不機嫌な太陽 ―気候変動のもう一つのシナリオ― No.2
§3 雲による気候変動
気候変動を起こす原因は雲の存在にあることの説明。雲量の変動は、宇宙線強度の変化に応じて起こる。その宇宙線の強度は、太陽の磁気遮蔽が強いか弱いかによって変化し、地球上の変化には影響されない。気候変動に最も重要な雲の種類が何かも特定できている。雲の増加は、地球の北半球を中心とした大部分の寒冷化をもたらし、南極大陸の雪原では温暖化をもたらすことから、雲が実際に気候を左右している。
3章 光輝く地球は冷えている
人工衛星による観測結果は、雲量が宇宙線の増減に応じて増減していることを示している。気候変動に最も影響を及ぼすのは低い雲で、それが地球を寒冷化させる。そのことは、逆にその雲が雪原の南極を温暖化させている事実により確認できる。
1節 判っていなかった雲
気候モデルにおいて
2004年に米国大気研究センターのトレンバースは、「気候モデルは、雲を正しく扱っていない。・・」と言い、2005年には、それまでの気候モデルが正しくなかったことが明らかになった。1983~2002年の実際の雲の衛星観測と比較し、その違いは数百%にも達した。
人工衛星での初めての観測
雲の実態を観測するために、2006年に米仏のカリプソ衛星とNASAのクラウドサット衛星が一緒に飛んで、同じ雲を15分以内ずつ、一方はレーザー光レーダーで、他方はmm波レーダーで磁場観測を3年間続けた。これにより、厚い雲内の異なる各層の識別、小滴の粒径の測定、および雨として落下する小滴かどうかの区別などの多くが解明された。
将来の気候予測
この時期に「炭酸ガスの排出による気候の温暖化」問題が始まった。まだ「気候変動における雲の役割」は認められていない。自然の温室効果は主に水蒸気によっており、地球の表面を生物に適する状態にするのに不可欠である。炭酸ガスも同様に作用する。現在の議論は、炭酸ガスが増加し続けると、その温暖化効果はどれだけ大きくなるかである。雲の実際の役割からは、極度の温暖化は起きないだろうと予測される。
2節 雲による熱の出入りの抑制
気温に及ぼす雲の影響
雲には冷却効果がある。太陽光は、その雲がなければ雲の下にある地球の表面を温めるが、雲があると、雲に当たった光の半分が宇宙空間に跳ね返される。さらに雲に当たった太陽光の一部は雲の内部に吸収される。 雲は、地球の表面から熱が逃げるのを阻止するので、それ自身が温室効果をもたらす。雲もまた宇宙空間へ赤外線を放射するが、雲の上空は地表より温度が低いので,雲が存在する時の方が熱の損失が少ない。1990年代のNASAの地球放射収支実験では、全地球的な測定で、地球を覆う雲の加温効果と冷却効果の収支は、総合すると雲は強力なクーラーである。薄い雲は例外で、加温効果を持っている。高度の高い上層にある羽毛状巻雲は、-40℃近辺で冷たいので、雲から宇宙へ放射する熱は少なく、地球からの放射を阻止する熱の方がずっと多い。中間の高さの厚い雲は、もっとも効率の高いクーラーである。しかし、それはどの時間帯でも地球の約7%を覆う分しか生じない。低い雲は、そのほぼ4倍(30%弱)の面積を覆い、地球冷却の60%を占める。太陽光を遮ると共にその雲の比較的暖かい上面から高い効率で宇宙空間へ熱を放出するからである。低い雲の中で、広くて平らな毛布状の積層雲は、地球上の約20%を覆い、主に海洋上に生じる重要なクーラーである。 全般的に見れば、雲は入射太陽光の加温効果を8%削減する。雲が無いと地球の平均温度は約10℃上昇し、低い雲が数%増えるだけで地球は寒冷化してしまう。
雲の分布状況の把握
雲が空を覆う平均量は、年ごとに変化する。気象衛星により、雲を地球全体の視野で見ることが可能となった。国際衛星雲気候計画は、全世界の民間の気象衛星から入ってくるデータを蓄積した。NASAのゴダード研究所のウイリアム・ロソーの立案で、地球表面を一辺が約250kmの正方形で分割し、月毎のチャートを作成して、モンスーンやエルニーニョと雲の動きをとらえた。それは、地球全体の雲量と太陽のリズムとの間のつながりがあることを示した。
