけど、一番好きな男優は、緒形拳かも。好きというより、掛け値なしに素晴らしいと尊敬する男優さんだ。
役によってゼンゼン顔も雰囲気も変わってしまう。私の人生最初の緒形拳に対するイメージは“怖い”であった。大河ドラマ「黄金の日々」で秀吉を演じていたのだが、あのドラマで秀吉は悪役だったからってのもあるが、とにかく恐ろしかった。でも、その後、いろんなドラマで違うキャラを演じる緒形拳を見て、最初のイメージは呆気なく消え去った。
その後、あるとき、たまたまTVで見掛けたドラマで、緒形拳と石田ゆり子が共演していた作品が非常に印象的で、今回、調べてみたら、川端康成の小説「母の初恋」を原作にしたドラマ「最後の家族旅行 Family Affair」だったと判明。そのドラマでの緒形拳は、憎めない優男っぽくて、石田ゆり子との抱擁シーンはとても美しかったのを何となく覚えている。
他にも『鬼畜』でのダメ男っぷりといい、ドラマ「ナニワ金融道」でのコテコテ大阪弁の金貸しといい、まるで違うキャラを実に自然に演じておられた。でも、思うに、どの役にも通じているのは、彼の持つ色気だと思う。実際は堅物だったらしいし、決して女好きという感じはないのに、とっても色気があるんである。こういう雰囲気を持っている俳優さんは稀少ではないか。ここまで見事に硬軟両面を持ち合わせる俳優さん、ほかに思い浮かばない。強いていえば、渡瀬恒彦くらいかな、、、。でも、役者としての七変化っぷり(特に“硬”の方)は、やっぱし緒形拳に軍配が上がるだろう。
光太夫が緒形拳だったから、楽しめたのかもなー、という気もする。もちろん、他の役者さんたちも頑張っていましたよ。沖田浩之なんて、懐かしい、、、。凍傷で脚を切断することになった庄蔵を演じた西田敏行も若い! 川谷拓三も懐かしいなぁ。……でもまぁ、やっぱしちょっと彼らの影は薄いよね。
エカテリーナとの謁見シーンは、実際に、エカテリーナ宮殿でロケしたとのこと。恐ろしく“デカい”(大きいとかのレベルじゃない)宮殿であることが、テレビ画面からでも伝わってきて圧巻。さぞや光太夫は圧倒されたに違いない。どんな気持ちで女帝に会ったのだろう、、、と想像を巡らせてしまった。
何はともあれ、何とか帰国できた光太夫。本作のラストは不遇のままで終わるが、実際は帰国後はそこそこ恵まれた境遇だったようで、それを知ってちょっとホッとした。原作を読んでみようと思う。
本作のロケをしたときは、まだ“ソ連”だった。