作品情報⇒https://movie.walkerplus.com/mv29912/
以下、上記リンクよりあらすじのコピペです。
=====ここから。
チェチェン紛争下のロシア。ロシア軍に徴兵されたワーニャ(セルゲイ・ボドロフ・ジュニア)は初めての戦闘で、チェチェン側の待ち伏せに遭い、同行していた皮肉屋の准尉サーシャ(オレーグ・メンシコフ)と共に捕虜となった。
ロシア軍の捕虜になった息子と交換するため、彼らを買ったのがアブドゥル・ムラット(ドジュマール・シハルリジェ)。足枷を除けば待遇もいい二人は、暇にまかせて戦争や人生について語り合い、見張り役のハッサン(アレクサンドル・ブレエフ)やアブドゥルの娘ジーナ(スザンナ・マフラリエワ)とも打ち解け、ワーニャと彼女の間には淡い恋心さえ生まれる。
だが村人の中には二人に反感を持つ者もいて、二人は銃撃される。自分の息子のことしか頭にないと村人に非難されたアブドゥルは焦ってロシア軍駐屯地へ赴くが、すでに多くの死者や行方不明者を出している司令部は梨のつぶてだ。アブドゥルは二人に母親宛ての手紙を書かせる。手紙を受け取ったワーニャの母(ヴァレンチナ・フェドトヴァ)はロシア軍の大佐(アレクサンドル・ジャルコフ)に掛け合うが埒があかない。
二人は脱走を企て、サーシャは途中でハッサンと羊飼いを殺す。だが脱走は失敗、サーシャは殺され、ワーニャは穴倉の中へ放り込まれる。
その頃ロシア軍駐屯地では、息子がロシア側に寝返った老人が司令部に乱入、息子を射殺し、捕虜だったアブドゥルの息子までロシア側の流れ弾で命を落とす。もはや捕虜交換は成立しない。
ジーナはワーニャの哀願に負けて父には内緒で足枷の鍵を外した。だが脱走直前でアブドゥルは異常に気づく。彼はワーニャを殺しに山へ連れていくが、わざと弾丸をよそに撃って立ち去った。自由になり山を降りて自軍に向かうワーニャの頭上を、爆撃の装備を固めたロシア軍のヘリが通り過ぎた……。
=====ここまで。
トルストイの小説『コーカサスの虜』の設定を、現代のチェチェン紛争に置き換えて映画化。ロシアとカザフスタンの制作。
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コーカサスってどこだか正確にご存じですか? 私は、何となくあの辺、、、くらいにしか認識しておらず、今回、ネットの地図で初めてきちんとその場所を確かめました。それに、チェチェン紛争など、ニュースで見聞きするくらいで背景も実態もほとんど無知に等しいのだけれども、本作は、チェチェンでの撮影が出来ず(紛争中につき)、隣接するダゲスタンの山岳地で撮影されたんだとか。
……という予備知識の乏しさで見たけれど、それでも十分に堪能できる、素朴で味わい深い映画でした。
◆スクリーンで見たい!
