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世界屈指の財閥デュポン家の御曹司(?)ジョン・デュポンから、唐突にサポートの申し出を受けたロス五輪金メダリストのレスリング選手マーク・シュルツ。イマイチ、その申し出の本意を量りかねるが願ってもいないお話に、マークは乗る。しかし、同じく五輪金メダリストである兄のデイヴは乗らない。デュポンの狙いはディヴだったのだが、、、。
ジョン・デュポンは“フォックスキャッチャー”と名付けたドリームチームを結成し、専用の練習環境を用意しマークをサポートする。が、やはりデイヴを諦められないジョン。マークとの関係も程なく悪化する。
ジョンの熱心な誘いに折れたデイヴは、フォックスキャッチャーに参加する。が、久しぶりにマークを一目見て、異常に気付く。明らかに、ジョンとの間に何かあったのだと。
、、、あとは、ジョンの勝手な思い込みによる男の三角関係(?)が暴走し、悲劇的結末へ。
マッチョ男の絡み合う、男だけの恋愛映画(と見た)。、、、ビジュアル的に、かなりキツイ。
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マークがジョン・デュポンと、夜中(だと思う)に延々と2人きりでスパーリングするシーンがあるんだけど、もう、これ、ハッキリ言って、セックスシーンじゃん! と、思わず途中で目を背けました。
そーしたら、帰宅後パンフを読んでビックリ。町山智浩氏が、まさしく「ほとんどセックスだろ!」と書いていて、やっぱ、そーかぁ、アタシだけじゃないんだ、そう思ったの、、、とホッとしました。
・・・というくらい、この作品は、男の男への熱い思いに溢れており、いささか引いてしまいました。別にゲイを否定する気はないし、決して直截な描写じゃないけど、それだけにかなり露骨な婉曲表現で、胸が悪くなりました。
我がパートナー氏であるMr.P改めマルコ(、、、Mr.Pって、ちょっとセンスなさ過ぎなのと、キーを打つのがメンドクサイのでこのブログ上での名前を「マルコ」と、勝手につけることにしました。由来は大したことなくて、私の三大好きな映画の1つである『アンダーグラウンド』のイカレた主役の名前、というだけです。外見からイメージする感じは全然マルコじゃないけど、マルちゃんとか、呼びやすそうでいいかなと。本人はそんな風に書かれているとはもちろん知りません。当ブログの存在さえ知りません)は、子どもの頃から、空手をやっていたんだけれども、その前に、ちょっとだけ親に柔道教室に通わされたんだとか。
で、柔道教室で初めて寝技を掛けられたマルコは、相手の股間が顔にギューギュー押し付けられて(もちろん相手は真剣勝負しているんですが)、かといって、手で押しのける訳にもいかず、もう気持ち悪くてどーしよーもなくて、早々にタップしたんだとか。小学3年生か4年生だったらしいけど、これがトラウマになって、格闘技は打撃系しか受け付けなくなり、空手を始めたらしい。
だから、彼にとっては、レスリングなんてもってのほかなわけで、五輪中継とかで、柔道はまだ見られるけど、レスリングは気持ち悪いとかって見たがらないのよね。まぁ、確かに、私もレスリングはあんまりビジュアル的に好きになれない種目です(レスリング愛好者の方、すみません)。
本作中でも、ジョンのお母さんが、レスリングを「下品なスポーツ」と決め付け、ジョンもろとも激しく拒絶するのだが、まあ、そこまでじゃないにしても、お母さんがレスリングを受け入れられなかったのも、ちょっとだけ分かってしまう、私には。
格闘技と言う意味では、レスリングはもしかしたら最強かも知れない。少なくとも(今の五輪競技としての)柔道なんかより、ゼンゼン強いだろうと思う。しかし、そのプレイスタイルは、、、、。