3節 太陽と気候との間の見落とされていたつながり
宇宙線量と雲量との関係の調査結果
気象衛星は国によっても異なるので、赤道上空を飛行している米国、欧州、日本の静止衛星によって観測された海洋上の雲の月間記録のみを使用し、宇宙線に関してはコロラド州のクライマックス観測所の中性子の月間平均数を選んだ。両者の変化は著しく一致していた。そのデータは1984~1987年までの間の太陽活動が徐々に静かになると共に、地球に届く宇宙線は増加した。その間に海洋上の雲量は徐々に約3%増加した。1988~1990年までの間の宇宙線は減少し、雲もまた4%減少した。この結果は、宇宙線による雲量の変動が、太陽からの光の強度の変動よりも地球の温度にずっと大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。雲量は、宇宙線量の変化に忠実に従い、この相関は並外れて高かった。
4節 炭酸ガスによる温暖化説
1990年に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は地球の過熱が目前に迫っているという警告を発表した。20世紀の間に地球の温度が穏やかに上昇したのは、空気中の炭酸ガスの量が人工的に増加している為との考えであった。太陽活動のような自然要因がそれに大きく関与しているという説は歓迎されなかった。1992年にデンマーク代表団は、気候に及ぼす太陽の影響を研究課題に追加すべきと提案したが却下された。1996年デンマークの新聞社が、IPCCの議長にスベンスマルクらの宇宙線と雲の関係についての研究に意見を求めたら、「科学的に信頼できるものではない」と答えた。 スベンスマルクは、デンマークの公的機関は研究費を出さず、その代わりにカールスバーグ財団からの援助を受けられた。彼の発見した気候変動機構により、クヌード・ホフガール記念研究賞とエネルギーE2研究賞の二つの賞を受賞したが報道されなかった。
5節 低い雲に驚くほどの一致
再調査に用いた新しいデータ
国際衛星雲気候計画は1983~1994年のデータを発表した。そのデータを再調査した結果、スベンスマルクは2000年までに「太陽活動の変動の影響は、低い雲に最も強く現れる」と報告した。これは高度の異なる3種類の雲が、各地域を覆う面積比率(%)月間平均値の変化を、太陽活動の変化に応じて変化する宇宙線量の月間平均値と比較したものである。
この調査で得られた結果
地表から約3000m以下の高度に生じる雲が、宇宙線の増減に最も敏感に応答する。この高度は宇宙線がもっとも少量しか存在しない。既に地球の冷却の60%は、低い雲であることが確認されていた。低い雲が主役であることは、最も重要なものが最もエネルギーの高い宇宙線の強度だからである。なぜなら高エネルギーの宇宙線しか、最も低い高度まで到達できない。 この調査で、1年ごとに平均した低い雲の量と宇宙線の強度との一致度は、92%であった。予想に反して、高度が中間の雲と高度が高い雲は、宇宙線の変動とは無関係に見える。その理由は、宇宙線は高い高度にはいつも大量に存在するが、低い高度の空には宇宙線は少量しか存在せず、その総量が少ないから変動が大きく反映されるのである。
太平洋とインド洋の2つの領域と、グリーンランドとスカンジナビアとの間の北大西洋の領域は、低い雲と宇宙線とのつながりが最も強いことを示している。 低い雲の上部温度を調べると、熱帯地方を中心として地球を取り巻いたベルト状の領域の雲の変化は、宇宙線の変化に忠実に追従した。この雲の影響は、地球冷却の30%を超えることは確実である。宇宙線が増えた時には、この低い雲の上部温度がより温かくなり、そのために宇宙空間への放熱が増加し、冷却効果が強まるのである。
低い雲の上部温度についての考察
