日中の最高気温は2℃、快晴である。暖かい室内でこれから自転車トレーニングに出かけるかどうか少し迷った。走り始めて直ぐに厳しい寒さに後悔して引き返して帰ってくるか、或いは天候が良いのに出かけなくて夜になって後悔するかである。が、同時に体は既に出かける支度を整えつつあった。ピンクのジャージに身を包み、ウインドウブレィカーを丸めて携帯電話と共にポケットに差し込む、パンク修理キットに水、そして20ドル札一枚にバナナ一本である。すっかりと葉を落した広葉樹の茂る信号の無い森林地帯の道ををひたすら走る。路上の水は凍て付いたまま、崖を流れる滝は白い氷となって輝いている。息を弾ませながら僕は自転車を楽しんでいるのではなくて人生を楽しんでいるんだと感じていた。冬に自転車に乗る事によって、あれ程苦手で嫌いだったニューヨークの厳しい冬が楽しめる様になった事は僕にとっては大きな成長事である。自転車によるトレーニングの成果とは体力の維持と向上だけではなくてこの土地そのものを愛する事が出来る様になった事が一番大きな成果なのかも知れない。