作品情報⇒https://moviewalker.jp/mv75833/
以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。
=====ここから。
幼い頃に遭った交通事故が原因で、頭蓋骨にチタンプレートを埋め込んで生きるアレクシアは、車に対して異常な執着心を持っており、やがて危険な衝動に駆られるようになっていた。
犯罪を犯し行き場を失った彼女はある日、消防士のヴァンサンと出会う。息子が10年前に行方不明となり、孤独に暮しているヴァンサンに引き取られ、奇妙な生活を始めるアレクシアだったが、彼女は自らの身体に大きな秘密を隠していた。
=====ここまで。
『RAW~少女のめざめ~』のジュリア・デュクルノー監督作。2021年カンヌのパルムドール受賞作。
☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆゜'・:*:.。。.:*:・'☆゜'・:*:.。。.:*:・'゜☆
さんざん前評判で“グロい”と聞いていたので、どーしよっかなぁ、、、とちょこっと悩んだのですが、何と言っても『RAW~少女のめざめ~』と同じ監督の作品なので、見たい気持ちが勝ってしまい、見に行ってまいりました。ぎょえ~~~。
『RAW~』もそうだったけど、本作も、確かにグロいといえばグロいんだが、むしろ汚い、、、んだよね、見た目が。ヒロインの乳首や陰部から黒いオイルみたいなのが滴り落ちて来たり、ヒロインに殺される人が口から泡というか白い粘液みたいの吐いたり、、、という感じで。まあ、汚さでいえば『RAW~』の方が酷かったとは思うけど。
……というわけで、以下、ネタバレしておりますのでよろしくお願いします。
◆初めて劇場で途中退席しようかと思った。
冒頭、少女のアレクシアが父親の運転する車の後部座席に乗っているシーンから本作は始まる。少女アレクシア、車のエンジン音みたいな唸り声を上げている。運転する父親が、その声をかき消そうと、音楽のボリュームを上げると、さらにアレクシアちゃんの唸り声もボリュームが上がる。ボリュームで叶わなくなると、今度はアレクシアちゃん、後部座席から父親の座る運転席を蹴りまくる。
……もう、この冒頭シーンだけで、本作は相当ヤバそうだという予想はつくわね。でも、その予想のはるか斜め上を行くヤバさが待っていた。
いや、正直なところ、冒頭15分くらいで、もう見るの止めようかと思ったくらい。こんなの100分も続いたら到底耐えられん、、、と。実際、途中退出者が結構いるらしい。私が見た回では途中退出者はいなかったように思うが、いてもゼンゼン不思議じゃない。
でも、グロいと言われるシーンは前半30分くらいに集中していて、あとはそれほどでも、、、。グロいというよりは、私の苦手な“痛い”シーンの連続で、正視できなかった。ヒロインのアレクシアは、髪をアップにしていて箸みたいなスティック状のものを髪留めにしているのだが、それが凶器になるのだ。それで、グサッ、グサッ、、、と刺しまくる。うげげぇ、、、、、、。
まぁ、でも、そこは正視しなくても多分問題ないと思う。音はばっちり聞こえていたので想像はつくし。
冒頭シーンの続き。少女アレクシアの行動がエスカレートしたことで、父親はハンドル操作を誤り事故を起こし、アレクシアちゃんは怪我をする。で、頭部にチタンを埋め込まれるんだが、この埋め込まれた部分がまた何とも言えない形状で不気味。
その後、大人になったアレクシアは、モーターショーみたいな風俗店のダンサーをしていて、ド派手な車の上でセクシーダンスを踊っている。ストーカーみたいなファンに追いかけられた挙句、第一の殺人を犯すのだが、その後、自宅でシャワーを浴びていると外で物音がして、素っ裸のアレクシアはドアを開けてみる。……と、そこにはなぜか店のあのド派手な車が。
ふらふらと吸い寄せられるように車に乗るアレクシア。……で、その車に強姦されるのである。
この“車にレイプされるシーン”が、一歩間違えるとギャグ映画に成り下がりそうな、かなりぶっ飛んでいる映像だった。正直、ちょっと笑ってしまったくらい。
その後も、アレクシアは行きずりの人たちを男女問わず殺しまくる。殺そうと思って殺すというのではなく、反射的に殺しちゃう、、、って感じかなぁ。……何で??という感じだが、彼女はある種の対人恐怖症なんじゃないかね。父親は明らかにネグレクトで、アレクシアを疎んじているし、母親はイマイチ存在感がないという描写で、親の愛情を受けていないのは明らか。なので、人との距離感をうまく取れないのだろう。
そのお父さんはどうやら医者と思われる。体調がすぐれないアレクシアに、お母さんが「お父さんに診てもらいなさい」と言って、ネグレクト父さんがアレクシアの腹をさすったりして診るんだが、それもいかにも面倒くさそうに通り一遍で「なんともない」みたいな感じで、このネグレクト父さん自身も、対人関係構築が下手な人なんじゃないか。そんなんでよく医者やってるなぁ、、と思うが、仕事はまた別なのか。
ともあれ、アレクシアは妊娠するのだ。
◆結局、最後まで見た!!