どうしてその領域なのか。それは水の小滴が凝縮できるための表面を提供する小さな極微細粒子が、その領域の空気中にはより多く存在するからである。つまり極微細粒子が多いので、そこへ宇宙線が多くなると、小滴は小さいが数が多くなり、凝縮した水の合計量が少ないので、雲は霧状になる。その結果、この雲は地表からの熱を上方へ通過しやすくなり、雲の上部の温度が高くなる。衛星から観察すると、海洋上の雲の少なくとも3分の2はこの奇妙な形態の雲に属している。海上の船の航跡に沿って現れる直線状の雲は、このことを示している。1987年にワシントン大学の研究用航空機が、2隻の船の航跡に沿って形成された雲の中を飛行し、検証した。
6節 太陽活動が活発化した時
20世紀の気温の変化
宇宙線強度の平均値は、この100年間に著しく低下した。このことは地球を覆う雲量が減少し、地球は温暖化していることを意味する。 温度の記録は、この20世紀中に地球全体が、徐々に約0.6℃温暖化していることを示している。この温暖化の半分(+0.3℃)は、1945年以前に起こった。この期間には、太陽が活発化の真っ最中で、宇宙線は減少中であった。1960年代と1970年代の初期には、著しい寒冷化の期間に切り替わった。この時は太陽の磁気活動が一時的に弱まり、宇宙線が増加していた。1975年以降は、太陽活動の上昇が再び始まり、宇宙線は再び減少し、そして地球の温暖化が再開した。IPCCが1988年に創設され、炭酸ガスに関して関心が高まったのはこの時期である。
20世紀の宇宙線の変化
宇宙線の流入量の系統的測定値は1937年から存在している。1999年にオックスフォードの研究所のロックウッドたちは、それ以前に宇宙線が流入していた量を見つけ出せる方法を見出し、その結果は、惑星間空間では太陽の磁場はこの20世紀の間に2倍以上強くなったという。これにより20世紀全体の磁場の変化と、温度の変化がよく一致していることが示された。それは欧州米国宇宙探査機ユリシースによって、太陽の磁場強度がすべての方向で同じであることを発見した為である。宇宙探査機は1964年以来磁場強度が40%増加したことを直接測定した。ロックウッドは、それ以前の段階でさらに大きく増加し131%に達したと推定し、1901年と比べて1995年の太陽の磁場強度が2.3倍になったという。 1995年以降には磁場が強くなり、それで低い雲の高さまで届く高エネルギーの宇宙線が減少していることを、ペルーのワンカヨ測定器は示した。スベンスマルクたちは、そこから「20世紀の100年間における低い雲の放射性強制力(地球のエネルギー収支の変化)の概算値は、1.4W(ワット)/平米の温暖化である」との結論を出した。この概算値に対する批判の一つは、火山爆発やエルニーニョによるというもので、別の批判は、国際衛星雲気候計画を信用していなかった。IPCCは宇宙線と気候の変動とのつながりを認めなかった。
7節 南極だけは雲で温暖化する
概説 専門家は、南極と他の大陸とは気温の傾向にずれがあると気がついていた。
南極を隔離するもの
風の回転特性が南極を他の地域の気象から隔離していた。風は上から見て右回りに流れ、それが環南極海流を引き起こす。南極はその環南極海流によって、メキシコ湾流や黒潮などの熱帯流から隔離されていた。南極の成層圏にも同様の右回りの風が吹いていた。この成層圏南極渦は、これに対をなす成層圏北極渦よりずっと強く持続性が高い。
南北の氷床コアー・データの比較
南極以外は世界の気候変動に従っているというデータが出た。 1999年にコペンハーゲンのボーア研究所のダールージャンセンらは、グリーンランドのGRIP掘削孔と、南極のロードーム掘削孔の中の氷の温度を比較した。埋まっていた氷は、熱の貯蔵性と絶縁性が高いので、その生成当時の局所温度を数千年もの間保存していたので、それを温度測定装置で、氷の各層が形成された時代における温度を測定、記録した。その結果は、過去の6000年間の北と南の温度を比較すると、「南極の気温は、グリーンランドの気温が平年より寒い時には、平年より暖かい傾向にあり、グリーンランドが暖かい時には寒い傾向にある」であった。ダールージャンセンの結果は、最近の小氷期の間、グリーンランドでは著しく寒かったが、南極では比較的暖かかったことを示した。
