映画 ご(誤)鑑賞日記

映画は楽し♪ 何をどう見ようと見る人の自由だ! 愛あるご鑑賞日記です。

リトル・ダンサー デジタルリマスター版(2024年)

2024-10-14 | ★10個の作品

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv31905/


 1984年、イギリス北部、炭鉱の町ダーラムで暮らす11歳の少年ビリー・エリオット(ジェイミー・ベル)。

 大好きな母を病気で亡くし、炭鉱夫の父と兄、認知症気味の祖母と4人で暮らすが、男所帯で家の中は殺伐としている。炭鉱閉鎖の危機に組合が決行したストライキは長期化しており、父と兄は仕事ができず収入が絶たれ、家計は火の車だ。

 ある日、ボクシング教室に行ったビリーは、隣のバレエ教室のウィルキンソン先生に部屋の鍵を返しに行ったことがきっかけで、バレエに興味を持つ。

 以来、ボクシング教室に通う振りをして、父親に内緒でバレエ教室に通い始めるビリー。けれど、あっけなく父親に見つかってしまう。

 「男がバレエなんて!!」と激怒する父親と衝突したビリーは、ウィルキンソン先生の自宅にバレエ教室を辞めると伝えに行くのだが、、、。


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 私にとっての大切な大切な映画。大好きなベスト5、、、いや、大好きな映画はいくつもあるけど、本作はちょっとそれらとも違う、、、最愛の1本です。奇跡のような映画とはこの映画のこと。映画としてもだし、ここまで愛せる映画に出会えたことも。

 今年、本邦公開以来、23年ぶりにデジタルリマスターされて、劇場リバイバル公開となりました。

 DVDもBlu-rayも持っているけど、Blu-rayで見たのは購入直後、以来10年ずっと見るのは封印して来たし、スクリーンで見るのは公開時以来なので、23年ぶりにスクリーンの中のジェイミー演ずるビリーに会ってきました。嗚呼、ビリー、、、!!!

~~以下、本作への愛を垂れ流しているだけで、お読みいただければ嬉しいですが、すごくウザいと思いますので悪しからず、、、。また、盛大にネタバレしておりますので、よろしくお願いします。~~


◆改めて本作の素晴らしさを実感

 23年ぶりに会ったスクリーンの中のジェイミー演じるビリーは、記憶の中のビリーよりも100倍くらいカワイくて、愛しかった。オープニングのシーンから、もう涙目、、、。 

 01年の公開当時、劇場に5回見に行き、その後、DVDを何回も見たのだけど、今回、改めて素晴らしいと感じたことは3つ。①シナリオ、②演出、③主演のジェイミー、、、一見当たり前なことだけど、過去の名作と言われる数々の映画でも、この当たり前を全て兼ね備えている映画は、そんなに多くはないだろう。

 ①のシナリオについては、とにかく過不足がない。すべてのセリフ、シーン、映像の全部に意味がある。これ、すごいことだと思う。ビリーはもちろん、家族、友人、バレエの先生、、、等々、主要キャラの描写が一面的でなく、実に短いセリフとやり取りなのに、人物描写の奥行きがある。セリフで説明するところは全くない。本当にこれは奇跡的に素晴らしい。登場人物はみんな基本的にはイイ人たちだが、ただのイイ人ではない。そこをきちんとこの尺で描いている。圧巻である。

 ②の演出について、私は演出の方法論や技術的なことを学んでいないから、専門的なことは分からないが、ジェイミーやマイケル、デビーら子供たちの表情や動きがとても生き生きとしているのがとにかく魅力的。炭鉱の町らしく坂の多い場所を活かした画や、本作のキモであるダンスの振付と音楽の選曲、シーンの的確な切り替え等々、、、挙げればイロイロあるけど、ヘンに小細工していないのに、工夫があちこちに感じられるのが良い。何より、役者たちの演技が皆素晴らしい。これは、監督の演出力の為せる業だろう。長編初監督とは思えない凄技である。

 ③のジェイミーは、、、もうね、全部イイ!! 表情、仕草、セリフ、ダンス、ぜ~~んぶ素晴らしい。必死でピルエットの練習をしているときに、どうしてもできなくて頭を抱えるビリーの、自分へのいら立ちを表すかのように髪の毛をぐしゃぐしゃに掴むのとか、もう、、、カワイすぎるだろ、ジェイミー!と、スクリーンに向かって叫びそうになる。もう幼い子供ではない、でも大人でもない、大人になる前の声変わりしていないほんの一瞬の少年の輝きで目が眩みそう。嗚呼、、、もうサイコー!!!