殺人鬼アレクシアだけど、小細工はしないから、あっという間に公開手配される。
顔がバレるとマズいってんで、アレクシア、公衆トイレで髪をジョキジョキ切った上、洗面台に顔を激突させて鼻骨を折って人相を変えるという荒業に出る。このシーンがまた痛いんだ、、、。でも、痛いシーンはこの後、ほぼ出てこなかった、、、、と思う(ほかにも正視できない“激痛シーン”があったけど、この顔激突シーンの前だったと思う)。
で、息子が行方不明になったおじさんヴァンサンに、自分が行方不明の息子アドリアンだと名乗り出る。……この辺が、私には今一つピンと来ない展開だった。一人で生きていけないから、生きる手段としてそういう方法を選んだ、、、ということだろうが、うぅむ。
まあ、でもそれはスルーするとして、このヴァンサンは、老いに抵抗してステロイドをしょっちゅう自分の尻に注射しているという、アレクシアと同類の身体改造派。
恐らく、最初からアレクシアは自分の息子でないと気付いていたが、ヴァンサンもちょっと病んでいるので、彼女をアドリアンだと信じたいという気持ちから、互いに傷を舐め合うかのようにだんだん心を通わせていく、、、という展開になる。
で、最終的にはアレクシアは、車との間にできた子供を産み落として死に、ヴァンサンがその子を取り上げるというシーンで終わる。生まれて来た赤ちゃんの背中は金属みたいな背骨があり、頭にもアレクシアと同じような不気味な金属埋め込み跡みたいなものがある。
エンドロールが流れ出したとき、あー--、最後まで見たぞぉ、、、という感じだった。
◆終わってみれば、、、
結構面白かったじゃん! と思ったのだった。もう一度見ようとは思わないが(少なくとも今は)。
一見、奇想天外なストーリーだけど、実は普遍的なことを描いている。
つまり、親の愛情を知らない女性が、対人関係をうまく築けず、同類の他人と出会うことで人に愛されることや人を愛することを知る、、、という。こう書くと陳腐だけど、それを陳腐に見せないところは、やはりこの監督の力量だろう。
ヴァンサンにとっても、アレクシアと出会ったことで、長年の悪夢(息子が行方不明であること)から解放されたとも言える。途中、ヴァンサンの別れた妻が出てきて、彼女にアレクシアは妊婦の裸体を見られてしまうのだが、妻はあまり驚かない。つまり、ハナから、アレクシアが行方不明の我が息子だとは思っていないということで、自分の夫が病んでいることも分かっているのだろう。アレクシアの出現で、夫の心の闇が少しでも晴れるなら、それも良し、という感じなのだと思われる。
本作はちょっと宗教色もあり、ヴァンサンは男ばっかしの消防署の部下たちに、アレクシアを紹介する際「オレはお前たちの神だ。その子はイエス・キリストだ」などと言う。ラストでアレクシアが産んだ子供を抱き上げているヴァンサンは、それこそ、自分を神だとでも思っているかのよう。
思えば、アレクシアの妊娠も、処女懐胎、、、ともいえる。
ネットレビューで、実はアレクシアは父親に性的虐待を受けており、車にレイプされ妊娠、というのは、父親の性的虐待のメタファーだと書いている方がいた。へぇー-と思った。私は、あの父親はネグレクトだと思って見ていたので。そういう見方もあるのね、、、と。
確かに、車にレイプされて妊娠、、、なんて、リアルでは説明がつかないので、メタファーなのか。
私はどちらかというと、ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』を連想していた。訳の分からないモノを妊娠しているという恐怖。自分の身体なのにコントロールができない怖ろしさ。パンフにも同映画に言及があって、やはりそういう連想をする人もいるのだ、、、と思った。
パンフには、他にもギリシャ神話との関連について言及されていた。チタンはギリシャ神話に登場する巨神のことで、チタニウム(金属名)の語源だとか。
ちなみに、本作には『RAW~』で主演していたギャランス・マリリエも出演している。アレクシアに乳首を嚙み切られた上に殺されちゃいますが。
あと、私はヴァンサンを演じた、ヴァンサン・ランドンが苦手だったんだけど、本作ではあまりそういう感じはしなかった。しなかったけど、好感を持ったというわけでもない。
ちょっとあまりにも内容が濃過ぎて、長くなってしまった、、、けれど、最後に1つだけ。
本作はジェンダーの面からも論じられているようなんだが、確かに、性の境界が意図的に曖昧に描かれていると思う。アレクシアは身体は間違いなく女性だが、パッと見はどちらか分らない中性的だ。女性そのものの身体も、テープでぐるぐる巻きにして性を分からなくしている。アレクシアが女性と分かっても、ヴァンサンは「お前はオレの息子だ!」と彼女に言う。とにかく、ボーダーレスである。
今後、こういうボーダーレスな描かれ方は増えるだろうし、それは全然かまわないが、セクシャリティを否定しがちな昨今の風潮も、正直なところいかがなものかと思っている。男と女の異性愛をメロドラマとして描く作品も、私は見たいと思う。多様化というのなら、あらゆる選択肢が提供されていいはずで、特定のジャンルを否定したり排除したりすることにならないことを願う。
見る人を選ぶ、、、とは思うが、面白いです。
★★ランキング参加中★★