南極のもう一つの掘削場所であるサイプルドームでは、ペンシルべニア州立大学のアレイらが特徴的な層を見出した。その層は、それが存在した時代に夏が異常に暑くて氷が溶解していた。その溶解の起きた頻度の変化が、気候の変動を示していた。2000年にそれが発表され、「溶解が最も頻繁に起こった300~450年の間で、溶解を経験した年が8%にも達した。それは、南極ではこの期間の夏の温度が高かったことを示しているのだろう。この150年間は、北半球で温度の低い小氷期と一致している」とした。アレイらはさらに1万年前まで追跡した。そしてサイプルドームの氷床で、約7000年前における2000年間、氷の溶解が全く起こらなかった期間を見つけた。その期間は南極では寒冷であったが、グリーンランドでは異常に温暖だった。グリーンランドでの掘削地から採取した同じ期間の氷は、過去1万年の間で、夏の溶解が最も頻繁に起こった期間であったことを示した。
北と南の気候変動の境界と時間差
地球全体の気候は、孤立した南極とそれ以外の世界との間で、不均等に分配されており、その2つの領域は、風と海流により、それぞれの領域の固有の気候変動の傾向を共有していた。オーストラリアとその周辺、南アフリカ、南アメリカを含む地域、つまり南半球の大部分は、気候変動に関して共通性が高いのは、南極ではなく、ユーラシアと北アメリカであった。その境は南緯60度の所にあった。つまり「南極気候の異常」である。南極とそれ以外の世界とでの気候の応答速度は、違ったとしてもそれは数年であると考えられた。
20世紀における南極気候の異常
1900年以降の100年間の気温の記録は、全地球と南極の双方とも、全般的に温暖化を示しているが、その途中の段階では一致していない。1920年代と1940年代には、南極で大きく寒冷化し、全地球は温暖化が急上昇した。 それとは反対に、1950年代と1960年代には、南極は劇的に温暖化したが、他の世界は一時的に寒冷化を経験した。1970年以降は、地球の温暖化が再開している間、南極の気温は横ばい状態となる。しかし、南極のハリー湾基地では、気温は著しく低下した。
8節 南極気候の異常を起こす要因候補
南極気候の異常の説明は、炭酸ガスでは説明できない。炭酸ガスは全世界に均一に広がっているからである。オゾン・ホールも同じである。オゾン・ホールの拡大はフロンガスを放出したことによるものではない。なぜなら、それでは有史時代にも先史時代にも起こっている南極気候の異常を説明できない。また天文学的要因、つまりミランコヴィッチ・サイクルの説でも説明がつかない。 それは地球の軌道の変化や姿勢の変化で、南極へ降り注ぐ太陽光の強度は、数千年の間に変化する。これはダールージャンセンの説明には役立つが、南極と北方の気温の違いを説明できない。雲量の変化が、南極気候の異常を直接予測できる唯一の要因である。雲量が減少すると、地球は温暖化し、南極は寒冷化する。雲量が増加すると、南極は温暖化し、残りの地球の部分は寒冷化する。
雪原における雲の効果
南極の雪原は、地球の最も白い部分を作り出している。北極の雪よりも、雲の上面よりも白い。その結果、南極では雲がない時に雪原が太陽から直接吸収するエネルギーよりも、雲がある時にその雲が一旦太陽のエネルギーを吸収し、その熱を雪原に再放射するエネルギーの方が多い。衛星により観測されたこの南極の雲の温暖化効果は、南極点における地上観測により確認された。それは、2003年に「雲は、1年のどの月においても、南極大陸の雪原を温める効果を持っていることが判明した」と発表された。 グリーンランドの氷床でも、雲により暖められることが知られていたし、長年にわたって観測もされていた。衛星による観測からも、雲の減少は局所的に寒冷化させることが示されていた。グリーンランドの氷床は南極ほど白く輝いていない。グリーンランドの気候は、風と海流によって、北大西洋や世界全般の気候と一体化されている。局所的な雲による温暖化効果は、大部分が打ち消されている。
南極気候の異常についての考察