 ……あとね、本作の魅力は、人を不快にさせない映画であること、、、なんだよね。嫌味がない。何かを伝えるために何かを貶めるようなシナリオになっていない。メッセージはもの凄く素直でストレート。でも深く奥行きがある。

 それと普遍性があることも名作の必要条件。本作の時代設定は、84年だけど、社会背景はその時代を映すものであっても、描かれている人間ドラマは普遍的そのものである。


◆好きなシーン6選

① こっそりバレエ教室に通っていたのがお父さんにバレるシーン……チュチュを着た女子たちに交じって、ランニングに紺の短パンをはいたビリーが一生懸命踊っているところへ、ボクシング教室に来ていないと知らされたお父さんが様子を見にやって来る。ターンしてビリーが顔を上げた瞬間、そこに怒りで赤鬼みたいになったお父さんがっ!!! ビリー、、、どうする?!

……って、この後、父と息子の取っ組み合いの喧嘩になるんだけど、お父さんに「お父さんはクソ野郎だ!!」というビリーの顔がめっちゃ憎たらしくてカワイイ。

② キッチンでミルクを飲むビリーが亡きお母さんの幻を見るシーン……ストが続いてフラストレーションの溜まるお兄ちゃんをお父さんが殴り付けて、家の空気は最悪な中、ビリーは練習不足をウィルキンソン先生に見抜かれる。でも、素直になれずに反抗し、先生に暴言を吐いてしまう、、、というなかなかシビアなシーン等が続いた後、ふと夜中にビリーがお母さんの幻を見る。お母さんに会えて嬉しそうなビリー、「ミルク瓶を冷蔵庫に戻して」とお母さんに言われて、戻して冷蔵庫を閉め、再び振り向くと、、、幻のお母さんは消えている。

……お母さんの不在を改めて実感したときのビリーの表情の切なさ、、、。息子を持つお母さんが見たら、これは号泣必至のシーンなのでは。私には子はいないが、号泣。

③ クリスマスの夜に初めてお父さんの前でビリーがダンスを披露するシーン……これは、本作の白眉だけど、何が好きって、ビリーのエネルギーほとばしる渾身のダンスである。怒り、フラストレーション、、、などがない交ぜになって爆発する。いかにもバレエっぽくないダンスがまた生命力を感じさせて素晴らしい。あんなダンスを見せられて、お父さんが心動かされない訳はないわな、、、と、誰もが納得させられる圧巻のシーン。

……DVDを購入した直後、このシーンを何度も繰り返し見たっけ、、、。ホールの暗めの照明といい、外からの雪に反射された白い光といい、映像がまたとても美しい。

④ オーディション結果を待つビリーの家族たちのシーン……結果の知らせがエリオット家に郵便で届く。おばあちゃんが、配達人が届けに来たのを家族に知らせ、お父さんが封書を郵便受けから取り「来た!」と、ダイニングテーブルの目立つところに立てかける。そこへ、ビリーが帰宅。一斉にダイニングテーブルに集まる父・兄・祖母。テーブルに置かれた封書にすぐに気づいたビリーが、一瞬ためらった後に、隣のおばあちゃんの部屋に一人籠って封書を開ける、、、。なかなか部屋から出て来ないビリーを待つ3人だが、諦めて吹っ切ったようにお父さんが立ち上がってドアを開けると、、、「受かった」と涙目のビリー。

……この、家族たちの一つ一つの反応がね、、、家族愛を感じさせる実に巧い描写になっていて、しかもユーモアもあり、劇場で必ず笑いが起きるシーン。初めて見たときは、すごくドキドキしたよなぁ。もしかしたら、不合格かも、、、などと思ってしまった。

⑤ 故郷からビリーが旅立つシーン……いよいよバレエ学校へ入学するため、自宅を離れるビリー。出発前にバレエ教室に行ってウィルキンソン先生に挨拶。「これからあなたの人生が始まる」とサラリとしたお別れ。自宅に戻り、おばあちゃんと固くハグをし、近所のマイケルにもお別れのキスをして、いざバスターミナルへ。お父さんが吹っ切る様にビリーをバスに乗せる。バスの中のビリーに、外にいるお兄ちゃんが“I'll miss you.”と言う。それまで強面だったお兄ちゃんの言葉が、しかしビリーには聞こえない。バスは無情に発車して遠ざかる。

