徒然刀剣日記

刀剣修復工房の作品・修復実績と刀剣文化活動のご紹介

職人のトレーサビリティ

2007-03-16 11:36:32 | 拵工作
昨今、トレーサビリティという言葉をよく耳にする。
トレーサビリティとは、製品の流通経路を生産段階から最終消費段階あるいは廃棄段階まで追跡が可能な状態をいう。
そもそも注目が集まったきっかけは、食品分野であった。
食品アレルギーへの関心、偽装表示、産地偽装問題などが引金となって、食品の安全性や、消費者の選択する権利に対する関心が高まったことが要因だ。

先日、スーパーマーケットの有機野菜コーナーにて、生産者の写真と簡単な自己紹介のプラカードを目撃した。
これこそが、今話題のトレーサビリティの一端である。
本来、伝統工芸作品もトレーサビリティを導入するべきなのだ。
しかしながら、実情として作者は判るものの、どのような流通経路を通って消費者の手に収まっているのか、不明瞭な場合が多い。
また、気に入った商品が見つかって購入したものの、経年変化や故障が発生した場合、ドコに問い合わせていいのやら皆目検討がつかないというトラブルも発生している。
もしも、生産者と最終消費者が直接連絡を取り合っていたなら、回避できたはずの問題も散見される。

それでは、生産者と最終消費者が密接に連絡を取り合っていたら、すべてが解決するかというとそうでもない。
ここで、職人によるトレーサビリティの欠点について考えてみた。
職人がトレーサビリティを全商品に実施した場合、全ての商品に責任を持つということになる。
これは当然のことであるように感じるが、実はそうではない。
職人を取り巻く環境は全てディストリビューターが握っている。
職人はディストリビューターからのオファーに応じてコストや納期を調整しているので、ディストリビューターが中間搾取を多く行なおうと思えば、職人への依頼金額が安くなる。
請けた仕事の対価が低ければ、職人はそれだけ材料や細部の技巧で手抜きをしなければならない。そうなれば、製品の品質が悪化することは避けられない。
このような悪循環の中で、製造者責任を追及された場合、職人のみに負荷がかかることが安易に想像できる。

つまり、既存の販売チャンネルを用いていたのでは、ことさら伝統工芸職人には限界があるのだ。

つづく…