雲の少しの増減での気温の変動を、衛星データを使って計算すると、雲量が4%増加した時には、気温は赤道では約1℃低下し、南極では0.5℃上昇する。雲量が4%減少すると赤道では1℃上昇し、南極では0.5℃低下する。 それでは地球の温暖化が雲量の減少によって起きるなら、南極において、1900年頃より2000年頃の方の温度が高くなったのはなぜか。スベンスマルクは、南極は孤立しているが、その大気中の水蒸気が自然に増加したために、温暖化を共有できたという。 地球の大気が暖かくなると、水は蒸発しやすくなる。水蒸気は最も重要な温暖化ガスなので、水蒸気があると宇宙空間へ放出される熱の一部が地表に戻されるので、全般的な温暖化を増幅する。余分の水蒸気は南極上の空気の中にも入ってくるので、その温暖化効果が、雲の減少による寒冷化効果を上回ったのであるという。
南極気候の異常は、寒冷化と温暖化が交互に起こっている時には保持されるが、世界の一方的な温度上昇時には破綻することとなる。これは2006年に言われた。南極気候の異常は、「雲量の変化が地球の気候変動を起こす」ということを立証している。
21世紀における南極の寒冷化 英国南極観測隊のハリー観測所は、44年間で初めて2002年に船が海氷にとじこめられた。南極は寒冷化しているのだ。
9節 氷期における南極気候の異常
過去1万年前に遡っても、20世紀と同じことが起きている。1章で述べた、厳寒のハインリッヒ期と、ずっと暖かいダンスガール・エシュガー期との間で気候がふらつき、気候の交代がより劇的に起こっているが、これらの寒冷期と温暖期による温度変化は北半球のもので、南半球の南極の温度変化とは違っている。 グリーンランドのGIPS2地点の氷床と、南極のバード地点の両方の氷の掘削で得られた試料を比較し、メタンガス濃度の測定で双方の年代が対応していることを確認した上、この氷床の氷そのものに存在する重い酸素原子をカウントして、その古代の温度を測定した。
2001年にブリンストン大のブルニアーたちは、過去9万年の間にわたって記録された主な温暖期と寒冷期について報告した。「南極では、この9万年の間に千年規模の温暖期が7回起こったが、それらの各開始時期は、グリーンランドでの各温暖期の開始時期よりも、それぞれ1500~3000年だけ先行した。一般的に、南極の温度が徐々に上昇した時は、グリーンランドの温度は低下中か、それとも一定しているかであり、南極の温暖化が終了した時期は、グリーンランドの急激な温暖化が開始した時期と一致しているようだ。」これは海流の変化では説明できない。
スベンスマルクの説明
「雲の形成により気候が変動する」という説明として、1つ目は「南極が氷床で覆われているために、雲が通常とは異なる温暖化効果を及ぼす」―氷床の影響。2つ目は、「太陽が『躁』または『うつ』の状態になることにより、宇宙線の量が変化した」―太陽活動の影響。これは雲量の変化つまり、氷期以来の温暖期と寒冷期の双方に太陽が明確に関わっていると説明。3つ目は、「数百万年、数十億年にわたる長期の気候変動も、宇宙線と雲との間の仕組みで説明できる」―宇宙線発生源の影響。
10節 20世紀の温暖化の説明 には2つの説がある。
〇一つは、太陽活動の変化によるもの(スベンスマルクの説)
〇もう一つは、大気中の人工の温室効果ガス―特に炭酸ガス―の蓄積によるもの
この2つの説のうち、どちらでも1900~2000年の間に約0.6℃の温度上昇を説明できる。炭酸ガスによる地球温暖化説は、①炭酸ガスがその気候変動の大部分を起こした主要原因であるという仮説と、②地球は今、温暖化の危機に直面しているという仮説の双方を主張している。
スベンスマルク説では、1900年以前に起きた古代の気候変動は、現代よりはるかに激しかったが、それも宇宙線の変動によって引き起こされたものであるという。20世紀の温暖化は、太陽の磁場が2倍になり、その結果宇宙線が減ったことがその原因の大部分を占めなければ、他の時代に起こった現在よりも大きな温度変化を説明できないとした。
20世紀における宇宙線と気温との関係の調査