……思い出すだけで涙目になりそうなシーン。ウィルキンソン先生のベタベタしない感じが実に良い。あと、お兄ちゃんがね、、、それまでずっと強面だったので、ここへきての“I'll miss you.”は破壊力抜群、見ている者の心を一気に鷲掴み。この声がビリーには聞こえない、、、ってのがまたイイ。この後、父と兄は再び炭鉱夫として坑道へと降りて行き、ウィルキンソン先生は一人バレエ教室に佇む、、、というワンショットが挟まれるのだが、たったそれだけの画で、現実のシビアさを描いてしまうところも良い。

⑥ ラストシーン……主演を務める大人になったビリーが、舞台へ飛び出して行って高く舞う!

……アダム・クーパーの鍛えられた背中の筋肉が印象的で、しかも高くジャンプしてフェイドアウト、、、エンドマークという鮮やかなエンディングは、余計な描写がない分、感動的。大人になったマイケルも出て来て、ココでも劇場がざわつくのがお約束。

 他にもいっぱいあるけど、キリがないので厳選しました。


◆デジタルリマスター版劇場公開

 このリバイバル上映を知ったのは7月で、前売りのムビチケを買うと、4種類のポスカのうちランダムで購入枚数分がもらえる!ってことで、発売日に映画友の分と2枚買ったら、4種類のうち、私が是非とも欲しかった絵柄の2枚のポスカが送られて来ました。ヤッター!!

チラシは2種類

 

 公開されたのは10月4日。この連休中、映画友と恵比寿ガーデンシネマに見に行ってまいりました。12:45の回は何と満席、、、。

 行ったら、前売りでもらったのとは別の特典ポスカをもらい、ラッキー! カワイイ。

 リバイバル上映なのに、パンフも作成されて、もちろんゲット。また、Tabioとのコラボでビリーの刺しゅう入りソックスが発売されたというので、こちらはネットで予約販売されており、購入。色違いで2足。ちなみに、注文したのが2日、届くまで2週間とのことで、まだ手元には届いておりません。待ち遠しい。

 パンフは、画像がいっぱいで嬉しい。23年前の公開時にももちろんパンフはゲットしたけど。

 終映未定とのこと。終映までにもう一度見に行くかどうか、、、悩み中です。今度いつスクリーンで見られるか分からないので、多分、行くと思う、、、。

 

 

 

 

 

 

ビリー、抱きしめたいっ!!

 

 

 

 

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戦場のピアニスト 4Kデジタルリマスター版(2023年)

2023-12-05 | ★10個の作品

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv84154/


以下、各案内からのコピペです。

=====ここから。

 12回目を迎える「ポーランド映画祭」が11月24日から30日までの7日間、YEBISU GARDEN CIMEAで開催される。「戦場のピアニスト」4Kデジタルリマスター版のスペシャル・プレミア上映をはじめ、ポーランドを舞台にした傑作からポーランドの今を描いた意欲作まで全12作品が上映される。「映画.com」より)

 ロマン・ポランスキーの監督作「戦場のピアニスト」がワルシャワ・ゲットー蜂起から80年の今年、4Kデジタルリマスター版として12月1日に全国公開決定。「Yahoo!ニュース」より)

 日本では2003年に劇場公開され、第2次世界大戦終結から70年目の2015年にデジタルリマスター版でリバイバル公開。2023年には4K デジタルリマスター版でリバイバル公開。「映画.com」より)

 今回の4Kデジタルリマスター化に向けて、まず約4トンもの35mmネガがポーランドのファクトリーに送られて作業がおこなわれたとのこと。オリジナルのネガには粒子がかなり残っていたため、ポストプロダクションのスタッフは「粒子を除去する手順を全て開発した」とのことです。「映画『戦場のピアニスト 4Kデジタルリマスター版』公式」Xより)

=====ここまで。


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 この映画については、過去2度書いているけれど、1度目は初めて見た後(BS録画したの)、2度目は初めてスクリーンで見た後(午前十時の映画祭で)で、どちらも何となく書きたいことを書けていないなぁ、、、と思っていたのでした。それは、私があまりにもこの映画の背景を知らな過ぎたこともあるし、衝撃度が大き過ぎて冷静に書けなかったこともある、、、。それに、1度目は、なぜか9コにしているのだが、今の私にとっては、もう迷いなく10コだし。