本作は、静かなる反戦映画である。戦闘シーンはなく、銃撃や爆撃シーンもない。どちらかというと、戦争を背景にしているのに牧歌的でさえある。しかし、見終わってみると、じわじわとそのシビアさが沁みてくるのである。こんな映画、あんまりないだろう。
捕虜になった2人と、村人たちは、決して仲良くなりはしない。飽くまでも、ロシア人VS村人の構造は崩さないけれども、触れ合いつつ、触れ合いすぎず。この辺の描写が、朴訥とした語り口なんだけれど、非常に魅せられるのだ。背景の荒涼とした山岳地帯とか、荷を負わされ尻を叩かれ働かされているロバとか、民族衣装を着た村の人たちとか、、、それらを2人の捕虜たちの視線で捉えている映像が、下手なセリフよりよぼと説得力がある。
アブドゥルも、2人の捕虜を息子を奪還するための道具にしているんだが、ドライになりきれない。その娘のジーナは、2人の世話をしているうちに、ワーニャと何となく心を通わせるようになる。
そうはいっても、捕虜は捕虜で、一つ間違えば命の保証はない。だから、2人は逃げ出すことをしょっちゅう考えるし、逃げおおせたらどうするかなど話している。ある晩などは、捉えられている小屋の壁を蹴破って脱走しようとするが、壁の向こうが酒蔵だったため、脱走は中止して飲んだくれる2人。そこに、見張りのハッサンもやって来て、皆で酒盛り、、、なんていうシーンもある。
しかし、2人の見張り番であるハッサンが何故しゃべらないか、、、という理由が分かるシーンなどは、淡々としているが非常に恐ろしい背景があってゾッとなる。この地域とロシアの対立の根深さを改めて知らされる。
……という具合に、戦争と人々の暮らしや心情が縦糸と横糸になって丁寧に紡がれており、実に色彩豊かな作品になっている。公開時にスクリーンで見たかったなぁ。ロシア映画特集とかの企画で上映してくれないかな。
◆セルゲイ・ボドロフ・ジュニア
ワーニャを演じる若い兵士のセルゲイ・ボドロフ・ジュニア、どっかで見た顔だなぁ、、、と思いながらずーっと見ていた。サーシャのオレグ・メンシコフは、どっかで聞いた名前だなぁ、、、と思って、途中で、『イースト/ウエスト 遥かなる祖国』でサンドリーヌ・ボネールの夫だった人だ!と気付いた。
で、セルゲイ・ボドロフ・ジュニアも、『イースト/ウエスト~』に出ていたのだと後で調べて分かり、ああ、あの海を泳いで渡った青年か!!と思い出した。……というか、何で気付かなかったのか、私。あの映画、大好きなのに。
しかも、その後、2002年に北オセチア共和国のコバン渓谷で起きた氷河崩壊に巻き込まれて亡くなっているという。遺体は見つからずに、捜索が打ち切られたとのこと。ゼンゼン知らなかった。何ということ……。氷河が崩壊するなんてことがあるとは。しかも、この地域では何度も氷河崩壊が起きているらしい。氷河はゆっくり、しかし突然崩壊するのだそうだ。恐ろしい、、、。
オレグ・メンシコフはやはり素晴らしい役者だ。前述の飲んだくれて脱走未遂に終わったシーンでは、その後、見張りのハッサンに罰ゲーム(?)でワーニャと一緒に踊らされているんだが、そのシーンがとてもイイ。サーシャはボリショイ劇場にも出演する自称「才能ある俳優」なんだが、まあ、確かにオレグが演じると説得力がある。酔っ払いの踊りなんだけど、サマになっている。一緒に足枷をはめられているから、一緒に踊らざるを得ないワーニャのぎこちない動きもご愛敬だ。
終盤、村人のおじ(い)さんが、ロシア人の駐屯地を訪れると、自分の息子をいきなり銃で撃ち殺すシーンがあって、心臓が止まりそうになるくらい驚いた。このおじいさんには3人の息子がいたんだが、2人はロシアとの戦争で死んでおり、三男は何とロシア方に付いてしまった。それに耐えられなくなったおじいさんは、みずから三男を殺したのだ。
本作全体を覆っていた牧歌的な雰囲気は終盤で一変し、見ている者の緊張が一気に高まる。結局、サーシャも終盤に命を落とし、ワーニャだけが生還する。けれども、そのワーニャが見た光景と、生還して後に知ったことがラストで描かれ、見ている者の心にトドメを刺される。
セルゲイ・ボドロフ・ジュニアの実人生でのその後と、このラストシーンが共鳴し、胸が苦しくなる。そして、戦争映画は、やはり見終わって苦しくあるべきだ、と思うのだった。
コーカサス、行ってみたくなった(けど、多分ムリだろう、、、)。