作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv71678/
以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。
=====ここから。
NYマンハッタンの片隅にある老舗ロシア料理店ウィンター・パレス。創業100年を超えるかつての名店も、今や古びて料理もひどく、潰れかけている。
店を立て直すために雇われたマネージャーのマーク(タハール・ラヒム)は刑務所を出たばかり、常連客の看護師アリス(アンドレア・ライズボロー)は他人のためだけに生きる変わり者と、店に集まるのは一癖ある人ばかり。
そんな料理店に、二人の息子を連れて夫のもとからニューヨークへ逃げてきたクララ(ゾーイ・カザン)が飛び込んでくる。
=====ここまで。
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あと1日で、コロナに振り回された2020年が終わります。毎年、1年の過ぎるのが速く感じるものだけど、今年は特に速く感じたような。でも、2月末にロシアに行ったのは、はるか昔のようにも感じ、、、。
その、ロシアがタイトルに入っている本作。舞台はNYでも、ロシア料理店が重要な場所となっているのなら、ちょっと見てみたいと思い、劇場まで行ってまいりました。平日の昼間とは言え、サービスデーだったにもかかわらず、劇場はガラガラ、、、。40人くらいは入っていたかな。
◆邦題に騙される。
ロシア料理店、、、に期待して見に行った者としては、その期待を大きく裏切られたとしか言い様がない。ロシア料理、ほとんど出て来ないんだもん、、、がーん。マジかよ、、、って感じだった。
DV夫から逃げてきた子連れママが逃げ込んだのがウィンター・パレスという名のロシア料理店だった、というだけで、ほかにはほとんどロシア要素ナシ。店のオーナー・ティモフェイ(ビル・ナイ)がヘンなロシア訛りの英語を喋っているけど、それもわざとであって、彼自身は生粋のニューヨーカーだもんね。店は、彼のお祖父さんが移民としてロシアからやって来て開いた、ということになっている。
……というわけで、ロシアを当てにしていたので、ガッカリ感が大きかったのだけれど、映画としてはまあまあ。でも率直に言って“好きではない”。
DVの夫から家族が逃げる話といえば、『ジュリアン』が思い浮かぶが、『ジュリアン』の方がDVの怖さは圧倒的であったし、本作より雰囲気は全体にシリアスで緊迫していた。本作のDV夫も終盤その怖ろしさの本質の直接描写があるが、やはり、ああいう人間からは逃げるしかない。
それを前提で敢えて書くが、本作の母親クララだが、子連れで逃げるにはあまりにも無防備・短絡的で、正直なところ、同情できないどころか呆れてしまった。いくら夫が警察官だからって、福祉を頼ることはできるわけで、恐らく日本よりもそういうシステムは民間含めて整っていると思われる。子どもを殴っているところを「ある日見てしまった」と中盤でクララは言っているが、つまり、殴ったのを見た日の翌朝、追い詰められてすぐ逃げ出した、というわけじゃなさそうなんだが、少なくとも数日間あったのなら、逃亡中の衣食住の手段くらいは考えておけよ、と思う次第。子どもを守るために逃げたのだったらなおのこと、これじゃあ、むしろ母子共倒れパターンではないか。自分ひとりで逃げるのなら構わんが、子連れなら、そこは母親として最低の義務だろう。
喰うに事欠いて、パーティ会場に忍び込んでオードブルをそのまま鞄に突っ込んでいるのは、見ていてビックリしてしまった。パンフに、クララを演じたゾーイ・カザンのインタビューが載っており、そこで、このクララの行為について、彼女は監督に「クララはこういう行為をどこで身に付けたのか?」と質問したと書いてあった。しかし、脚本も書いている監督は、「そこまで考えていなかった」と答えたそうだ。そこで、彼女はクララの生い立ちについて自ら想像力を働かせてあの演技になった、と言っている。監督の答えも、これまたビックリなんだが、、、。
あと、クララに新しい恋が始まる、、、というエピソードもちょっとね。子連れで逃げている状況で、手を差し伸べてくれた男性と恋愛関係になるってのは、まあ、現実にはそういうこともあるだろうけれども、この映画では余計な要素だった気がする。むしろ、そういう色恋がない方がよりヒューマニティを感じられる話になったのではないか。
それに、弱っている状況の女性と、すぐそういう関係になろうとする男なんてまったくもって信用ならん。クララがこんな状況に陥るのも、こういう恋愛にすぐ走る性質があるからじゃない? DV夫とも、確か、17歳のときに何かの事件の被害者と警察官として出会って、優しいからすぐ結婚した、、、、みたいなことを話していた気がする。学習しろよ、、、とオバサンとしては言いたい。またハズレ掴むぞ、そんなんじゃ。
……というようなところが引っ掛かってしまい、好きではない、と感じた次第。
◆その他もろもろ
本作の監督はロネ・シェルフィグ。彼女の監督作品は本作が初めてだが、『17歳の肖像』とか『人生はシネマティック!』あたりはちょっと気にはなっていたが劇場に行きそびれていた。本作も、邦題に“ロシア”の3文字が入っていなかったら劇場に行っていたかは怪しい、、、。デンマーク出身ということもあるのか、わりとフェミ的な要素もある映画を撮っているようだが、本作を見る限り、ちょっと脇が甘い気がした。それは、上記に書いたような理由からだが、まあ、他の作品も見てみないと何とも言えないかな。でも、あまり期待は出来ない感じがする。
クララを演じたゾーイ・カザンは、あのエリア・カザンのお孫さんだそう。彼女の長くて濃い八の字眉毛が終始気になってしまい、彼女のアップのシーンなんかは映画に集中できなかった、、、。エリア・カザンは、正直なところあんまし好きじゃない(作品もだけど、赤狩り時代の言動がね、、、)けれども、彼女は良い女優さんだと思うわ。脚本も書くらしいし、道理で、監督にクララの生い立ちについて質問したってのも納得。
本作で一番のキーマンは、アンドレア・ライズボローが演じたアリスだろう。主役のクララより、よっぽど人間として魅力的だ。それは、看護師でセラピーの主催者で炊き出しの手伝いもしているから、というのではなく、私自身が彼女のような内省的な人に惹かれるから。ちょっとくたびれた感じのアンドレア・ライズボローが良かった。
そして、一番存在感があったのが、ちょっとしか出て来ないビル・ナイ。3代目のオーナーなのに、全くオーナー然としておらず、時にはピアノを弾いて、店番かと勘違いされそうな具合に店の入口で本を読んで、たまに接客すれば「ここで一番の料理はキャビア、缶詰だから失敗しようがない」などと言う。飄々としていて、ビル・ナイの雰囲気にピッタリ。彼自身、ティモフェイのことを「ストーリーの蚊帳の外で漂っている存在で、惨めな奴でもある。少なくとも惨めに見え、不機嫌そうで幸せではない感じがする」とパンフのインタビューで語っている。
別のインタビューによれば、彼は役作りのためのリサーチはほとんどしないそうで、そこで「必要なことは全部脚本に書かれているよ。書かれていない背景まで読み取れというのは、脚本家の怠慢だと思うね」とも言っている。これは至言だろう。シナリオの行間を読め、、、とか言う人もいるが、やはり、シナリオはそれで完結していなければシナリオとしては上等とは言えないんじゃないか。このエピソードを読んで、彼に対する好感度がさらに上がった気がするわ。
ボルシチとかピロシキとかを美味しそうに食べるシーン、、、見たかったなぁ。