 いずれにせよ、いつかもうちょっとマシな感想文を書きたいとずーっと思っていたので、今回、4K版がリバイバル上映されて、久々にスクリーンで見ることが出来たのを機に、きちんと本作と向き合ってみようと思った次第。

 ポーランド映画祭でのプレミア上映では、上映後に久山宏一氏(ポーランド広報文化センター)の短いレクチャーが、また、公開後12月3日の初回上映後には、本作の主人公ウワディスワフ・シュピルマンのご子息クリストファー・W・A・スピルマンのトークがあり、どちらもとても興味深いお話(後述)を聞けて良かったです。

 4Kデジタルリマスターとのこと、正直、ポ映画祭のプレミアではイマイチ画質が良くなったのかどうか分からなかった(!)のだけど、3日の上映では、画質もだけど、音がすごくクリアで迫力が増したのを感じました。本編前にリマスターについての簡単な経緯が字幕で紹介され、なかなかヘヴィな作業だった様子。最新技術に感謝。


◆本作にここまで惹かれる理由は何か。

 正直なところ、ホロコースト映画でハッキリと「好き」と言える映画って、、、本作以外に思いつかない。割と好きなのは「あの日のように抱きしめて」とか「サラの鍵」とかあるし、衝撃を受けた「異端の鳥」も逸品だと思うのだが、これらの映画は、もうとにかく見たくて何を措いても劇場に行ってしまうという“衝動”が伴うことはない。劇場で見る機会があれば見に行くかもしれないが、都合がつかなければ行かないし、「見に行かない」という選択肢がある。でも、本作は、劇場で上映されているのに「見に行かない」という選択肢は、ない。ないのよ、絶対。

 ちなみに、前述の3作品は、いずれも原作を買ったり、関連情報をネットで調べたりはしたけれど、今んとこ原作本はまだ積読状態。でも、本作の原作本は、購入してすぐに読んだし、パンフも古本サイトで購入したし、サントラも買った。ついでに言えば、この映画を見たから、ワルシャワに行ったのだ。

 今回、数年ぶりにスクリーンで迫力ある音とともに大画面の映像を見たわけだが、やはり好きだなぁ、、、と悲惨極まりない映像を目にしながら改めてその思いを嚙みしめた。多分、スクリーンで見たのはこれで7回か8回目だろうが、ゼンゼン飽きないし、見慣れて感度が摩耗するということもゼンゼンない。むしろ、見るごとに胸に迫るものが大きくなってくる感さえある。

 ホロコースト映画は星の数ほどあるけれど、その中で、どうして本作にだけこれほど惹かれたのか、、、は、自分でもけっこう謎で、いろいろ自分なりにずっと考えて来た。というわけで、本作の魅力と思う点を挙げてみた。

その1 時系列でストレートなシナリオ
 ヘンに回想やら時系列組み換えやらを一切していない。どんどん悪化していくシュピルマンの置かれる状況が、第二次大戦の進行とともに時系列で淡々と描かれる。時系列組み換えどころか、回想シーンすら一つもない。見る者の心を動かすシナリオに、小細工はいらん、、、ということ。

その2 単純な善悪で語っていないこと
 本作の特徴は、ユダヤ人警察の描写がかなりの幅を割いてされていることではないか。また、終盤シュピルマンを援助するドイツ軍将校についても、終戦後に捕らえられ、命乞いをするシーンを入れているなど、潔い英雄として描いていない。戦争という絶対悪な状況下で、善と悪など簡単に線引きできないこと、人間はそうそう単純なもんじゃないことを冷徹に描いている。

その3 主人公がカッコ良くないこと
 シュピルマンは、家族が一緒に生き延びられるようにあれこれ尽力するものの、状況的にはほぼ無意味であり、結果的に家族は彼以外収容所送りとなるだけでなく、一人収容所送りを免れた彼自身、家族を救おうだとか、ゲットー蜂起で仲間と闘うだとか(武器を搬送する手伝いはするが)、正義感から闘うような行動には出ない。とにかく、今を生き延びることだけである。ハリウッド的に言えばまるでカッコ良くない主人公。でも、それこそが、徹底的に破壊されたワルシャワの廃墟で生き延びるという奇跡をリアルに描いているのである。

