ホノルル・ショックってなぁに?と言われる方もいらっしゃると思います。まずは、ホノルル・ショックについて説明しましょう。
脳梗塞超急性期で、脳の主幹動脈(太い重要な血管)が閉塞(詰まること)してしまった患者さんには、現在世界中で、t-PAという血栓溶解薬(血栓:血の固まりを溶かす特殊な薬)を静脈注射する治療(t-PA静注療法)が普及しています。日本には2005年に導入され、当初は発症から3時間以内、現在では4.5時間以内の患者さんに使えることになっています。この時間的要素に関しては、t-PA静注療法が遅れて行われると、半身麻痺などの症状が回復しないばかりか、逆にt-PAの副作用である脳出血の危険性が高まることが知られています。また、患者さんの状態によっては時間は間に合っていても、ルール上t-PAを使用できないこともあります。さらに、t-PAは魔法の薬ではなく、t-PAをうまく使用しても効果がない患者さんは約4割程度いると言われています。このような、t-PA静注療法ができない、あるいは無効な患者さんに対して、脳血管内治療に期待が集まったのは当然の流れといえるでしょう。
脳血管内治療では、カテーテルを動脈から挿入して、脳の血管閉塞部位に進めて行き、そこから特殊な器具を使用して血栓を回収して閉塞部を再開通させ、脳梗塞に陥らないよう助ける治療です。血栓溶解薬t-PAを使用しないため、出血の危険性が低いと言われており、発症後8時間以内に使用するよう定められています。もちろん、早ければ早いほど有効性が高くなることは言うまでもありません。
さて、ホノルル・ショックですが、簡単に言うと、t-PA静注療法単独とt-PA静注療法+血管内治療のどちらの成績が良いかを比較した試験が海外から相次いで報告され、その中でも大きな3つの試験すべてで、血管内治療の有効性が否定されました。この報告がすべて2013年にホノルルで開かれた学会(International stroke conference: ICS2013)で発表され、我々血管内治療医にとっては、良い治療と信じてやってきた血管内治療の成績が良くないと否定された訳ですから、ショックに感じて、その学会がホノルルで開催された会なので、ホノルル・ショックとなったのです。
さて、前置きが長くなりましたが、ホノルル・ショックと同じ学会、ICS2015が現在米国で開催中で、その中で血管内治療の有効性を示す研究報告が相次いでなされました!
2年前にダメだったものが何故今になって?と思われる向きもあると思いますが、脳血管内治療は急速に進歩している分野であり、この2年間の間にも、血栓を安全で効果的に回収できる器具が新たに開発され、使用可能となっています。もちろん、我々術者の経験や技量も向上していますので、成績は良くなっています。実は、ホノルル・ショックの時に使われている血栓回収器具は、もう古くてほとんど使われていません。今回のICS2015の研究で使用されている血栓回収器具は、新しく、安全性・有効性ともに高いものです。このわずか2年の間での器具、そして技術の進歩に敬意を表するとともに、血管内治療の有効性がきちんとした研究で示されたことに感激しています。これでやっと、ホノルル・ショックから抜け出せる・・・と言うことです。
長くなりましたので、今回の結果はまた後日ゆっくりと・・・
とりあえず、本日は脱ホノルル・ショックということで。
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