莫山詩想 榊 莫山著
世界文化社 P67~69より引用
ISBN4-418-01515-9 2000円+税
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漢詩から、現代の詩へとテーマを変えた
わたしの書のイメージは、野ゆき山ゆき
しているうちに、いつとはなく「土」と
いう字にひきずりこまれてゆくではない
か。「土」という、たったの三画の文字
の中に、壮大な宇宙の神秘が宿っている
こともわかった。漢字の誕生は、殷王朝
の目もくらむほどの大きな出来ごとであ
る。殷人の想像力ときたら、われら現代
人ですら、シャッポをぬがなければなら
ん、と思う。「土」にみる二本の横棒は、
大地の表面と地中をあらわしているらし
い。そして一本のたて棒は、地中にころ
がりこんだ植物のタネが、光や雨や風の
恩恵をうけて、ゆっくりと地上に芽をだ
してくる姿なんだそうである。「土」は、
地中から地表へと芽をだす植物をイメー
ジして作られたーーなんて、もう驚いて
腰がぬけるほど、すてきな話であろう。(中略)
いつか、展覧会の図録に「わたしの土
は、地の豊饒。五風十雨に野も山も、青
く染まれ、と祈りつつ」とかいたのを想
いだす。
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▽昨日の天声人語に榊莫山さんに関する
記事が載せられていた。エピソードとし
て次のようなことが掲載されていました。
▼書とは逆に、築300年という家での
生活はこだわりと無縁。「莫山日記」(毎日新聞)
にある。「朝起きて、食事して、
新聞読んで、昼めし食って、昼寝して…
かくこともないのである」
筆にはこだわりがあって、ある本では業
者にお金だけ持っていかれて(前金)筆
はついに手に入れることが出来なかった
(確かコリンスキーの筆であったような
気がします)ことを読んだ記憶がありま
す。実におおらかなお人柄ですね。ご冥
福をお祈り申し上げます。
こめぞう