その4 ほぼ全編シュピルマンの視点でのみ描かれていること
 その1にも通じるのだけど、本作は、ほぼ、シュピルマンが見聞きした以外のことが描かれていない。シュピルマン不在で物事が進行するシーンはほぼゼロである。ゲットー蜂起のときも、ワルシャワ蜂起のときも、その描写は彼の隠れ家の窓から見える風景とされている。独ソ戦などの歴史的な出来事は一切描かれていない。シュピルマンが砲撃の音を聞き、それについて、「ソ連軍が迫ってきている」とドイツ人将校が語るシーンがあるだけ。それなのに、いかに凄惨な状況だったかが、数多あるホロコースト映画よりも説得力を持って描かれている。

その5 あらゆる描写に容赦がないこと
 凄惨なシーンが多々あるのだが、肝心の箇所だけ映さないとか、そういうのが一切ない。頭を問答無用で拳銃で撃ち抜いたり、車椅子の老人が車椅子ごとベランダから投げ落とされたり、餓死した死体が路上でゴロゴロ転がっていたり、処刑された血みどろの死体が壁際に並んでいたり、、、。処刑シーンも最後までバッチリ映す。下手すると、ホラー映画とかよりよほど酷い描写が多々あるけれど、あくまで淡々とした描写で、凄惨さの演出などは当然なく、それが却って怖ろしく目を逸らせない。ショッキングなのは、ユダヤ人警察が同胞に対してストレス解消の如く酷い暴力を加えるシーン。しかもいっぱいある。とにかく、容赦がない。そして、それをただただ見つめるシュピルマンなのである。

その6 役者の演技が素晴らしいこと
 主演のブロディは言うに及ばず、ドイツ軍将校役のトーマス・クレッチマン、シュピルマン一家や彼を助けた人々を演じた俳優陣、エキストラの人々まで、とにかく一人としてマズい演技の人が出て来ないという奇跡みたいな映画である。これは、やはり監督の演出力でしょうな。

その7 映画として全く隙が無いこと!!
 イロイロ挙げて来たけど、本作は、ホロコースト映画で歴史大作でもありながら、シナリオ的には伏線がちゃんと回収されていたり、ところどころユーモアも交えていたりと、エンタメとしても仕上がっており、音楽・美術・映像あらゆる要素が、これぞ“ザ・映画”。最初から最後のエンドロールに至るまで、全く隙が無い、おそるべき映画。

 というわけで、いかにこの映画が素晴らしいかをダラダラ書いて来たのだが、異論はあるでしょうけど、受け付けませんっ!! だって、これは私にとっての最高の映画(の一つ)だからねっ。


◆久山氏とご子息のトークから

 私は自分が死んだら、棺桶に入れてもらいたい映画がいくつかあるのだけど、そのうちの1本が本作。……と思っていたら、何と、監督のポランスキーも、「自身が死んだら、本作のフィルムを棺に入れて欲しい」と言っているってぇじゃあ~りませんか!! マジか?! ちょっと嬉しいかも、、、。

 このエピソードは、ポ映画祭のプレミア上映での久山氏のレクチャーでお披露目されたもの。これを聞けただけで、久山氏のレクチャーを聞いて良かったわ~~、と感激。久山氏は、『COLD WAR あの歌、2つの心』公開前に映画についてのレクチャーを聞いたことがあり、そのときも興味深い話をしてくださった。今回、15分ほどの話だったけど内容は濃く、他にも印象的な言葉だったのが「この映画は、ごく普通の人間の目を通したホロコースト映画だが、シュピルマンはただの普通の人間ではなかった、彼はピアニストだった」といったもの(正確じゃないです)。

 実は、私は最初に本作(BS録画したの)を見た際、本作が実話に基づいていることをゼンゼン知らずに見て、最後の最後に字幕で、シュピルマンとホーゼンフェルトについての記述を見て、衝撃を受けたのだった。こんなことってあるの??と。事実は小説よりも奇なりではないか、、、。

 でも、ご子息のトークを聞いて、それもまた短絡的だったなぁ、と感じたのだった。というのも、シュピルマンは我が子にこの体験をほとんど話していなかったらしいのである。度々「悪夢を見た」と言うので、クリストファー少年は「お父さんは頭のオカシイ人」と思っていたとか。そして、本作の原作である『ある都市の死』については、戦後まもなく書かれた後、発禁処分になって長く埋もれていた、、、という風に言われており、wikiにもそのような記述があるが、クリストファー氏によれば「これは多分ウソだと思う」とのことで、これまたビックリさせられた。この原作本を、クリストファー氏の弟がリバイバルで上梓させようとして、そのような物語にしたのだと思う、、、と言っていた。むしろ、シュピルマン自身が辛い思い出が甦らないように封印した節があると。それくらい、この体験はシュピルマンにとって辛く重いものだったらしい。