1998年には宇宙線強度の全ての体系的な記録と、最も古い時代まで遡れるものが利用できた。ニューメキシコ大学のアールワリアは、宇宙線研究者フォービッシュが建設したメリーランド州とバージニア州の2つの観測所から、1937年までさかのぼる古いデータを回収し、それらをシベリアのヤクーツクにおける同様のデータと組み合わせて、1937~1994年までの一連のデータを作成した。 スベンスマルクは、このアールワリアのデータを用いて、宇宙線の変化を北半球の温度変化と比較した。宇宙線の減少、雲量の減少、温度の上昇を、経年変化のグラフを作り、比較した。その結果、最初の数十年間は小刻みに上下し、1960~1975年の間には、低下し、それからは1990年代の温暖期に向かって一緒に上昇した。
1980年以降の温暖化の原因
一部の科学者は、太陽要因説は排除できると説明している。しかし太陽活動と温度変化の実態は、20世紀の期間中の上昇傾向が1980年頃に終了したが、その後の25年間に降下したわけではなく、宇宙線の強度は、太陽活動のサイクル中にリズミカルに変化し続けている。そしてそれと同じ小刻みの温度変化が、大きな温度変化傾向の上に重なっていることが記録されている。太陽が引き続いて気候変動を起こしているというこの証拠は、特に、気球や衛星により測定された海洋の表面と準表面(水深50m)の水温、および海面上の気温においても明白であった。 1985年の温度上昇傾向は、北半球の陸上の表面上の温度で、その勾配は最も急である。しかし、海面下50mでは、あたかも地球温暖化が停止しているかのように、宇宙線の増加と減少に合わせて、水の温度が上昇と下降するだけだった。
◎ 二酸化炭素地球温暖化説の難問は2つで、1つは「現在、陸地、海洋、および空気によって温められる速さは、北半球の陸地の表面上の温度の方が、残りの世界よりも速いように見えるのはどうしてか」というもの。もう一つは、「増加中の炭酸ガスや他の人工の温室効果ガスの温暖化効果は、地球の大部分において、予想されているよりずっと少ないように見えるのはどうしてか」ということである。例えば南極では、雲の減少による寒冷化の影響を温室効果ガスは打ち消すことができないし、人工の温室効果ガスにより急激に温暖化していると特定されていた期間の1978~2005年の間に、海氷の領域が8%増加している。
炭酸ガスの温室効果
海洋における準表面(水深50m)の温度変化の程度は、宇宙線と雲に関するスベンスマルク説では当然のことである。ノーウィッチ気候研究部隊のヒューバート・ラムが1977年に書いた意見は、「放射収支上、増加した炭酸ガスが気候に及ぼす影響が、温暖化する方向にあることはほぼ間違いのないことであるが、一般的に受け入れられている推定値よりも、おそらくずっと小さいであろう。」1980年代の末迄、太陽の変動が数世紀にわたる気候変動を引き起こす最も有力な要因として知られていたが、宇宙線との関係は知られていなかった。
気候変動を起こすと考えられる候補は、①大きな火山の爆発やエルニーニョ温暖化が起こった頻度、②空気中のちりや煙の量の変化、③オゾン、メタン、および他の温室効果ガスの変動、④陸地の用途変更、⑤増加した炭酸ガス全てにより繁茂した植物による陸地の全般的な暗色化、それと炭酸ガスによる温室効果、⑥スベンスマルクの宇宙線と雲と太陽の変動による説、である。
衛星のデータは、宇宙線と雲の減少により、約0.6℃の温暖化が起こったと推定できた。また南極気候の異常も、雲が担っていることで説明できた。しかし、炭酸ガスの温室効果により引き上げられた温度は、衛星データで検証できなかった。 大気中の炭酸ガスを2倍に増やした時の温室効果を、どう計算しても0.5~5℃の間になり、一致していない。炭酸ガスだけでは温度上昇を説明できない。 スベンスマルクは、「余分の炭酸ガスの効果を、より精密で科学的に評価することが必要である」と考えている。どう計算しても、「21世紀における地球温暖化は、起こったとしても、現在予測されている3~4℃よりははるかに小さいであろう」という。
(注:これは、この書の要約と解説とまとめを、多くは原文の引用ですが、分かりやすくする為に、一部は短くまとめたり、順序を変えたり、書き直したりしています。詳しくは原著をお読み頂きたい。図は後ほど掲載します。 黒部信一)