第45代米大統領 ドナルド・トランプ氏(Donald J. Trump) が就任してから4ヶ月、次々と疑惑が浮上してきた。米連邦捜査局 (FBI = the Federal Bureau of Investigation) のジェームズ・コミー (James Comey) 前長官の解任や、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相 (Russian's Foreign Minister Sergei Lavrov) との機密漏洩とされる事案などで米議会による弾劾の動きが出てきた。米司法省 (the US Department of Justice) は政権から独立した権限を持つ特別検察官 (Special Counsel) に元FBI長官ロバート・モラー (former FBI Director Robert S. Mueller III) を任命、ロシア疑惑解明に乗り出した。
大統領の弾劾とは「大統領をやめさせる制度」で、アメリカ憲法第2条第4節には「大統領、副大統領およびすべての文官は、反逆罪、収賄罪または他の重大犯罪および非行行為によって訴追され、かつ有罪の判決を受けた場合は、その職を免ぜられる」と規定されている。The U.S. Constitution: Article 2 Section 4; "The President, Vice President and all civil officers of the United States, shall be removed from office on impeachment for, and conviction of, treason, bribery, or other high crimes and misdemeanors."
米下院 (the House of Representatives) が出席議員過半数の同意により訴追を行い、米上院 (the Senate) がそれに基づき弾劾裁判を行う。大統領を罷免するためには上院の出席議員の3分の2以上の同意が必要。
過去、弾劾で辞めさせられた大統領はまだいないが、1867年のアンドリュー・ジョンソン、1974年のリチャード・ニクソン、1999年のビル・クリントンの3回ほど問題となった:
1) アンドリュー・ジョンソン(Andrew Johnson /第17代大統領 1865~1869)
下院で訴追されたが上院で辛うじて弾劾をまのがれた。
2) リチャード・ニクソン(Richard Nixon /第37代大統領 1969~1974)
民主党本部で起きた盗聴侵入事件、いわゆるウォーターゲート事件(the Watergate scandal)
に始まった政治スキャンダルで、下院の司法委員会は司法妨害、権力乱用、議会侮辱を理由として、
訴追勧告を決定。この勧告に従い下院が訴追決議する前に大統領が辞任したため、弾劾裁判は
開かれなかった。
余談だが、このウォーターゲート事件で世界的に有名になったのがわが駐日米国大使(2001~2005)
だったハワード・ベーカー氏 (Howard H. Baker, Jr.) である。当時、上院特別委員会副委員長
として事件を追及した際の質問、「大統領は何を知って、それをいつ知ったのか。」 "What did
the President know, and when did he know it?" は大変有名である。広島と宮島視察
訪問同行の際、食事などを一緒にさせてもらったが、大変温厚な紳士だったことが思い浮かぶ。
2014年6月に亡くなられたことを最近知った。『ご冥福をお祈りいたします』
3) ビル・クリントン(Bill Clinton /第42代大統領 1993~2001)
不倫スキャンダル、いわゆるモニカ・ルインスキー事件(White House Intern Monica
Lewinsky) で下院による訴追決議の後、上院での弾劾裁判の審議がされたが、無罪判決を受けた。
これも余談だが、我々の知っている例の白い建物の『ホワイトハウス』では大統領ほか職員は
そこでは仕事をしていない。その建物が使われるのは、重要な法案を署名するとか、何かマスコミに
アピールするようなイベント・行事が行われる時のみである。実際の執務室群はその建物の地下に
ある広大なスペースである。地下のまさにそのスキャンダル現場に研修で一度だけ入ったことがある‼
現在、米議会(the US Congress) の勢力は:
下院[定数435]は、共和党238、民主党193、欠員4
上院[定数100]は、共和党52、民主党46、無所属2
なので、共和党のトランプ大統領は弾劾の恐れはないはずだが、共和党内部には結構反トランプ議員も多いので事態は予断を許さない。■YS