 ……というエピソードも、完全な事実かどうかは分からないものの、そういう側面があるというのを知っておくのも大事かなと。

 また、シュピルマン自身は、彼を演じたブロディとは容貌も体格も全然似ていないのに、ブロディのふとした表情や仕草が「すごく父に似ていると感じるシーンがある」と話していたのも、驚きだった。……そういうものなのか。ちなみに、父方の祖父母や叔父叔母たちとは「この映画で初めて会った」とおっしゃっていた。

 本作の後半、一家の人々は、シュピルマン本人以外、誰一人全く出て来ない。それが何を意味するか、、、である。こういう映画の作りに、ポランスキーの並々ならぬ思いを感じる。

 ちなみに、ポ映画祭では、本作のプレミア上映以外に、長年見たかった「バリエラ」を見たのだけど、うわさどおり、訳分からんシュールな映画であった。上映後にスコリモフスキ監督自身のトークがあり(通訳は久山氏)、何と全編即興だったと聞いて妙に納得したのだった、、、。それでああいう映画になったのね、と。

 映画『戦場のピアニスト 4Kデジタルリマスター版』は、全国でしばらくの間、公開されている模様なので、未見の方は、劇場まで是非!! こういうことを言うのは主義に反するのだが、敢えて言ってしまうぞ。

 

 

 

この映画は、一度は見ないと損です!!
 

 

 

 

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リトル・ダンサー(2000年)

2014-04-05 | ★10個の作品

作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv31905/


 個人的ベスト5に入る作品で、当然、みんシネにも思い入れ垂れ流しの感想文を書いてしまったけれども、改めてBlu-ray版を購入して思ったことを少し。

 Blu-ray版の特典映像には、ミュージカル版『Billy Elliot』のメイキングが入っておりました。そう、本作は、映画としてヒットした後、ミュージカルとなり、トニー賞の主要部門を独占受賞したニュースはご存知の方も多いはず。音楽はエルトン・ジョンで、彼のインタビュー映像も入っておりました。彼がミュージカル化をダルドリー監督に持ち掛けたようですね・・・。舞台演出出身の監督だったからこそ、ミュージカル版も成功したのだと思います。

 さて、私は、ミュージカルが苦手でして・・・。ミュージカル映画はちらほら見ますけれども、実際に舞台を見に行ったことがあるのは、10年ほど前、ブロードウェイの東京公演での『フル・モンティ』くらいです。よく言われることですが、やはり、歌で心情を訴えたり、踊りで話が展開したり、というのに、どうしても着いていけないんでしょうな、私も。割り切って見れば良いのですが、あの「全てに仰々しい」表現が、どーにこもーにも肌に合わないのですよね。とはいえ、ミュージカル版『フル・モンティ』は楽しめましたよ。さすが、ブロードウェイの俳優たちは舞台映えするその手足の長い素晴らしい肢体と、鍛えられた踊りと歌で、映画とは全く違う魅力を教えてくれました。

 が、しかし、この『Billy Elliot』のミュージカル版は、いくら素晴らしい作品だと言われても、見る気になれません。それは映画版に過剰な思い入れがあるからにほかなりません。一度見てみれば、それはそれとして受け入れられるかもしれませんが、自信がないのです。もっと言うと「怖い」です。私にとってのBillyは、ジェイミー・ベル演じたBillyだけであり、あのバレエ・ダンサーとしての素質が本当にあるんだかないんだか分からない、しかし、エネルギーほとばしる伸びやかなダンスこそが、炭鉱の街からはばたいたBillyのダンスなのです。Blu-ray版の特典映像には、トリプルキャストのBillyが紹介され、その洗練されたダンスが披露されていたけれども、既に、そこがもう私の中のBillyではない!!のであります。

 ま、食わず嫌いなことは十分自覚しております。でも、映画を、もうセリフを全部暗記するくらい見てしまった以上、あの世界観は、ミュージカル版に再現できるとは到底思えないのです。『Billy Elliot』は私の中では、映画版ただ一つ。仮に、今後、映像でリメイクされることがあったとしても、絶対に見に行かないと思います。私にとっては、神聖不可侵な作品といっても過言ではない、それくらい特別な映画なのです。

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