ここで、私はふと思ったのです。そもそも、ジョンはどうしてレスリングが好きになったのだろう、と。そういう描写は全くなかったので分からないし、想像もつかない・・・。どこに魅力を感じたのかしらん。彼のゲイという性癖がなにか関係しているのかも、というのは邪推かしら。
とまあ、レスリング談義はともかく、本作についての本題です。
本作は、冒頭では男だけの恋愛映画、なんて書いたけれども、実際は、ジョンのマザコン映画、と言った方が正確かも知れません。ジョンは、物質的には何不自由ない身分だけれども、それが余計に、精神的な孤立感を際立たせ、彼が孤独を痛いほど感じてしまう環境だったのです。何より、一番、無条件に愛してくれるはずの母親に、拒絶されるのですからね。これは、彼の人格形成に、とんでもない影を落として当然です。
母親は、どうしてジョンを愛せ(さ?)なかったのでしょうか。これも、本作での描写はありません。ジョンが幼いころ両親が離婚しているようですが、、、。私の勝手な想像だけれど、どうも、ジョンという子は、大人に愛されにくい子だったんじゃないか、という気がするんです。本作でのジョンはものすごく無表情で能面みたいな顔をしているんだけど、それは母親に愛されなかったから結果としてそうなったのかも知れないけれど、幼いころから、こういうツルッとした血の通っていない感じの、なんというか、可愛げを感じられない子だったのではないだろうか、と。それでも、大抵の母親は、我が子を可愛いと思うのだろうけど、そうじゃない母親がいても不思議じゃない。
これは、最近、篠田節子の小説「青らむ空のうつろのかなたに」を読んだから、余計にそう思うのかも。ここに出てくる少年は、もう、理屈ではなく母親に愛されない子、なのです。こういう子、確かにいるんだろうな、と思ってしまう。ジョンもそうだったんじゃないか、と。
でも、子どもに罪はないのです。そういう子に生まれてしまったのであって、自分の意思でそういう子として生まれてきた訳じゃない。なのに、親に理屈抜きで拒絶される。こんな悲しいことってあるでしょうか。生まれてきたことで疎まれるだなんて。
ジョンは、結局、誰からも愛されず、誰からも必要とされず、孤独の淵を彷徨い続け、絶望を受け入れることができずに罪を犯してしまったわけだけど、彼がフォックスキャッチャーを興したのだって、詰まる所は、自分が必要とされていることを実感したかったのであって、生涯、愛情を渇望し続けた人生だったんだろうと容易に想像がつきます。渇望が激しいからこそ、絶望の底も深い。嗚呼、、、
デイヴが、本当にイイお兄さんなんです。人間的にも非常にノーマル。片や、マークは脳みそも筋肉系、寡黙。マークとジョンが険悪になった直接の理由は、映画ではマークがジョンに練習方針等で逆らったから、みたいに描かれていたけれど、実際はマークがジョンに迫られ、それをマークが拒絶したからだ、ということらしい。なるほど、すごい納得。
本作は、映画としては、とても素晴らしいです。セリフでいちいち説明しない。回想シーンで説明しない。全て、時系列で話は進み、きちんと余白を残した演出と構成がされていて、見る者を想像の世界へと誘ってくれます。とても重いテーマですが、キッチリ最後まで観客の心を掴んでくれています。鑑賞後感は、、、まあ、悪いですが。
ジョンはどうしてああいう行動に出てしまったんだろう、としばらく考えましたが、答えは出ませんでしたが、ぼんやりと、絶望を絶望と認めたくなかったんだろうな、そしてターゲットがデイヴになった理由は、デイヴが自分が人生を通して渇望してきたもの全てを手にしている男だったからかな、と。だからマークじゃなかったんだろうな、と。
あと、1つだけ疑問だったのが、マークがジョンにそそのかされてコカインをやってしまっていたんだけど、ああいうのって、ドーピングで引っ掛からないんですかね? 常習でなければ大丈夫なのでしょーか? 謎です。
いろんな意味で、もう一度見たいとは思えない佳作。
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